第7話 誕生日パーティーへの招待状
「ぐぬぬ…」
転生してから2年。俺は現在8歳となった。シシリス周辺のダンジョンは全て踏破し、レベルは50を突破した。その過程でシシリス領に吸血鬼の女王【アルビス】が襲撃してきたが、兄様と協力し討伐した。
現在は8歳の誕生日で貰った地水火風の聖級魔法の魔導書を読みながら、唸っている。
魔法には強さの階級があり、下から順に初級、中級、上級、聖級、煌級、神級の六段階。上級までは才能がない人でも数十年という長い年月を掛ければ習得できるが、聖級から上は才能がある人が長い年月を掛けて、さらに聖級以上の魔法が使える者に教えてもらえば習得できる。
その難易度は、このチート設定のアルフレッドですら容易に習得はできないほどである。
(だけど、超魔法理論の組み合わせが複雑なだけで一つ一つ解いていけば習得できる。)
手元にある4つのクソ分厚い本たちは、1ページ1ページがとんでもない情報量の塊だ。だから時間はかかるけど、時間さえ掛ければ威力も範囲も汎用性も上級とは比にならない聖級魔法を習得できる。
「原作のアルフレッドすげえな…あれだけ傲慢で傍若無人な態度だったけど、努力はちゃんとしてたんだな…」
原作でのアルフレッド(15歳)は聖級魔法どころかほぼ全属性の煌級魔法を使用して、王都を火の海に沈めていたからな。普通に尊敬する。
(まぁ一歩ずつだな。まずは2年後の学園入学に向けて鍛えなければ。)
黄昏のアルカナがスタートするのは、主人公が10歳になり帝国唯一の貴族学園に平民でありながら入学するところからである。アルフレッドや3人のヒロインたち、その他キャラクターたちも同学年であり、俺が本格的に動き始めるのもこの学園入学からだ。
学園の入学には入学試験を合格する必要がある。現時点でも突破は可能だが、帝国貴族の中でも三本指に入るシシリス侯爵家としては、是非首席を目指したいところだ。兄様と姉様も、その年の首席を取っていたし。
そのためにも、聖級魔法の習得は必須だ。それにこのチートスキルである魔眼の剥奪イベントを避けるにはこんなものではまだ足りない。もっもっと鍛えなければ。
「アルフレッド様〜、アルフレッド様宛てにお手紙が届いております〜」
「ん?なんだ?」
「帝王家からですよ〜」
「帝王家!?」
メイドのリーシャが自室に入ってきて、呑気に告げた言葉に心底驚く。なぜなら、この広い帝国にて最も偉い帝国家からの直々のお手紙が届いたからである。
「えーと、なんだ?」
手紙の中身はこうだ。
【シシリス侯爵家次男、アルフレッド=シシリスよ。貴殿も知っているだろうが、来週は我らが第一皇女ルージュ=バスターの8つの誕生日である。貴族の務めとして、帝国の宝である皇女のお祝いに参上せよ。】
「お誕生日、パーティーだと…」
まさかの招待に驚きを隠せない。俺は魔眼と傲慢な態度で帝国家から嫌われていてもう招待は来ないものだと思っていたのだが。
というかこれはまずい。本来なら学園に入学してから関わるつもりだったのに、というかあまり原作を崩したくない。故に【メインヒロイン】である皇女とは関わりたくない!
「でも、行かないってのも無理な話だよな…」
「いきたくないんですか?アルフレッド様。」
「だってさ、俺って帝国家から嫌われてるじゃん?」
「そうですね。」
「そんなハッキリ言わなくても良くない?」
「ですが、今回のパーティーで見返してしまえば印象が変わりますよ。確実に、今年も平和に終わりませんし活躍すれば褒賞も貰えるかも。」
「そんな上手くいくかね…」
皇族の誕生日パーティーは毎年のように行われているのだが、毎回皇族と貴族の子供が手合わせを行っている。恐らくだが、今年もこれは行われるだろう。
(てか、どこもかしこも手合わせばっかだな。帝国バーサーカーすぎん?)
