第6話 作中5位の実力


「それでは、勝負開始!!」


姉様の声が鳴り響くと、わずかに空気が揺れたような気がした。そしてその初動を、俺の魔眼は捉えている。


「ぐっ!?」


「へぇ、これを受けるなんてやるじゃないか。」


瞬間移動でもしたような速度で駆けた兄様の振り下ろしを、危機一髪大剣でガードする。だが相手は歴戦の猛者、防いだと思った瞬間には嵐のような双剣による斬撃が飛び交い俺の肌は徐々に抉られていく。


(やってらんねぇ!!)  


俺は短距離転移を発動し兄様と距離を取り、魔法陣を展開。炎と空間の槍を大量に飛ばしながら兄様には重力魔法を掛ける。


「ハハハ!!!良い魔法だな!!だが俺に魔法はほとんど意味がないんだ!!」


「化け物すぎませんかねェッ!?」


兄様の取った行動は完全無視。体に炎槍が当たろうが空間をえぐられようが重力を掛けられようが、全てを無傷でこちらに突っ込んでくる。


(兄様のユニークスキル【金剛】、肉体そのものを超強化するスキル。この人に半端な刃物も魔法も一切通らない。特に魔法に対しての耐性が多すぎて、相性は最悪だ。)


「なら、やってやりますよ!!!!」


「近接戦を望みとは良い度胸だねぇ!!!」


兄様のレベルは少なくとも70以上、魔眼がなければ速攻で殺されていたが、魔眼のおかげで兄様の攻撃や動きは見切れる。そして、雷魔法と魔力を張り巡らせることでオート脊髄反射を再現。これにて、兄様の速度に対応する!!


兄様の体がぶれた瞬間、俺の目の前には兄様がいてその双剣を振り切っていた。だが、脊髄反射によって大剣ガードを行い耐える。そして身体能力に任せて大剣を振り抜く。


「良い武器だけど!当たらなきゃ意味ないんじゃない!!!」


「ありますよ!!意味!!」


流石に兄様も前奏:魔傑の荒剣を直撃で受けるのは不味いと判断し後方に引く。だがそこには土と水魔法を組み合わせた泥沼があり兄様の足を取る。


「こんなもの、足止めにもならないなぁ!!」


「それで十分です!!」


だが、兄様は一瞬で抜け出して再度こちらに突っ込んでくる。だが、兄様の上空から落雷が降り注ぐ。


「ハァッ!!!」


落雷による土煙に突っ込み、足元から炎を爆破させて加速。そして最大出力で白大剣を兄様の腹部へと叩き込んだ。


「っ!?本当に人間ですか!?」


「失敬だな人間だ!!」


だが、兄様の肌を少し切り裂いた所で白大剣は止まっていた。鋼鉄のような、否。オリハルコンのような硬さの腹筋によって受け止められてしまったのだ。


攻撃を受け切られたことにより生じた隙、そこにつけこまれた双剣による連撃は俺の肩に加え腹部、そして右股から大量の鮮血を流す事態を作った。


(兄様の恐ろしいところは生まれつきの怪力、なんのスキルも使わずに素の身体能力で20000を超えており、金剛を使うだけで40000にもその身体能力は登る。)


さらに、兄様はまだ舐めプしているのだろう。金剛以外のスキルを全く使わない。それを使えば最大身体能力は100000をも超えるというのに。


「ッハハ、化け物にも程があるぜ、全く。」


これが黄昏のアルカナ、作中5位の実力。金剛無敗のラインハルト。俺はそれを改めて認識した上で、瞳を見開いた。


「なるほど、最後の一撃か。面白い!!」


上級治癒魔法で全身を治癒、そして重力魔法で自分の重力を軽くし風魔法で空気抵抗を軽減。雷魔法で爆発的な加速を生み炎魔法で体温を上げ筋力を増化。


(集中しろ、一発勝負だと思え。)


