第19話 男としてはクズ以下のゴミ


「なぁアルフレッド、ここらへんにはどんなモンスターが出るんだ?」


「そうだな…さっきのクソデカカマキリぐらいのモンスターしかでないぞ。」


「なら安心だな。」

 

調査に出かけてから1時間ほど、結構な頻度でモンスターに遭遇するも最前列を歩くモダンが冷静に右手に握る剣で斬るので俺の出番はない。精々、モダンに強化魔法を施すくらいだ。


「ところでアルフレッド、アイリスはお前の婚約者なのか?」


「ぶふっ!?…いや、婚約はしてないよ?本人は何故か俺のことを凄いよいしょしてくるけど。」


いきなりなんてことを聞いてくるんだコイツは。デリカシーのデの字もないぞ。


「お前まさか、アレを冗談だと思ってる?」


「え?そうじゃないの?」


だってアイリス=ウィルフォルトは、大将軍の娘であり帝国No.2の剣士。さらに馬鹿みたいに美少女でクッソモテる。そんな天上人みたいな奴が、俺に本気で惚れるわけ無いだろう。


「…ハッキリ言おう、アルフレッド。お前は帝国軍としては超優秀だが、男としてはクズ以下のゴミだ。」


「そこまで言う!?」


「第一、女は軽々しく好きとかいわない。たとえ冗談だとしてもそんな直接的に言うのはありえない。アイリスは本気でお前を好いている。」


「そうか…?」


俺はいまいち、信じられない。自分の顔が良いのは認めるが、俺は人間としてそこまで優秀でも良いやつでもない。少なくとも、アイリスが惚れる要素はないだろう。


「アルフレッド、あんまり自分を下げるんじゃねえよ。お前が自分のことを下げて卑下して大して人間じゃありませんっていうとな、お前のことを好きで、信じてくれてる奴は悲しむんだよ。俺だって、お前が自分を卑下する時、そんなことないだろって言いたくなる。」


モダンは極めて冷静に、俺に事実だけを叩きつけてくる。その時進む足は止まり、俺の頭の中にこれまでの記憶が蘇る。


アイリスとダンジョンに潜った時、「流石だよアル!ボスを一撃!」と褒めてくれたあの言葉に俺は、大した事ないと返した。


入学前、兄様と模擬戦をして引き分けた時、兄様は「誇れアル、この俺と引き分けたのはお前と大将軍の爺さんだけだ」と褒めてくれた。だけど俺は、運が良かっただけと返した。


それ以外にも、俺は自分に向けてられた期待とか好意とか、そういうのをちゃんと受け取ったことは一度もなかった。


そして毎回。俺が自分を卑下して返す時、褒めてくれた相手の表情は沈む。俺はそれを、思い返してしまった。


「で、でも。俺はほんとに、そんな大したやつじゃ…」


「お前が自分を信じてないならハッキリ言ってやるよ。」


モダンは先を歩いていた足を止め、振り返る。そして下を向いていた俺の顔を上げさせ、両肩を掴んだ。


「アルフレッド!!お前は凄い!!魔法だって聖級を六属性も使えて剣術もできる!魔力量は人類初の八桁に到達して、特級犯罪者である蜂の討伐も俺は聞いた!!


だから、お前は凄い人間だ!だからもっと胸を張って、自信を持て!そして、向けられた好意とか期待に『任せろ』って言え!お前はそれが出来る人間だ!!」


モダンは凄い。まだ出会って3ヶ月しか経っていないのに俺のことをこんなに見抜いて、俺に今一番必要な言葉を投げかけてくれる。俺は、心の底から今、震えている。


(ったく…なにをしてんだ俺は…)


俺はアルフレッド=シシリス。黄昏のアルカナ堂々のチートボスキャラであり、作中最強。魔法を極め、魔眼を使い、神器を振るう世界で最も高みに昇れる男だぞ。なのに、向けられた好意一つ、期待一つに応えられなくてどうする。


「だからもう一度だけ言ってやる。お前は凄い人間だ!それでも、期待には応えられないのか!アルフレッド!!」


「……、ッハ。舐めんなよ、モダン。俺を、誰だと思ってる?」


口角を上げ、目には光を灯し、極めて自信満々そうにモダンの瞳を魔眼で見つめる。そして、答えた。 


「俺はアルフレッド=シシリス。帝国学園序列一位の、やがて最強になる男だぜ?期待なんて100でも200でも応えてやる。」


カッコつけてると言われようが構わない。俺がそう返答すると、モダンは満足したかのような顔をして歩き出す。そうして10分ほど北西に向かって歩くと、木々の隙間から巨大な山が見えてくる。


その時、モダンは突然顔を青ざめささせた。俺はなぜか分からなかったのでどうした?と言うと、モダンは剣を引き抜き、目の前の木たちを一斉に斬り落とし景色を良くする。その先に、答えはあった。


