第5話 兄様姉様、来訪


「こりゃぁ…やってんな…」


俺は訓練場の端にて、つい先日激闘の末入手した白大剣を見て呟く。だってコイツ、もうぶっ壊れてんだもん。


「一日一回だけ、周囲の魔力全部を吸い込んで核爆弾レベルの一撃を放つっておま…ヤバすぎんか?」


この前奏:魔傑の荒剣の特殊能力は主に2つある。1つ目が【魔傑】、装備者の身体能力数値を二倍にする。うん、この時点でマジで壊れ。


んで問題の2つ目が【魔天】。先程言った通り周囲の魔力全部を吸い込んで核爆弾レベルの一撃を繰り出すとかいう、もう何から突っ込めば良いか解らん能力だ。街中で使えばテロリスト認定まったなしだぞこの野郎。


「てか、レベル上がりすぎだろ。一回の戦闘で20くらい上がったんだけど…」


今の身体能力は4000越え、強化魔法を使って7000程度まで底上げした後に魔傑を使えば身体能力14000の怪物になってしまうんだが…ん?魔力が100万超えた?原作のアイツは数億単位だから気にしないで!


「でも本来入手したかった【亡霊の指輪】が入手できなかったのは痛いな…しょうがない、今日もう一回潜るか。」


亡霊の指輪。本来狙っていたレアドロップでせあり、装備者の死を一度だけ防ぎ、防いでから10分間、身体能力魔力共に莫大に増加するアイテム。なお、効果を発動すると破損するが、それでもかなり有用なアイテムだ。


昨日それを入手して、今日から他のダンジョンに行きたかったのだが、無い物ねだりをしてもしょうがない。このバカみたいな大剣が手に入ったことを喜ぶべきだろう。


「亡霊の霊園、もう一回行くか…」


「アルフレッド様!!?大変です!!」


「今度はなんだ!?」


この流れ、父さんの時と一緒なんだけど。そして嫌な予感がするのは気のせいか?もうなんとなくこの焦りまくったリーシャの姿から想像ついちゃったんだけど。


「お兄様とお姉様が!!来訪しました!!」


「やっぱりかよ…」


アルフレッドの兄、ラインハルト=シシリスと姉のフレデリカ=シシリス。アルフレッドと同じで傲慢だがめっちゃ強い兄弟たちだ。だが、1つ困るのが…



∇∇∇



「やぁアル!!今日もすっごく可愛いね!!」


「本当に可愛いわ!!食べちゃいたい!!」


「兄様、姉様、ちょっと、やめ…」


客間に入った瞬間、金髪イケメンと金髪お嬢様の2人に思い切り抱きつかれ、匂いを嗅がれている。そう、この二人。屈指のブラコンである。


「噂で聞いていたけど本当に見違えるほど強くなったわね!!漂う魔力が以前とは別次元だわ!!」


「それにこの逞しい体!!少々強く抱きついてしまい、骨を折ってしまったと思ったが、全然無事でびっくりしたぞ!!」


「は、はは。恐縮です…」


なんとか兄姉たちを引き剥がすこと10分間。向かいのソファに座ってもらい対談が始まった。


「それで、兄様たちはなんの用でここへ来たんですか?」


「父様が自慢してきたのだ、アルが見違えるほど成長していると。だからつい見たくなってしまってな。」


「戦争帰りだから血なまぐさいけど、ごめんなさいね?」


そういうことか父さんめ。てかこの二人16歳にして戦争で将軍級の活躍をする猛者たちでしたわ。そんな人達が弟の前でこんなヘロヘロになるの敵軍からしたら別の意味で恐怖だろ。


「そうだな、ただ会えただけでも嬉しいが、ここは1つゲームをしないか?アル。」


「ゲーム、ですか?」


なにやら悪い顔をした兄様が、人差し指を立ててゲームをしようと提案してきた。


「あぁ、もうアルも六歳だろう?四年後には学園に入学するのだ。今のうちに格上との手合わせは経験していたほうが良いだろう。」


「そ、それってもしかして…」


「あぁ、俺と手合わせでもしようじゃないか。フレデリカ、お前はやるか?」


「私はアルを傷つけることなんて出来ませんもの、やりませんわ。そのかわり、死んだ直後なら蘇生できますので、審判に回らせていただきますわ。」


なんだか手合わせの方向性で話が勝手に進んでいく。この時点での兄様の強さはまだ知らないが、平均レベル50を超える戦場で将軍級の活躍をするってことは、相当だろう。


(でも、前奏:魔傑の荒剣プレリュード・サンブレイクを試すにはちょうどいいかも。)


「分かりました、兄様。それでは訓練場を案内します。」


「物わかりが良いな、素直なのは良いことだ。それではいこうか。」


上機嫌の兄様と姉様を怒らせると反発で何が起こるか分かんないからとは言えないが、スムーズに訓練場までお連れしよう。




∇∇∇





「アルフレッド様、これは一体…?」


「ごめんスーザン、兄様が俺と手合わせをしたいって…」


「そ、そういうことですか…おいお前ら!!アルフレッド様とラインハルト様がお手合わせをする!!場所を空けろ!!」


「「「「「「ハッ!!!」」」」」」


侯爵家の子供が3名、訓練場にいるという異常事態に普通の騎士どころかスーザンでさえビビっている。うん、ごめん。訓練中だったのに済まない。


「ふむ、素早い移動。感心するぞ、スーザン。」


「勿体ないお言葉です、ラインハルト様。」


兄様は傲慢で、弱いものにとことん冷たいが有能なものは正しく評価する。どうやらスーザンと我らが騎士団は兄様のお眼鏡に適ったようだ。


(ここで魔天使ったら屋敷吹き飛ぶよな…)


「お二人共、私が結界を張るのでご遠慮はしなくてもよろしいですわ。」


まさかの援護射撃が飛んできてびっくり仰天。核爆弾クラスの威力を防ぎきれるかは些か不安だがまぁそん時はそん時だろう。


(兄様相手に、出し惜しみなんてしてたら勝てるわけないし。)


「それじゃ、始めよっか。アル。」


我が屋敷の誇る巨大訓練場の中心にて、俺と兄様が10メートルほどの距離を保って相対する。その周りを覆うのは半径100メートル規模の円型の結界。


兄様は腰に差していた二本の直剣を引き抜く。アレこそが、兄様を兄様たらしめる武器である。


「両者、準備はいいかしら?」


「問題ないよ、フレデリカ。」


「はい、大丈夫です。」


筋力増加、速度増加、器用増加の強化魔法を発動し身体能力は7200。さらに炎風を脚に纏うことで速度を更に増加。


そして、空間魔法によって亜空間へと仕舞っていた白大剣を取り出す。【魔傑】が発動したことにより身体能力は14400まで増加する。


(さて、準備万端だ。)


魔傑の王剣ディアブロ以上の難敵、こうして明確な闘志を持って相対すると体が震える。もちろん、武者震いな?



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