第12話 原作スタート


「アルフレッド様、こちらを向いてください。」


「うん。」


「次は左です。」


「うん。」


メイドであるリーシャの言いなりになりながら、メイクや髪型のセット。そして事前に渡された『制服』に着替える。


「うんうん、すごくカッコいいですよアルフレッド様。」


「流石アル!!カッコ可愛くて最高!!」


そして鏡の前に立った俺を、リーシャと兄様が絶賛する。少しおこがましいがさすがは絶世のイケメンキャラのアルフレッド、俺の目で見てもバケモン級にかっこいい。これでまだ10歳なのだから驚きだ。


「それじゃ行こうかアル、【帝国学園】に。」


帝国学園。黄昏のアルカナの舞台であり、帝国貴族のほぼ全員がこの学園に通う超エリート校だ。少ないが優秀な平民もおり、その内の一人がアレンでもある。


そして俺はもう10歳。今日が帝国学園の入学試験当日であり、今日この日から黄昏のアルカナはスタートする。正直、ドキドキして昨日は眠れなかった。


「兄様は首席で合格していますよね?」


「あぁ、だが、俺の学年に優秀なものは殆どいなかったからな。なぁに安心しろ、アルならどんな強者がいても首席を取れるさ。」


「そうですかね…」


帝国学園はもちろんというべきか、帝都の中に存在する。故に1週間ほど前からすでに帝都におり、今は卒業生である兄様と共に学園へと歩いて向かっている途中だ。


今年の入学試験には俺の他に、世界で唯一の神聖魔法の使い手である皇女殿下、ルージュ=バスターに英雄アレン。大将軍の娘であり、10歳にして【剣聖】の称号を持つアイリス。他にもたくさんのメインキャラたちがいる。まだ会うことのできていない、最後のヒロインも…


「たしか、試験は学力試験と実技試験、最後に面接ですよね?」


「あぁ、だが上級貴族は確定で受かるからな。ただ親に言われて通うだけの者はそこまで気合を入れていないのが現状だ。」


「面接が一番の不安ですね…」


「大丈夫さ、なんてったってアルは超カッコ可愛いからね。」

 

爽やかな笑顔でそんな事を言う兄様に不安しかないけど、俺は前方にある建物を見て意識を切り替える。


あまりにも巨大すぎる校舎に、華やかな中庭。校舎へ続く道のりにはいくつかの銅像が建てられており、その中には兄様の姿もある。


「帝国学園に、ご到着だ。」


兄様がそう言葉を告げると、体に鳥肌が立つ。ここが黄昏のアルカナの舞台であり、ここで起きる出来事の全てにワクワクして、胸の鼓動が止まらない。


兄様はそんな俺を見て微笑んだあと、頑張れと一言置いていき家に戻る。兄様は副将軍のため忙しい立場だ。仕方ない。


(試験は学力試験からだから、ひとまず校舎に入ろう。)


俺が空いている門をくぐり抜け、桜らしき花びらを1枚掴んだその時、上から声がした。俺は上を見上げて、顔を引き攣らせた。


「やっほーアル!!久し振りだね!!!」


「お前、どこに乗ってんの…」


桜の木の頂上付近の窪みに、腰まで伸びた長い白髪と蒼い瞳が特徴的な美少女がいた。会うのは半年ぶりくらいだが、アイリスは変わらないようで一安心。


「どうせなら一緒に試験受けようよ〜!」


「まぁ良いけど、お前あそこにいつからいたの?」


「昨日の夜から!だって楽しみで寝れなかったんだから仕方ないよね!!」


テンション鬼高お化けのことは置いておいて、アレンとルージュはどこにいるのだろうか。2年前のパーティーでかなり知名度は上がったはずだし、二人が歩いていたら騒ぎになるはずなんだけど。


そういえば、2年前のパーティーで死闘を繰り広げたことにより貴族間での俺の評価は割と良くなった。平民たちの間では未だ魔眼の悪魔と呼ばれているようだが、ルージュの声掛けあってか貴族からはアレンと同等の英雄扱いだ。ボスキャラだから少し気が引ける。