『ぐぅぅ………』


「なん、で、【アイツ】、が…」


その先に広がる景色は、まるでそこだけ世界が違うような場所だった。少し拓けた空間で、周りは果実のなる木がたくさんあり、穏やかな空気が流れている。


一つ場違いなのは、その真ん中には穏やかな雰囲気に似合わない全長にして10メートルはあろうかという巨体の、全身を覆う金色の毛と九本の気持ち悪いほど大量の魔力を含んだ尻尾が特徴な『狐』がいた。


黄昏のアルカナの世界には、世界的に名が知れ渡った名前を持つ十体のモンスターがいる。彼奴らはユニークモンスターと呼ばれ、世界中で恐れられている。


「【金鐘のベガ】…なぜ、ここに…」


ユニークモンスターの一体。500年も前に魔大陸を破壊して回り、500年前の魔大陸VS中央大陸の戦争において中央大陸側に大きく貢献した奇跡の獣【金鐘のベガ】がそこにはいた。


その黄金の瞳は、こちらをしかと見つめている。


「逃げる…のは、無理だよな…」


ユニークモンスターは、黄昏のアルカナの原作でも未だあまり触れられていない存在。完結する前に転生したのが不幸を呼んだのか、俺はこのモンスターの事を全く知らない。だが、こうして見ただけで次元が違うことくらいは理解できる。


モダンは体を震わせ、立つので精一杯という様子だ。しかし逃げ出さず、俺の瞳をしっかりと見つめこう言った。


「なんとか、できるか…?」


モダンはさっきこう言ったとはいえ、アイツはやばい。だから逃げ出しても良いとだけ伝えてきた。だが、俺の返答は決まっている。


(怖い、逃げたい、帰りたい。そんな気持ちでいっぱいだろ、モダン。俺も、同じだ。でもな…俺のほうが、お前より強いんだ。なら、俺がやるしかないだろ。)


「『任せろ』」


俺はそれだけ言い残して、ベガに向けて歩み寄る。ベガは未だ不動の姿勢を貫いていて、瞬き一つしないで俺を見ている。


俺の知っているユニークモンスターへの知識は世界に十体いて、それはもうものすごく強いってことくらいだ。でもこうして相対すると、コイツからは明確な殺意や悪意は感じない。だが警戒されているという感じでもない。ならば、戦闘に持ち込まないことだって可能なはずだ。


『……』


その時、ベガはその四本の足を持って立ち上がった。俺は動きを止めず、そのまま歩み寄る。するとベガは、俺の耳、いや紫宝龍の耳飾りをじっくりと見つめた。


「耳飾りが、どうした?」


『……』


ベガは耳飾りを見つめたあと、視線を自分の足元に向けた。そこに置け、という意味での解釈であっているだろう。俺は、耳飾りを外して、ベガの足元に置いた。すでに冷や汗で背中びっしょりである。


『……………』


ベガは無言のまま、背を向けた。なにをするんだ?と俺が疑問を抱くと奴の九本の尻尾が全て、耳飾りを覆った。めっちゃモフモフな尻尾だが、本体の威圧感と言うか神聖感が強すぎて触る気にはならない。


「ッッ!!!」


その時、尻尾から視界を埋め尽くすほどの眩しい光が放たれる。だが、それには悪意が感じられずどこか暖かく、優しい雰囲気を醸し出していた。


そして光が収まり、耳飾りから尻尾が外れる。すると耳飾りについている紫色の宝石は半分が紫、もう半分は黄金色になっていた。


「これは…?」


耳飾りを手にして、再び装着する。すると脳内に耳飾りの詳細が溢れ出てきた。


◆◆◆


前奏:紫金龍狐の耳飾り 


身体能力−10000

魔力+10000000


特殊能力

 《紫宝》

一日一度発動可能。生命力10%以下になった際自動発動し全回復。10分間身体能力、魔力共に二倍になる。


《金鐘の祝福》

一日一度発動可能。金鐘のベガのお気に入りの証であり、魔力を最大1000000まで溜め込み、死亡時に全消費して蘇生。蘇生された時、一等星の鐘が鳴り響く。

この装備は、アルフレッド=シシリス以外には装備できない。



◆◆◆


(なんかすっっっっごいのになってる…)


身体能力−10000とか、一般人が装着したら何も動けなくなるのでは?まぁ俺しかつけられないんだけどさ。というか、今の俺でも素の身体能力は10000下回るから常に身体強化発動してないといけないんだけど?


だが、魔力+10000000はやばい、やばすぎる。それに金鐘の祝福の鐘って効果、単純な蘇生効果に加えてこの一等星の鐘が鳴るって効果が気になる。


『ぐぅ…………』


俺が耳飾りの効果を一通り確認すると、ベガは満足したかのように寝転び眠る。モダンは安心してしまったようで、木の陰から深いため息が聞こえた。


「ありがとうございます…」


俺は反射的にソレを口にして、ベガの元から去る。モダンと合流すると彼は、大丈夫か!?と異常なくらい心配してくれたが、俺はこう思った。


(ベガは…人間の敵じゃない…)


そんな事を、俺は考えながら周辺調査を再開するのだった。






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