今できる限りの強化を自分に施し、できる限りのデバフを兄様に与える。兄様はこういう最後の一騎打ちというのが好きだ、避けるなんてことはせずに撃ち合ってくるだろう。


兄様が双剣を2つ重ねた時、双剣はガチャガチャと音を立てて融合し、一本の刀となった。そして、刀からはとてつもないオーラが滲み出ている。


「【喰らいし堕天、煌めく恩光。我が突き立てる刃は神殺しの一撃】」


たった3節の詠唱、初級魔法にすら該当する短い詠唱にて、ソレは完成する。白大剣の色は一瞬にして漆黒へと変わり、禍々しさを前面に押し出したオーラが溢れかえる。


「フレデリカ!!しっかり抑えていろ!!!」


「わかってますわ!!」


姉様の結界はさらに強くなり、兄様は気兼ねなく『撃ち合える』と言った顔をした。そして、俺の魔眼はより一層強く光る。


「【魔天】」


「【金雷剛撃】!!!!!」


大上段に構えた黒大剣が視界を埋め尽くすほどの圧倒的な光を放ち、大気が揺れるほどの轟音をかき鳴らしながら振り落とされた。


対する兄様は、居合の体制から金色の斬撃を繰り出す。だがそんなもの、【核爆弾レベル】の前には塵に等しい。


刹那、大爆発。


ドゴガガゴゴゴゴゴゴ!!!!!という音すら生温い爆発音が鳴り響き、結界中に混沌を齎す。わかっちゃいたが、とてつもない破壊力だ。


到底、この中で生きれるものなど存在しない。そう、これは人間であれば、生き残れる技ではない。


だが、俺の目の前にいる人は、人間ではないのだ。


「兄様…これ、耐える、とか、頭、おかしいんじゃ、ないですか…?」


「言うようになったじゃないか、アル。しかしこれはやられたな。金剛が擦り切れてしまった。」


ユニークスキル金剛は、一日一回所持者が死んでも生き返らせることができる。だが生き返らせると金剛は擦り切れた状態となり、1週間ほど使えなくなる。


つまり、兄様はこうして無傷で俺の目の前に立っているが、一度は死んだということだ。


「って、こと、は…?」


「あぁ、アルの勝ちだ。おめでとう。金剛以外にスキルを使っていないとは言え、これは凄いことだ。」


「「「「「「「「うおおおお!!!!!!」」」」」」」」


結界が解除され、周囲の騎士たちからは大歓声が起こる。なんてったって、彼らは俺と長く訓練をともにしてきたのだ。きっと、兄妹たちの中では一番俺が仲良いはず。


(舐めプされてたとはいえ、勝った…あの、兄様に…)


俺は少し感動してきた。俺がこの世界に転生してきて、今までやってきた努力は無駄ではなかったのだと、そう思えたような気がしたのだ。


「アル、俺に勝ったご褒美に、これをあげよう。」


「ん?なんですか?これ?」


兄様がいつものブラコンムーブに戻ると、俺の耳に紫色の宝玉がついた耳飾りをつける。それを触った瞬間、俺の脳内にその説明が流れ出てきた。


◆◆◆


紫宝龍の耳飾り 

+身体能力5000

+魔力10000

スキル【紫宝】を習得


【紫宝】一日一回発動可能、生命力10% 以外になった際全回復し、10分間身体能力魔力共に二倍になる。


◆◆◆


「兄様!?!?!?」


「今回の戦争の褒美で得た耳飾りだ、大事にしてくれよ。」


「いやいやこんなの貰えませんって。」


「兄からの大事な弟へのプレゼントだぞ?受け取ってくれないとお兄ちゃん泣いちゃう。」


てな感じで、ゴリゴリに押され結局俺のものとなったこのぶっ壊れ耳飾り。身体能力と魔力に補正を掛けるだけで大分ヤベェのに、この紫宝ってスキルはもう国宝級ですやん。


「それに、この手合わせで確信したよ。アルはきっと俺なんかより凄くなる。その時に、兄様のおかげで少しは強くなれたって思ってくれればそれでいいさ。」


「なんだか私だけプレゼントしないのが釈然としませんが、アルの誕生日にでもまた来ますわね。」


「兄様に姉様、今日は本当にありがとうございます。」


姉様がいなきゃこの屋敷吹き飛んでたし、兄様のおかげでこんな化け物みたいな耳飾りも手に入った。本当に感謝しかない。


「あぁ、ではまたな。」


兄様と姉様はそれだけ言い残し、屋敷から出ていった。なんというか自由奔放な人たちだが、俺の信頼できる兄妹たちだなと思った。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る