「アルは受験票何番?私21番!」


「俺は56番だから、試験会場は別だな。」


「え〜!」


「え〜じゃないの、合格したらまた会おうな。」


「うん!絶対合格する!!」


そうして大袈裟なくらいに笑う彼女は、いつ見ても輝いてるようだ。う〜ん、原作ではあんな感じではなかったんだけど…まぁいっか。


俺は受験票51から60番が集まるE校舎へと入る。そこに知り合いはいなかったが、教室に入り自分の番号の席につくと、不思議と集中力が高まった。


「よし、首席目指すぞ。」


俺は珍しく気合を入れて、入学試験へと望むのであった。




∇∇∇     教師side     ∇∇∇




試験開始から5時間が経過し、その時点で、教師たちは頭を抱えていた。


「今年は豊作…」


「っていうレベルじゃないだろこれは…!」


若い女教師ラグリエルと、剣術の男教師レイブンが試験者たちの結果を見て体を震わせ顔を青ざめる。それを見た胡散臭い見た目の青年エルフの学園長はハッハッハと笑っていた。


「皇女殿下、学力試験満点に実技95点、面接満点って…」


「英雄アレンもやばいぞ、学力だけ85と落としているが実技と面接は満点だ。」


「いやいや、剣聖アイリスなんか実技の試験官で元へS級冒険者のグラフロス先生倒しちゃったよ?」


教師たちは今年の生徒たちに驚愕を隠しきれない。だが今紹介されたどの人物よりもやばい人物がまだ、面接を控えていた。


「魔眼の英雄アルフレッド。座学は解答よりも正しい答えを書き120点、実技はグラフロス先生を殺しかけて120点…おまけに500万まで魔力を測定できる測定機が壊れるほどの魔力量。」


「彼は、正しく化け物だね。」


教師たちがアルフレッドにもはや恐れをなしていると、学園長が口を開き化け物と語った。そんな時に、面接室の扉がノックされる。


「失礼します。」


「どうぞ、お入りください。」


女教師ラグリエルが入るように命ずると、扉が開き一人の黒髪で紫色の瞳を持つ少年が入ってくる。その身から感じる覇気はもはや、歴戦の英雄のものと勘違いするほどだ。先程まで実技試験をしていたからか、少し殺気立っているようにも見える。ラグリエル含め学園長以外の4人の教師は恐怖した。


「それでは面接試験を始めます。まず、お名前は?」


「アルフレッド=シシリスです。シシリス侯爵家の次男で、通り名として【魔眼の英雄】と恥ずかしながら呼ばれています。」


レイブンが名前を尋ねると、お手本のような回答が返ってくる。続いて、メガネを掛けた魔法専門の教師が質問する。


「なぜ、学園に?」


「はい。学園には経験豊富で教え上手な指導者の皆様からの教えを受けるのと同時に、同世代のライバルを見つけ研鑽を積むことを目的に入学したいと考えています。」


教師たちは少し驚く。既に生徒どころか教師すらも凌駕する力と知力がありながら、こんなことを言えるなど、上級貴族らしからぬ回答だったからだ。


そんな中で、女教師ラグリエルは俯いていた。正直、まだ23と若いラグリエルからしたらアルフレッドを始めとした自分より優秀な子供たちに自分が教えられることなどないと、自信をなくしてしまっていたのだ。そんな心境により、教師として、面接官としてあるまじき質問をしてしまった。


「あなたはっ、自分より下の人間に教えを請うのは、嫌ではないのですか?屈辱では、ないのですか?それほどの力を持ちながら弱者に縋るなど、必要ないのではないですかっ?」


「ちょ、ラグリエル先生!?」


そんな質問をしたラグリエルに、他の教師は戸惑う。だがアルフレッドは、冷静に答えてみせた。


「屈辱も何も、俺は先生方より自分が優秀などと思っていませんよ。」


「なっ!?そんなわけが!?」


「そりゃまぁ、少しは自分の力に溺れたりもしますし自慢もします。ですが俺は魔眼に頼り切りです。魔法の発動も近接戦も、魔眼がなければなにもできません。それに加えて言葉遣いは悪く、人の気持ちにも疎く気遣いなど出来ない。メイドがいなければ、禄に髪もセットできません。そんな適当な男が、学園の教師などという大変なお仕事をしている先生たちを見下せるわけがないでしょう。」


