第17話 盛り上がれ!夏合宿!


「はいということで、明日から忙しくなるからしっかり準備しとけよ。」


エル先生はそれだけ言うと教室から出ていく。あの人いつも何してるんだろうか?授業とホームルーム以外寝てんのか?


「アル〜!!!」


「飛びかかってくるな痛い…!!」


ホームルームが終わると、アイリスが思い切り飛びかかり抱きついてくる。その喜びようは、普段よりも高い。


「だってさだってさ〜!明日からの夏合宿!一緒の班だよ〜!!テンション上がるね〜!!」


「わかったから離れろ…!!」


そう、今は7月の初旬。この時期に黄昏のアルカナ最初の大イベントである夏合宿がやってくる。明日からの1週間、俺たちは帝都の付近にあるモンスターで溢れる森の中で生活するのだ。


夏合宿とは、簡単に言ってしまえば自分たちだけでモンスターあふれる森の中で生活することでサバイバルの経験や、自然下での戦闘。さらに持久力を上げることが目的だ。しかし当然それだけで終わるわけはなく、原作ではアレンとルージュの元にたくさんの異変が訪れる。


「それにしても、アルフレッドとアイリスが同じ班で、私とアレンが同じ班なんて、凄い班分けですわね。」


「まぁな。他の二チームにも、レンやリューズにジーク、さらに最近序列を一気に上げたルターまでいる。心配はいらないだろ。」


「そうよね。」


夏合宿はダンジョン学習の時と同じく、一班5人の合計4班に分かれて行う。班員はダンジョン学習のときと別で、今回の俺の班員は全員序列20以内のエリートたちだ。


(にしても楽しみだなぁ…このイベントで初めてアレンとルージュはキスするんだもんな…)


この夏合宿イベント、黄昏のアルカナにおいてかなり読者からの評価が高いイベントである。アレンとルージュに襲い掛かる異変を、2人で力を合わせ解決し、絆を深める。そして気持ちの高まったルージュから名言が飛び出し、2人はキスすることで力を高め、異変の正体を倒すのだ。思い出すだけでゾクゾクしてきた。

 

「ねぇアル。僕、少し嫌な予感がするんだ。」


「嫌な予感…っていうと?」


「わからない。だけど、この夏合宿で良くないことが起きる気がする。」


話しかけてきたアレンの表情は暗いものだった。いつも明るく、僕がなんとかするよ!と言っている彼にしては珍しい陰りの表情だ。


(すごいなアレン、この後に起きる異変を感知しているのか?とんでもない危機察知能力だな。)


だけど今回のイベントで、アレンは成長する。それこそ今の俺に並ぶ、もしくは追い越されてしまうくらいに。だからこそ、イベントを回避させてしまうわけには行かない。


「大丈夫よアレン。私の婚約者なんだから、もっと堂々と自信持ちなさい!」


「る、ルージュ〜…」


「それにアレン!あなたは、アレンが思ってるよりよっぽど凄くて強くてカッコいいのよ!今回の夏合宿も、頼りにしてるわね!」


「そう言われたら弱いなぁ僕。分かった!任せて!」


ルージュが元気いっぱいにアレンを励ます。コイツ凄すぎない?あれだけ陰るアレンは初めて見たのに、一瞬で持ち直らせたぞ?流石は婚約者ってことか…


「まぁ、こっちにはアイリスがいるからいっか。」


「んにゃっ!?いきなりどしたのアル!?ついにデレたの!?」


「ちっげえわ料理人レベルで料理上手いアイリスがいるから、合宿も苦じゃねえなって思っただけだよ。」


「な、なんだ…でも任せてよ!私のカレーをお見舞いしてあげるんだから!」


ものすごく顔を赤らめたアイリスをからかいつつ、次の授業の準備をする。俺自身も、明日が楽しみになってきた。




∇∇∇



「なぁアルフレッド…いや、女たらしよ…」


「そのあだ名は不快だぞモダン。だが、あながち否定はできねえのが悔しい所…」


「ふっふ〜ん!愉快愉快!!」


翌日。朝早くわざわざ屋敷まで迎えに来たアイリスは、俺に朝ごはんを作ってくれた。我が家の料理人顔負けの料理を作ったご褒美として現在、俺はお姫様抱っこをしながら夏合宿を行う森へと向かっている。こうして俺を女たらしと馬鹿にするのは、同じ班員で器用貧乏が二つ名の男モダン。序列は19位とSクラスの中では低い方だ。


