第15話 モブキャラだって


「いくらなんでも…」


「デカ過ぎないかな?」 


レンと後衛のリューズが、ダンジョンに入って5分と経たずに遭遇した、金の鱗を持つ10メートルほどのドラゴン、ゴールドラゴンに完全にビビっている。いやリューズはレンを面白がってるだけだが、確かに威風はまさに竜って感じだ。


「ジークは上がって。レンはジークの補助と後衛に来た攻撃をカバー、リューズは狙撃で足を狙え。」


「「「了解!!」」」


一体一体がレベル60を超えるドラゴンは、レベルで勝ってるとはいえ一対一で戦えば時間が掛かる。だからこそ、一番最初に踏破するなら連携による高速討伐が望ましい。


俺の指示通りに動いたジークは剣を引き抜いて最前列に出てドラゴンのヘイトを買い、その間にレンは炎魔法で妨害。リューズはドラゴンが隙を見せた時に撃てるよう炎の中を顕現し狙いを定めている。


『グオオオオオ!!!!』


ドラゴンが叫び、最前列のジークに巨大な腕を振り落とす。ジークはそれに反応し直剣を落とされる腕に合わせて滑らせ、威力を全て殺し受け流す。なかなか見事な受けの剣だ。


「あらよっと。」


『ぐおっ!?』


たちまち放たれるのは空を切り裂く炎の狙撃、それはドラゴンの右前足を吹き飛ばし、バランスを崩す。


「【炎風招来剣】」


中衛で警戒をしていたレンは跳躍し、バランスを崩したドラゴンの頭部に魔法を付与した剣戟を叩き込む。レベル60超えなだけあって、ドラゴンの頭部周辺の鱗はあらかた消し飛びドラゴンはふらつく。


(美味しいところは頂くぜ)


「【短距離転移】」


レンに完全に吹き飛ばされたドラゴンの向かう先に転移し、白大剣を構える。白大剣に付与する魔法は聖級風魔法【嵐騎風極エンリル】。超速超破壊力広範囲を実現する風魔法。図体のでかいドラゴン相手にはもってこいの技だ。


「喰らえやァッ!!!」


『グオオオオオ!!??』


抜き放たれる白大剣から、破壊の嵐騎が放出される。それはドラゴンの上半身全てを吹き飛ばし、経験値をパーティー全員に分配される。


(俺がトドメを刺すだけでいいし楽だな。)


「よし、連携もスムーズで良い感じだ。レンも積極的に魔法を放って良い。この調子でやっていこう!」


「「「「応!!」」」」



∇∇∇




「よっしボス部屋一番乗り!!」


「ぜぇ…ぜぇ…やったな…アルフレッド…」


「レンが一番疲れやすい位置だからな、少し休憩するか?」


「大丈夫、だ。お前にばっか、良いところ見せられない。」


2時間もすると、ドラゴンとの遭遇は10回程度でボス部屋に辿り着けた。5回目以降はパターンが確立されてしまいただの作業になったが経験値稼ぎにはなった良いだろう。


(ここのボスは俺も苦戦したからな。魔天を使えば勝てるが、下手したらこいつら巻き込むしそれ以前にみんなのレベルアップにならない。それはナシだ。)


「よし、じゃあ行こう。準備はいいな?」


「「「「もちろん!」」」」


頼もしい返事を聞いた後、俺はボス部屋の入口となる巨大な黒い扉を蹴り飛ばした。魔傑発動時の身体能力は20000超えだ舐めんじゃねえぞぉ!


『グオオオオオ!!!!!』


広大な石のフィールド、周りには巨大なろうそくのようなもので明かりが灯されており、真ん中に全長にし15m程度、全身を黒い鱗で覆ったドラゴン。ブラックドラゴンが佇んでいた。


「フォーメーションA!!」


俺が叫ぶとジークは前へ、リューズとエミリアは後ろへ下がりその間にレンガ入り、ジークとレンの間に俺が入るフォーメーションになる。するとブラックドラゴン…長いから黒竜と呼ぶが、奴の口が大きく開かれ、そこから黒い炎ブレスが放たれる。


