第11話 主人公と悪役


「ふぅ…!!」


今のは危なかった。蜂が本気を出したのか、奴の全身からは金色のオーラが立ち昇っており前に立つだけで足が震える。そんな俺に襲い掛かった紫クナイを、一人の少年が切り落とした。


(おいおい待てよ…!!めっちゃくちゃ熱い展開じゃねえか…!!!)


「ごめん、遅れたけど、参戦するよ。」


そう言って俺の前に立つアレンの姿は、お世辞抜きで格好良かった。まさに主人公、世界はコイツのために回ってると言っても良いほどにその後ろ姿は頼もしかった。


『ガキが1人増えただけ。何も変わらない。』


本気を出した蜂は冷徹な声音で、数十本もの紫クナイを連続で投擲する。さっきは初見だから対応できなかったが、その速度はこの瞳で一度見た。もう見えるが故に、容易に斬り落とす。


俺よりも凄いのはアレンだ。魔眼を持っていないのに、アレンは余裕を持ってクナイを弾き駆けだした。


「ハハ!!」


俺は気づけば、笑っていた。当然だろう?何回も何回も読み直してその度に好きになっていった主人公、俺の推しであるアレンと今共闘しているのだ。世界の英雄となる男と!悪役である俺が!!


「アレン!!対応してみせろッッッ!!!!」


俺はそう叫び走り出す。未だ六属性魔法の弾幕や重力による行動阻害は止めないが、蜂は俺を睨みつけるとそのクナイを投げてくる。


その瞬間、蜂の目の前まで駆け出していたアレンと、クナイを特定された俺の位置が逆転する。アレンは困惑しつつもクナイを切り落としたが、最も対応できていないのは蜂だ。


「間抜け晒してんじゃねえぞォ!!」


『ぐっ!?』


意表をついて振り抜いた白大剣は、蜂のクナイによる防御を粉砕し右腕をゴリゴリと砕き吹き飛ばす。その先にいるのは、誰よりも熱い主人公様だ。


「折角のパーティーを台無しにした罪は重いぞ!!!」


アレンの全身からは虹色の光が輝いていて、時間が経つたびにその林は増していく。今も吹き飛ばされた蜂を、神剣による連撃で追い込み続けている。


(流石主人公、追い込まれれば強くなり、その暴力的な力を持って悪役を斬り伏せる!!) 


俺は白大剣を大上段に構え、アレンに向けて突撃。蜂は何を血迷った?と不思議な表情を浮かべているが、俺がアレンに向けて白大剣を振り下ろす所で全てを理解したようだ。


俺は再び、蜂を混乱させた【空間入替ディメンションパレット】を発動。今度はアレンと蜂の場所を入れ替えることで、アレンに向けて放った一撃はすでに回避不能な段階で蜂へと入れ替わりで叩き付けられる。


『ぐぅぅ…!!??』


だが、蜂のレベルは80。入れ替わる寸前に防御しようとクナイを交差させていたことにより、大剣の振り下ろしをなんとか防ぐ。どれだけアルフレッドがチートで、アレンが主人公でもこの馬鹿げたレベル差は苦戦を強いてくる。


(どうすれば…!?)

 

蜂は剛力によって大剣を跳ね除け、俺の首めがけてクナイを振るう。だが、割り込んできたアレンの剣戟によってクナイは落とされ、蜂の頬から鮮血が舞う。


あと一手、あと蜂を追い詰める一手が欲しい。そうしたら俺の最大奥義によってトドメを刺せる。


そんな事を考えていると、姉様が張っている結界の中から一人の少女が飛び出してきた。


「私が、アイツを止めます。」


「駄目だルージュ!!君をが殺されたら僕も彼も責任を問われ処刑される!。それに、君を危険にさらしたくない!!」


「ですが、アイツを倒せなければこの場の全員が死にます。それに私、守られるだけの女にはなりたくありませんの。」


結界から飛び出してきたのは、赤い髪と燃えるような焔の瞳を持つ皇女殿下ルージュ。その時俺は気付いた。彼女が持つ力を使えば、勝てるかもしれないと。


「分かった、皇女様。なら、アンタの力に全てを掛ける!!」


『そろそろ、邪魔していいかな。』


俺が蜂の方を向いた瞬間、飛来する20ものクナイ。その全てがアレンと俺に切り落とされる。蜂は相変わらず苦い表情のままだ。


「気張れよアレンッ!!正念場だッ!!」


「うんッ!!」


短距離転移にて蜂の目の前に移動、素早く反応しクナイを振り抜く奴だが、空間入替にてアレンと入れ替わり、アレンはクナイを弾く。その隙に俺は後ろから飛びかかり、蜂の背中に僅かながら鮮血を舞わせる。


そこから繰り返すのは短距離転移と空間入替による変則的な攻撃。それに加え奴の重力を定期的に重くしたり軽くすることで行動を阻害し、防御を緩め攻撃に転じた瞬間、離れてアレンと魔法による一斉射撃を開始する。


戦闘IQの高いアレンだからこそ、この変則的な入替による連撃に対応できる。この戦術は、俺が兄様に勝つために考えたものだが、兄様には完封されてしまった。


だが今は、アレンがいる。そして、誰よりも世界に祝福された【神聖の巫女】がいる。


蜂は魔法による一斉射撃を嫌い、亜空間から数百本もの赤クナイを取り出し、まるで空襲の如き爆撃を繰り出す。しかしそれは、アレンが神剣に炎を纏わせて放った炎斬撃によって相殺される。


馬鹿げた物量を一気に放った蜂には、僅かな隙が生まれる。そしてそれを見逃すほど、俺の忌み嫌われてきた瞳は温くない。


「やれェェッッ!!!ルージュ!!!!」


「はいッ!!【天使の羽衣エンジェルコート】!!!」


思わずタメ口と呼び捨てで呼んでしまったが、意味は伝わった。ルージュが術を発動させるとアレンと俺の体はどこか温かい光の羽衣に包まれる。


(ヒロイン特権の超バフ!!身体能力と魔力、魔法威力その他諸々を5倍にも引き上げる!)


