第9話 平和に終わるわけもなく


「ちょっと緊張してきた…」


「大丈夫だよアル!アルならパーティーにいる全員瞬殺できるからね!」


「物騒なこと言わないで?それと兄様と姉様は無理だよ?なんなら他の上級貴族も一線級の戦力を持ってるし、瞬殺はできないからね?」


「あはは!!大将軍令嬢は冗談を言ったのに真面目に返答するとは、アルも随分好戦的になったものだな!兄様は嬉しいぞ!」


「え?これ冗談なの?」


翌日、皆で外交用の仰々しく煌びやかな衣装に着替え、髪型やメイクもバッチリしてパーティー会場の帝城に向かう途中だ。あと決して俺は好戦的じゃない。


「それにしても、昨日のお風呂は楽しかったなぁ!!アルってば私の裸をジロジロ見てきてもう!まったく男の子なんだから〜!」


「ジロジロ見てもないし、まだ8歳の子どもの裸に興味はないんだが?」


「うっそだ〜!でも、アルの体は引き締まっててカッコよかったよ〜?」


「お世辞はよせやい、アンタのお父さんのほうがよっぽど鍛えられてるだろ。」


アイリスも8歳にしてはかなり美少女だし、発育も悪くはないがまだ子供だ。全然興味はわかないかな。


「あぁ…アルがメス猫に取られてしまう…」


「兄さん、殺してもいいかしら?」


「二人共物騒なことはやめてね!?」


「騒がしぞお前等、そろそろ帝城だ。しっかりしろ。」


父さんの言葉に、全員が静かになりよそ行きの緊張感漂う上級貴族になる。こういうのを見ると、普段ふざけてる兄様や姉様も、お偉いさんなのだなと感じる。


そして5分もすると、他の建物や貴族の屋敷とは一線を画す大きさの城。それも、超魔法金属アダマンタイトをベースにした堅固な城だ。その門番に、父さんが話しかけた。


「シシリス侯爵家一行だ。皇女殿下のパーティーに馳せ参じた。」


「これはこれは、三剣の現当主様にお会いできて光栄です。どうぞ、お通りください。」


門番にいる二人ほどの兵士は、上級貴族よりさらに上の権力を持つ三剣の一家、シシリス侯爵家勢揃いを見て顔を真っ青にしながら門を開ける。すると中庭には、たくさんの兵士が整列していた。


(さすがの防衛体制だな。名だたる上級貴族と皇族が揃ってるし、万が一が起きたら帝国の存続に関わるし当然か。)


兄様たちは流石というべきか、兵士たちの整列を目にも掛けず堂々と歩いていき、帝城の中へと入っていく。その途中、アイリスが耳の近くで囁いてきた。


「なんか婚約者みたいじゃない?」


「ふざけるな、それ他の人に聞かれたら結構ヤバいぞ?」


「叫んじゃおっかな〜どうしよっかな〜」


「よしここで締め上げよう」


「お前たち、静かにしろ。」


「「すいません」」


アイリスが100%悪いのだが、父さんからのお𠮟りは怖いので謝っておく。そこから10分ほど絵画や芸術作品が展示されている帝城内を歩き回り、一つの巨大な部屋へと入る。


「おぉ…」


そこには、大量の料理と酒、そして豪華絢爛な服や飾りつけを纏う貴族たちがいた。どうやらまだ皇族はいないようで、各自の挨拶回りといった雰囲気だ。


(漫画で見たキャラたちがたくさんだ…!)


俺は密かにテンションが上っていた。いやしょうがなくない?主役級のキャラたちではないとはいえ、漫画にでてくるキャラたちを生で見れてるんだよ?