「【水楼の堅牢アクアリム】!!」


聖級水魔法水楼の堅牢にて、全員を高魔力による防壁で囲いブレスを防御。さすがに、これをジークが受ければ瀕死で済んだら良い方だ。


「【炎霊狙撃ファイアショット】」


ブレスが止んだあと、すぐさま放たれる狙撃。それは黒竜の左前足を削るにしか至らなかったが、バランスは崩れた。


「【雷刃剣】」


「【壊破滅撃】!!」


そして動くレンとジーク、レンは飛翔し黒竜の胴体を電流の刃で切り刻み、ジークはパワーを持って右前足を思い切り斬りつけた。


「下がってください!!」


その時、エミリアの声が響き前衛たちは下がる。俺が前衛たちの消耗した体力を治癒魔法で癒やすと、エミリアは奴の左前足に一つの爆薬を投げつけた。


『グオオオオオ!?!?』


チュドーンという効果音が鳴りそうな爆破が響き、奴の左前足は消し飛ぶ。これは魔道具というよりただの兵器だが、良い武器だ。


「【極炎の威吹イフリート】」


俺は白大剣に魔力を集約し高火力の聖級炎魔法を起動、瞬間、黒竜もそれを察して口内に再び破壊を齎す黒炎ブレスを溜め込む。


だがその時、黒竜はわずかに笑ったような気がした。


『グオオオオオ!!!!』


「なっ!?」


俺の方を向いていた奴の顎は、少し後方へ狙いが定められる。そして放たれる黒炎ブレスは、後衛、リューズの元へ。


(ヤバいヤバいヤバい!!魔法の起動が終わって俺は動けない!!)


十中八九どころか、アレをリューズが喰らえば即死だ。俺の顎から冷や汗が垂れ落ちた瞬間、死をもたらすブレスは放たれた。


「やめろォォォォ!!!!」


俺の叫びは虚しくも届かない。放たれたブレスは一直線にリューズの元へと放たれ、彼女は抵抗虚しく即死…


とは、ならなかった。


「ぐぅぅぅ…!!!」


「レン!!!」


リューズの前に立ちふさがり、剣に上級の水魔法を付与し黒炎ブレスと鍔迫り合いをする男がいた。男は苦しい顔をして、痛そうな声を上げてなお、そこから引こうとはしなかった。



∇∇∇     レンside     ∇∇∇




「それじゃ、まずは自己紹介だな。」


そう軽く言ったアルフレッドに、俺は驚きを隠せなかった。アルフレッドの家はシシリス侯爵家という、帝国の中で3本の指に入る貴族。ハッキリ言って、平民出身の俺とは家柄も強さも人格も別次元なのに、アイツはこれっぽっちも偉そうにしないで俺と向き合った。


ダンジョンに入る前、アルフレッドは俺のことを褒めた。レベルが高いのは、努力の証だと。魔法と剣を織り交ぜた戦闘スタイルは難しいのに、確立できていて凄いと。


だが俺は、酷くそれにムカついた。なぜならコイツは俺よりもレベルが高くて、俺より高度に魔法剣士スタイルの戦闘ができるからだ。そんなのは、主役の戯言にすぎない。


「炎風招来剣」


俺の全力の剣は、金色ドラゴンの鱗を剥がす程度にしかならなかった。対して、アイツの放つ斬撃は金色ドラゴンのデカい上半身全てを吹っ飛ばしちまうくらい凄かった。


そして、今この時も、レベル70の黒竜の必殺技であるブレスを軽々防いで俺たちに攻撃の機会を与えた。まるでアイツは、俺たちのお守りをして強くなるお手伝いをしているみたいだった。


(ふざけるな…ふざけるなよ…!!)


舐めるな。俺だって血の滲む努力をして剣を振って、魔法を撃って、ダンジョンに通って、間違いなく同学年の中では最高級のレベルを手に入れた。なのに、俺は保護対象なのか?


そんな時に、黒炎ブレスの標的が後衛のリューズに向いた。最もリューズに近かった俺の体は勝手に動いており、その動きをした。


「ぐぅぅぅぅ…!!!」


黒炎ブレスを水剣で受けると、その馬鹿げた熱量とエネルギーに苦しめられる。アイツはこんなものを、軽々と防いだ。それはどうしようもなく、俺とアイツの差だ。


(だからどうしたッッ!!!俺はレン!!努力で天才を、主役共を引きずり落とす脇役!!)


「モブキャラだってなァ!!主役になれるんだよォッ!!!」

 

人生で初めての咆哮に、自分でも驚きだ。だが今は、それでいい。


暴れ狂う魔力を、強制的に制御する。自分の体じゃないみたいに、嘘みたいに大量の魔力が溢れ出てくる。今の俺なら、できるはずだ。


「穿てッ!!【フェネクスレイブン】!!」


地水火風4属性に加えて、この国で俺しか使えない闇属性魔法を組み合わせた五属性魔法が剣に宿り、剣は紫がかった色に変化する。


次の瞬間、剣から紫の光線が放たれ黒炎ブレスを押し返し、奴の頭部を貫通する。俺はそのまま駆け出し、跳躍。暴れ狂う魔力を思うがままに解放し剣を振るう。


「墜ちろォォッッ!!!」


『グオオオオオ!!??』


頭部まで跳躍した俺は腰だめに剣を貯め、横薙ぎに一閃。俺とは思えないほどの速度にて振るわれた剣は、太く硬い奴の首を一刀両断した。





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