「まったく…アルフレッド《女たらし》はお盛んだねぇ…」


「言い方に含みがあるし同い年とは思えないくらい姐さん口調だなカグラ!?」


アイリスのほっぺたをツンツンしながら馬鹿にしてくる桜の模様がある和服を着ためっちゃ浮いている女子はカグラ。長い黒髪に赤のインナカラーがあり、その序列は7位の超エリート平民。レンとは違い自信に満ち溢れている。


「アルはお猿さん?」


「そうさね、ルビー。ルビーも狙われるかもだから気をつけな。」


「違うけど!?てかそんな節操なしじゃないけど!?」


おサルサ呼ばわりしてくるのは、少女漫画から出てきたような純真無垢のロリっ娘ルビー。こんなちんちくりんな見た目で天然だが、序列は12位で得意の炎魔法で一回教室を焼け野原にしている。


俺、アイリス、モダン、カグラ、ルビーの5人が今回の夏合宿を共にするメンバーだ。それぞれ個性が強いけど、頼りになる良いメンバーだと思う。


「ハイお前等!やっと着いたぞ!お喋りはここまでだ!」


1年生学年主任も務めるエル先生の一言により、1年生200人が全員静まる。各自、笑みを浮かべているものもいれば緊張している様子もある。


「今日からの1週間は、序列に大きく影響する!心して挑め!以上解散!!」


いつも通り、言葉が少なすぎるエル先生の仕切りが終わるとそれぞれ動き出す。俺たちはひとまず固まり、作戦会議をすることにした。


「ってことでどうする?」


「まずは拠点の作成だろうね、食料はモンスターを狩ればいいし、水は魔法が使えるやつが作れば良い。拠点さえ作れば、そこを起点に1週間生き残ることも容易さね。」


みんなで円を作るように座り込み作戦会議が始まると、会議の半分がカグラの一言で終わらされた。有能すぎるのも困りものだよ姐さん。


「となると、問題は拠点をどうするか?だな。」


「土魔法で作るのもアリだけど、それだと味気ないよね!」


モダンが作戦会議を終わらせないためにも、拠点をどうするか質問すると、アイリスが魔法で作るのは簡単すぎてつまんないと答えた。


「でも、俺たち建築の技術なんて無いから無理じゃね?」


「そこでアタシの出番だよ、アルフレッド。アタシの家族の住んでいるログハウスは、アタシが作ったんだからね。」


「もうカグラだけでよくないすか…」


少し前にカグラに連れて行かれ見に行ったカグラ家は、日本だったら作るのに数十年かかりそうな巨大な木造建築だった。アレを一人で、しかも半年で作り上げた彼女の腕を信じて拠点はみんなで作ることになった。


「とまぁ、生き残るための作戦はこんなもんだな。次は…」


「序列を上げるための、作戦?」


「そのとおりだルビー。確実に今回の夏合宿で序列の変動が起きる。俺としても序列を守りたいし、班で協力して序列上げを行うと思う。」


「といっても、具体的にどうするんだ?」


序列を上げるための作戦、俺の言葉に反応したモダンは手を挙げた。そんなの、決まっているじゃないか。


「俺が思うに、評価に繋がるのはモンスターの討伐数も大したモンスターの強さ。そしていかに長く快適にサバイバルができているか、そして協力性などだろう。


故に、美味しいご飯をアイリスに作ってもらい、みんなで協力して出来るだけ強いモンスターをたくさん狩る。これが一番評価になる。」


「まぁ、シンプルだけどそうだろうね。幸い、アタシたちは一人でもこの森で生きれるくらいには力がある。手分けしてモンスターを狩り尽くすのが一番だ。」


俺の結論は、原作を読んだ上での結論だがカグラはこの場で考えそれに賛同した。やっぱり頭の回転が早すぎるだろこの人。


「そんじゃあ作戦開始だ、森入るぞ〜。」


「チーム女たらしの夏合宿の始まりだ〜!!」


「アイリス後で絶対にしばく!!!」


お姫様抱っこを要求し続けるアイリスをあとでしばくことを誓い、森へと入っていくのだった。





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