「おや、お久しぶりですな。シャクス殿。」


「リュクス伯爵か、去年の魔物暴走スタンピード以来だな。」


パーティー会場に入ってからすぐに、一人のイケメンマッチョが声をかけてきた。その後ろには俺と同じくらいの男の子もおり、その名前的にシシリス家より一つ下の階級のリュクス伯爵家だろう。


「後ろにいるのは、あの【魔眼の悪魔】かな?」


「「「あ゙?」」」


リュクス伯爵が俺の瞳を覗いたあとそう口にすると、家族一同の声色がそれはそれは怖いものへと変わる。


どうやらこの世界、というか黄昏のアルカナにおいて魔眼は忌み嫌われているのだ。まぁ魔眼は闇属性の力で、基本的に人類の敵の魔族が扱うものだからな。血統主義の貴族からは特に嫌われている。


だが、腹が立つのも事実だ。


「大変失礼しました。俺はアルフレッド=シシリス、シシリス侯爵家の次男でございます。」


「知っているとも、シシリスの失敗作殿。」


「ご存知されていたようでなにより、ところでリュクス伯爵。スタンピード後に伯爵に貸し出した防衛ゴーレムは如何ですか?」


スタンピードとは、魔物たちが集結し暴走を引き起こすこと。規模にもよるが、一つの領地を破壊するほどに凶悪なものだ。それが去年このリュクス伯爵領に出現し、シシリス侯爵家は兄様と俺を差し出しなんとか沈めた。この際、伯爵に防衛用にと俺が土魔法で作成したレベル30相当のゴーレム300体を貸し出したのだ。


「それはもう役立っているが、それがどうしたのか?」


「あのゴーレムの命令権は未だ俺にあります。俺の命令次第で、あのゴーレム300体が貴方の領地に牙を向くこともあるということを、お忘れになってはいませんよね?」


「なっ貴様!?この私を脅しているのか?子どもの分際で!?」


「いえいえ、ただの事実確認ですよ。それだけです、失礼いたしました。」


俺はそれだけ告げ終えると、父さんの後ろに戻る。伯爵はプライドを傷つけられたのか顔を真赤にしながら去っていった。


「アルって結構、負けず嫌いなんだね?」


「いやいや、ちょっとムカついただけだよ。それに俺がいかなきゃ、兄様か姉様がアイツを木っ端微塵にしそうだったし。」


だから本当に腹が立っただけではないぞ?これくらいの侮辱、たくさんされてきたしな。


「それにアイリス、そろそろ本命の登場だ。」


「本命?」


俺がパーティー会場の一番奥、ステージのようになっている場所を指差す。すると部屋内の明かりが消え、ステージの明かりだけが灯される。


そしてそこに現れるのは、赤い髪と情熱的な焔色の瞳を持つアイリスにも並ぶ美少女だ。服装はいかにも誕生日という風に豪華に彩られ、その立ち振舞いはまさに【皇族】と言ったカリスマ性溢れるものだ。


「この度は、私のためにお祝いに参加していただき、誠に感謝いたします。」


そうして口を開いた少女、その声音はどこか心地よく、聴くものを高揚させるようなもので、この場にいるやり手たち全員の注目を引き寄せる。彼女こそがカリスマの権化、神聖の巫女と名高いルージュ=バスターである。


そして俺は知っている。この場所、この時間、このタイミングにて、帝国を揺るがすとてつもない報告が上がることを。


「そして、一つの発表をいたします。バスター帝国第一皇女ルージュ=バスターは平民の少年【アレン】と婚約しました。」


「「「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」」」


この場にいる、俺以外の全ての人物が驚愕を隠せない。なぜなら、皇族という高すぎる立場の人物と平民が婚約するなど前代未聞であり、受け入れがたい事実であるからだ。


「彼をこの場に招待しています。どうか皆さんの、祝福を期待していますね。」


そう言って彼女が微笑む。これはつまり、アレンを消そうとすると皇族としての全権力を持って潰すと言っているのと同義なのだ。そんな言葉と共にステージに現れたのは、パーマがかった金髪が特徴な平凡な少年だった。しかし、彼の身から感じるのは強者特有の覇気ではない、独特なオーラ。まるで、機会を伺いながらヤイバを研ぐネズミの如き姿。


だが俺は知っている。この少年が振るう剣は竜をも切り裂き、魔王を倒し、そしてこの

【アルフレッド《ボスキャラ》】を倒す剣だということを。


「アレンです。よろしくお願いします。」


黄昏のアルカナ、その主人公であることを。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る