第16話 序列制度
「すっご…」
根暗で口数が少ないレンが、あれだけ戦意をむき出しにして啖呵を切り、見事黒竜の首を落としてみせた。
正直、震えた。原作だとレンはそんなに目立つキャラではなかったし、あれだけの熱量を目にするとどこかワクワクしてしまうのだ。
「はぁ…はぁ…」
レンは息を切らし座り込む。だがその顔には達成感が溢れていて、脳内で自分のステータスを確認しているのだろう。その瞬間は、この世界で最も楽しい瞬間だ。俺はそんなレンに歩み寄り、右手を差し出した。
「凄かったよ、レン。この戦い、間違いなくお前が主役だ。」
「ッ!!」
レンは俺の手を強く掴み立ち上がる。その顔は驚きと歓喜、そして達成感でいっぱいという様子だ。
「なぁ、アルフレッド…俺は、凄いか?」
「それはもう、とんでもなくすごいさ。」
「じゃあ、次はお前に勝てるくらい、頑張る。」
最後にそう言ったレンは剣を仕舞い、皆を呼び寄せて宝箱の方へと歩いていく。みんなもどうやら、宝箱が気になるようだ。
「それじゃ、宝箱を開けよっか。」
「そうだな。」
「たっからっばこ〜」
推奨レベル70の高難度ダンジョン。その宝箱はランダムで複数個出現し、そのどれもが間違いなく最高級のアイテムや武器だ。魔傑の荒剣を手に入れた時は、一本で最高級の武器だったから一つだったが今回はたくさん出てくるだろう。俺達は期待を胸に宝箱を開けた。
「これは…」
ジークの驚きの声と共に、たくさんの戦利品が姿を現した。
◆◆◆
○《黒竜の鱗》
○《黒竜の牙》
○《黒竜の爪》
○《筋力上昇の腕輪》
○《風輪の脚当》
○《視力強化ゴーグル》
○《上位竜の魔石》
○《黒竜剣》
◆◆◆
「はいはーい!私は黒竜の鱗、牙、爪が欲しいでーす!!」
「まぁ、それが妥当だろうな。魔導具師であるお前なら上手く加工できそうだ。」
「異論なし。」
「みんなで掴んだ勝利だからね、仲良く分配しよ!」
まず最初に声を上げたのはエミリアで、魔導具作成に使えそうな素材を所望した。誰もそれに異論はないようだ。
「じゃあ、僕は視力強化ゴーグル?っていうこをもらおうかな。狙撃に役立ちそうだ。」
という理由でリューズが視力強化のゴーグルを手に入れた。今回はリューズの狙撃のおかげで攻撃の起点を作れたし当然の結果だ。
「俺は筋力上昇の腕輪が欲しい。元よりパワー型だからな、今回はあまり役立っていないし多くを所望するのも気が引ける。」
「そんなことないよジーク。それなら俺は上位竜の魔石を貰おうかな、色々使えそうだ。」
「あ〜!アルフレッド君が悪い顔してる〜!」
「それは生まれつきだから諦めろ。」
ジークは筋力上昇の腕輪、俺は上位竜の魔石。強いモンスターの魔石は武具製作や魔道具作成にかなり役立つ。そして残ったレンは…
「俺が、黒竜剣?って、やつ…?いいの…?一番高そうだし、レアそうだけど…」
「むしろ、今日のMVPはお前なんだからレンが貰ってくれなきゃ困る。」
「そうだよレン〜?いや〜すごかったな〜?僕を守るために飛び出してブレス防いじゃってさ。それでいきなり走り出したと思ったら、もう黒竜の首を切っちゃっててさ…!」
そう早口で語るリューズは、喋り終わるとなぜか少し顔を赤らめた。はは〜ん?さてはそういうことか〜?さっき守られたので惚れちゃったのか〜?
「だから、ありがと…!かっこよかった。」
「ッ!?う、うん。無事で何より…」
その後変な空気が流れたのは言うまでもないが、報酬分配が終わったので、俺たちはダンジョンから出ることにした。
∇∇∇
翌日。ダンジョン学の結果は俺たちチームDが一位で、二位はアレンチーム。3位がルージュのチームで、4位がアイリスチームとなった。アイリスは悔しがっていたが、彼女にリーダーやはり厳しかったのだろう。アイリスはリーダーというより、強いリーダーのもとで暴れまわるほうが良いタイプだ。
「でさでさ!アルフレッド君はその後なんて言ったと思う?」
「なんて言ったのですか?」
「『なにかあったら、俺が守る。』だよ〜!!くぅ〜!カッコつけおって〜!!」
教室に入ると、困惑するルージュに向けて昨日のダンジョン実習のことを興奮しながら話すエミリアを見かけた。アイツなにしてんの?