そうしてアレンと俺は一瞬、目を合わせる。その瞬間、アレンの神剣からはさらに強い蒼光が宿り、白大剣は全てを漆黒へと変え、周囲の魔力を全て吸い込む。


(魔天で集めた魔力を全て、魔法に!!!!)


『な、おま、やめ…!??』


蜂は逃げようとする。しかし、既に周りは俺の頼りになる姉様が結界で囲っており、逃げることなど不可能。俺とアレンは微笑み視界を、奴へと向け、一斉に奥義を行使する。


「【英雄の一撃ブレイバー】ッッ!!!!」


「【極炎の威吹イフリート】ッッ!!!!」


アレンは蒼光を解き放ち、俺は極炎を解き放つ。蒼光と極炎は互いを調和し混合し、魔を焼き尽く蒼炎となり結界中を大爆発で包みこんだ。


聖級炎魔法、極炎の威吹。解析は半分程度しか終わっておらず、発動できるか怪しかったが、上級の理論をなんとか駆使して発動。街一つを容易に破壊するほどの熱量とエネルギーを持った魔法を魔天で集めた究極の魔力と共に放出した。


さらに主人公たるアレンの必殺技であり、自身が受ける期待や愛、友情で威力が増す英雄の一撃が組み合わさった攻撃は、あの姉様の結界を破壊し、帝城の一室を全て吹き飛ばしてしまった。


「はは…やったな…」


「僕たちが…勝った…!!」


土煙どころか、瓦礫や全てが晴れるとそこには、全身大火傷大量出血、両腕を失い気絶している蜂の姿があった。周りの貴族たちは姉様が死ぬ気で守ったようで生きてはいるが、腰を抜かしている様子だ。


「アレン!!」


「ルージュ、大丈夫かい?怪我はしてない?」


「うん、全然大丈夫。それよりアレンのほうがボロボロじゃない。」


戦いが終わると、イチャイチャタイムが始まってしまった。アレンは表面上の傷は見えないものの、最後の一撃で魔力を使い果たしたようで、地面に倒れ込んで動かない。意識を保っている方が凄いくらいだ。だからといって、目の前で膝枕してキスするのらどうなんですかね?


「助かったよ、アレン。お前のおかげでアイツに勝てた。」


「いや、僕は最初、動けなかった。ルージュのピンチに、何もできなかった。そんな中、最初に動いて皆を守った君こそ、英雄だよ。」


ったく、この主人公め。かっこいいこと言いやがる。でも、不思議と悪い気はしないな。一緒に死線を乗り越えたからか?


「そういえば、名前を聞いてないや…」


「そうだな、俺はアルフレッド《ボスキャラ》。アルフレッド=シシリスだ。」


「良い、名前だね。アルフレッド、よければ、僕と友だちになってくれないかな?僕、友だちがいないんだ。」


「そりゃ可哀想だな、俺も友達がいないからお互い様だ。よろしくな。」


「うん、よろ、しく…」


そんな会話を最後に、アレンは意識を失った。魔力切れによる気絶なので、心配せずとも時間が経てば起きるだろう。


「私からも、感謝を申し上げます。シシリスの次男、アルフレッド=シシリス。あなたのおかげで、アレンも私も、貴族たちも助かりました。」


「皇女様にそう言われるのは光栄ですが、いいのですか?俺は傲慢で女癖の悪いと評判の魔眼の悪魔ですよ?」


「命の恩人を蔑称で呼び、お礼もしないなど皇族として失格です。それこそ、そのような噂に踊らされ本当のあなたを知らなかったこと、お詫びします。今後はルージュとお呼びください、それと敬語はいりません。」


「それはちょっと…」


「私、自分より人間として上の人に敬語使われるのは嫌です。こう見えて私、わがままなんですよ?」


(どう見てもわがままですよお嬢さん…)

 

ルージュはそんな困ったことを言ってきたが、まぁメインキャラクターにこう好かれるのは悪い気はしない。もう原作とはかけ離れてしまったが、それも悪くはないだろう。


「兄様は…大丈夫かな?」


俺がそんな事を考え、ぶっ壊れた一室の端から帝城の中庭を見下ろすと、そこには首を落とされた大男と、疲労困憊なのか座り込む兄様と何故かいるアイリスの姿があった。


「あ〜!!アル〜!!」


「兄様、苦しい。」


俺がふつうに何十メートルもある高さから飛び降り、中庭に着地すると疲労で疲れ切っていたはずの兄様が元気よく立ち上がって抱きついてきた。


「良かった〜アル!!アルも勝ったんだな!」


「えぇ、これでも武闘派シシリスの一員ですからね。アイリスも、戦ったの?」


「もちろんさ、この場で君と君の兄様の次に強い自信があったからね。」


「アイリス君がいなければ俺は負けていたかもしれない。だからアル、アイリス君は婚約者として最適だぞ!!強いし!!」


「あ、あはは…」


絶対体力なんてすっからかんで魔力もほぼゼロに近いはずなのに、元気な2人を見てなんだか一安心だ。取りあえず、襲撃は終わったと思っていいのかな。





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