淡々と自分の欠点を述べるアルフレッドに、ラグリエルは言葉を失った。これだけの完璧超人にも欠点があるのだという驚きと、簡単に自分が優秀ではないと言い切る寛容さに感心したのだ。


「俺は今、多くの人に助けられてここにいます。そして、俺はなんでもできるわけではありません。着実に自分の力を伸ばし、大切なもの(魔眼)を守るためにこの学園に来たのです。」


「っ…、そう、ですかっ…」


(てか早く面接終わらせてくれ…俺すごく腹減ってるんだわ…)


ラグリエルは情けなくも、泣きそうになってしまっていた。自分が遥か年下の子供に諭されていることに強く情けなさを感じていたが、それでもそれ以上会話をすることはできなかった。


その時、アルフレッドによってラグリエルの自信は回復した。そして、例え自分が生徒たちより劣っていようとも、自分の教えられる全てを持って、生徒たちに向き合おうと、覚悟を決めたのだった。




∇∇∇




「ふ〜、なんとか乗り切ったな。」


翌日朝、気持ちのいい朝である。昨日はなんとか入学試験は終わり、実技試験では試験官を殺しかけて危なかった。危うく入学どころか犯罪者になるところだった。


(それにしても、面接はやばかったな。)


あの女性教師、いきなり自分より下の人に教えを請うのは嫌じゃないの?とか聞いてきたから驚いた。そんなんで嫌気が差すなら、学園なんて来ないのにな。


てか、魔眼剥奪イベントを回避するには俺自身が強くなるのと同時に俺以上の強者を仲間につけるのも必須だ。


「さて、結果発表を見に行きますか。」


俺はいつの間にか部屋に襲来したリーシャによって諸々の準備を済ませてもらい、再び学園へと向かう。学園の門の横には張り紙が張り出されており、そこに人が群がってることからアレが結果発表なのだろう。


俺は努めて冷静になりながら、その結果発表の紙を覗いてみた。するとそこには、なんとも嬉しい結果が載っていた。


「学力実技共に、120!?面接が95で、総合得点が335で…首席…!!!」


俺は思わずガッツポーズしてしまった。だが嬉しいものは嬉しい。どうやら次席はルージュで295のようだ。アレンは面接で落としているみたいだな。


「君がガッツポーズなんて、珍しいものだね?明日は雪かな?」


「まだ春だぞバカ、お前は何位だったんだ?アイリス。」


オレガ喜んでいるのを見て、あいも変わらず桜の木の上から茶化してくるアイリス。彼女は俺に話しかけられると桜の木から飛び降りてきて、俺の肩の上に肩車するような形で飛び乗ってくる。


「私は4位だったよ、悔しいなぁ。学力試験?が60点だったからなぁ…」


「確かに馬鹿だもんな。しょうがないさ。」 


「なんか今日当たり強いね!?」


俺はアイリスを肩車から引き剥がして、後ろに感じた気配に振り返る。そこには、2年前より少し大きくなった金髪の平凡そうな顔の少年と、人形のような顔と焔色の瞳が特徴な美少女が立っていた。


「久し振りだね、アル。」


「あぁ、2年ぶりだな。アレン。」


俺達はすぐに握手をする。その手は剣だこまみれで、あれから想像を絶する研鑽を積んだ事が分かる手の平だ。


「首席おめでとうございます、アルフレッド。」


「ありがとうな、ルージュ。」  


素直に祝福してくれるルージュに感謝を述べると、悔しいです、と返ってきた。そうして主人公とヒロイン2人に囲まれると、俺は改めてテンションが上がる。


ようやく、原作がスタートするのだと。随分ストーリーは乖離しちゃったけど、俺の大好きな黄昏のアルカナが始まるのだと。そう考えるとなぜか、心臓がうるさくなったような気がした。



―――――――――――――――――――――



ようやく第一章が終わりました〜。ここまでで40000文字くらいですかね?第二章ではついに学園編がスタートします。本来悪役のアルフレッドが主人公サイドにつくことでストーリーがどう変化するのか、【蟲】はどう動くのか、もう一人のヒロインなどなど。お楽しみに。



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