「エミリア、ルージュが困ってる。離れなさい。」
「あ〜!噂をすればのアルフレッド君じゃ〜ん!もしかして話聞いてた?」
「誰がカッコつけだ爆弾魔。黒竜の素材はどうしたんだ?」
「昨日から色々構想を練ってるんどけど…って誰が爆弾魔じゃこの色気爆誕イケメン!!」
「褒めてんのか貶してんのかギリ分からないライン攻めて来んの辞めろ。」
相変わらずのテンションの高さだが、コイツとの会話はスムーズに進むのでまぁ良い。ルージュは少し顔を歪めながら話しかけてきた。
「ねぇアルフレッド、どうして昨日は一位になれたの?悔しくて昨日寝れなかったのだけど?」
「そこまで悔しいはもはや凄いな、ただ皆の力を把握し合って連携を取っただけだよ。あとはルートを絞って最低限の接敵にしたりとか。」
「ぐぬぬ…あなたはダンジョンのルートを知っていたの…?」
「少し前に踏破したことがあるからね。流石に覚えてる。」
「ずるい!!!」
てな感じで、ルージュとも大分仲良くなれた気がする。原作の彼女よりも大分子供っぽくなってるのはさておきだが。
「ハイお前等席に着け。大事な話がある。」
俺たちが談笑していると、ホームルームの時間より早くエル先生が教室に入ってきた。先程まで騒いでいた俺たちも大事な話と言われれば座るしかあるまい。
「一つ重要な報告だ。初のダンジョン学習を終えたお前たち一年生も今日から【序列制度】の中で生活して貰う。」
(ついにか!!)
ついにやってきた。帝国学園が帝国内で最も難しい教育機関と呼ばれるゆえんたる制度、序列制度。俺は思わず立ち上がりそうになる。
「せんせ〜、序列制度って〜?」
「安心しろ、今から説明する。」
アイリスが気の抜けた雰囲気で質問をすると、エル先生は気合を入れてニヤけながら説明を始めた。
「序列制度ってのは文字通り、お前たち生徒を戦闘力や知力、その他パラメーターで評価して序列をつける制度のことだ。序列が高ければ高いほど、その総合力が高いことになる。」
ここまでは、名前からおおよそ推測できる内容だ。だが、一味違うのはここからである。
「だが、2年生に進級できるのはこの序列制度における、序列100位以内の者だけだ。」
「「「「「「「ッ!!??」」」」」」」
その時、教室にざわめきが起こる。だがまぁ当然だろう。簡単に言ってしまえば、この200人のうち100人、たった半分しか進級できないのだから。
「もっと言えば、三年に進級できるのは100人中の上から序列50位、4年に上がるには25位、最高学年である五年に上がるためには序列10位以内になる必要がある。」
「先生、それ以外は退学になるのですか?」
ありえない、と言いたくなる説明を受けた女子生徒の一人が先生に質問をする。返答は、NOだ。
「いや違う、進級争いに敗れた者たちは敗れた者たち同士で再び同じ学年をやり直し、そのまた半分が選ばれる。それの繰り返しによって、進級することができる。」
つまり、成長を止めた者から脱落していくというわけだ。そして、成長しきれなかった者たちを掬い上げる制度まである。正直残酷ではあるが、よく考えられたルールだと思う。
「お前たちの制服を見てみろ。」
先生の言葉によって全員が己の制服を見る。その右胸ポケットになにかカウンターのような表示され、そこに数字が現れる。
あるものは51、あるものは24、あるものは121とそれぞれ数字が違う。故に、この数字は現時点での自分の序列を示す数字である。
そして、俺の序列は…
「現序列一位、この学年のトップに君臨するのは【魔眼の英雄】アルフレッド=シシリス!」
俺の右胸ポケットに表される数字は一。それを見たみんなは驚くものもいれば、呆れるものもいた。だがほとんどの人物は、称賛を浮かべていた。
「やっぱりな。」
「絶対そうだと思った。」
「さ、流石…俺も、負けない…」
各々が色んな反応をしていた中で、レンの序列を見てみるとそこには5と示されていた。普通に序列5位は凄くないか?
ちなみに、二位はアレン。三位はアイリス。四位はルージュ、五位がレンである。この一位から四位までは実力と知名度が拮抗しているから、いつ入れ替わりが起きるかわからない。
「ぐぬぬ…四位…ですか…」
「私はアルに負けるのは良いけどアレンに負けるのはなんか嫌だな〜」
「あ、あはは…ごめん…?」
ルージュは相変わらず悔しそうな顔をしているが、アイリスはアレンに敵意丸出し。アレンは笑って誤魔化しているが、俺を見る瞳は戦意に溢れていた。
(なんだよアレン、その目。めっちゃワクワクするじゃねえか。)
原作でのアレンは本来、優しく争いを好まない。だがこの世界では、2年前のパーティーで俺がアレンのことを刺激したせいか闘争本能が強くなり、戦闘大好きのバーサーカーになっている。
「それじゃあ報告は終わりだ。精々頑張って授業受けて、進級するんだな。」
そう言ってエル先生は教室から出た。これが黄昏のアルカナ、学園編での最大のギスギス要素序列制度である。
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