「まぁ行くしかないだろ。」
「了解です。でしたら旦那様とお兄様、お姉様も向かうとのことですので、同じ場所を手配しますね。」
「え???」
「家族仲良く、いってらっしゃいませ☆」
「個性爆発ファミリーと一緒に5時間馬車の旅は嫌だぁぁぁぁぁ!!!!!!」
俺の嘆きは、通りませんでした。
∇∇∇
「いやぁアルは今日も可愛いなぁ誕生日以来だね元気にしてたかい?」
「は、はい。おかげさまで…」
「そんな他人行儀の態度じゃ兄様は傷ついちゃうぞ?もっとラフにいこうよラフに!」
「そうよアル?なんならラブの方でもいいですわよ?」
上位貴族専用のお高い場所に兄様と姉様、俺と父さんの4人で乗り込んだ。もう何時間経ったかわからないが、すでにストレスが限界まで達してきていた。
「それに手合わせをしたのがもう2年前だなんて信じられないよ!あの時のアルも充分可愛くて強かったけど、今のアルには本気で勝負しても負けるかもしれないな〜!」
「18歳にして副将軍の兄様に、まだ8歳の俺が勝てるわけないでしょう。それに兄様、西の王国との戦争で敵の大将軍の首を取ったと聞きましたよ。」
「おや!情報が早いねアル!そうさそうさ、兄様アルのために頑張っちゃったんだ!今回の褒美も一部アルに渡そうと思ってるから楽しみにしておいてね!」
ブラコンすぎる兄様だが、実はバチクソイケメンで背も高くてありえんくらい強い。おそらくこの時点ではまだ【専用兵器】は持っていないが、それでも帝国トップクラスの強さだ。
(姉様も補助魔法使いとしては帝国トップの実力者だ。姉様の全力の結界には、俺の魔天も防ぎきられてしまう。)
兄と姉が化け物すぎて霞んでいるが、実は父さんも凄い人。父さんは武力ではなく知力に優れており、1代でシシリス侯爵家を帝国の叡智と呼ばれるほど帝国の経済と政治を進歩させたのだ。次期宰相と呼ばれてもいる。
「アルよ、お前に与えた魔導書はどうだ?」
「聖級魔導書の件ですね。アレは凄いです。見たこともない理論や組み合わせが難解で、恐ろしく時間が掛かってしまいます。」
黙りっぱなしで兄弟たちの会話を聞いていた父さんが口を開き俺に質問してくる。どうやら、誕生日で与えた魔導書をちゃんと使ってくれているか気になっているようだ。
「つまり、無理なわけではないということだな?」
「はい、このアルフレッド。シシリス侯爵家の名に恥じぬよう全力で魔導の道を極めます。」
上っ面だけだが、俺が強くなればなるほど家族も喜ぶのなら幸いだ。
「兄様、ここはどのあたりなのでしょうか?」
「現在地は帝都周辺で最も広い平原、ラリア平原の南部だな。あと30分もすれば帝都に到着するだろう。」
「シシリスは帝国最北の地だ。戦争が起きた時、最も外国と距離が近いが故に、強力な兵力が集められている。」
兄様の答えに、父さんが補足を加える。ちなみにだが兄様と姉様だけで歴戦の兵士数万人規模の軍隊に匹敵する力なので、シシリスの街は帝国の最硬の砦と言われている。
(ん?魔力探知に反応?)
俺は起きている間は常に周辺三キロ以内に魔力を薄く張り巡らせ生物を感知できるようにしているのだが、今突然魔力に反応があった。
「兄様。」
「あぁ、アルも気付いたようだな。」
どうやら、兄様と姉様もこの反応には気付いたようだ。二人は少し険しい顔をしている。俺は馬車の窓を開け、自身の象徴である魔眼を見開き前方を確認した。
「白く長い髪に、蒼い瞳。そしてあの剣…まさか…?」
そこにいたのは、一人のまるで人形のような美しい少女だった。身長は俺より少し低い程度だがどこか覇気があり、腰に差している一本の直剣は俺の見覚えを誘った。
宝剣アトランティス。帝国最強の大将軍ライゼル=ウィルフォルトの下っ端時代の相棒であり、ここ最近その【娘】に継承されたという伝説の剣。それをあの少女は携帯している。それはつまり…
「ちょっと行ってくる」
「あ、っちょ、兄様!?」
あの幼さで尋常ではない覇気を漂わせながら帝都に向かって歩く少女に、兄様は突然として走り出していった。そして、その双剣を引き抜き、魔眼でようやく追える速度の攻撃を繰り出す。
帝国副将軍の攻撃。歴戦の猛者でも防ぐことは容易ではない一撃、あのような少女では一発で木っ端微塵になる攻撃だ。だが、結果は予想とは全く異なるものだった。
「何か用かな?お兄さん?」
「へぇ?やるじゃないか、おちびさん。」
三キロなど1秒もいらずにかき消した兄様の一撃は、ノールックで直剣を引き抜き後ろに掲げた少女によって防がれる。その不動の姿勢は、到底少女のものとは思えないものだ?
(やっぱり…あの子は…)
「名前を聞こう。」
兄様がニヤリとしながら尋ねる。すると少女も応えるようにニヤニヤしながら、その口を開いた。
「【アイリス=ウィルフォルト】だよ。不審者のお兄さん?」
帝国最強の大将軍、その娘。そして黄昏のアルカナ三人のヒロインのうち一人、【アイリス=ウィルフォルト】が、嫌な笑みを浮かべて馬車を睨みつけた。
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