第3話 VS騎士団長


「ぐぬぬ…空間魔法の理論、中々に難しい…」


転生してから一ヶ月半、俺は空間魔法の中級に苦戦していた。空間魔法は使えるには使えるんだが、座標特定と魔力操作が結構複雑でどこに転移するのか予測がつかない。だから、座標を特定する理論を組み立てているのだが…


これが上手く行かない。そもそも、空間魔法の使い手など国にいるのか怪しいレベルなため、教わるということも不可能だ。


「アルフレッド様、何かお困りですか?」


「あぁスーザン、ちょっとね…」


そんなこんなで、騎士団の訓練場の端を借りて魔法の練習をしていると騎士団長のスーザンが声をかけてきた。コイツは、アルフレッドの傲慢さに堪えかね、主人公に剣を教える師匠キャラになるキャラだ。それ故に、めっちゃ強い。


「魔法のことで私がお力になれるとは思いませんが、是非聞かせてください。」


「実はな、空間魔法に手こずっているんだ。中々理論が複雑でな…」


「ふむ、空間魔法ですか。それなら、お力になれるやもしれませぬ。」


「本当か!?」


絶対騎士であるスーザンに解決できるとは思っていなかったのに、予想外の返答が帰ってきてびっくりである。すると、スーザンは懐から一冊の本を取り出した。


「中級、上級の空間魔導書です。私が冒険者時代に報酬でもらったもので、是非アルフレッド様にお渡ししたいのですが…」


「…、なるほど、何か条件があると?」


スーザンは珍しく渋ってきた。こやつ、俺が最近行き詰まってるのを見て懐に忍ばせてからやってきたな?


「これからは、騎士たちと一緒に剣の訓練もしてほしいのです。魔法の練習も大事ですが、近接戦を高めるのも、戦闘の上では重要ですよ。」

 

「オッケー了解マジ卍、さっそくやるぞスーザン。」


「ま、マジ卍?」


どちらにせよ、アルフレッドは近接戦もかなりの強さだし、近接戦ができなきゃいずれ死ぬってのも分かる。それに、【神器】を扱うなら剣

も扱えなければいけない。


「それで?俺は何をすれば良い?」


「ひとまず、今の坊っちゃんの実力を測りますので、私と一体一をしましょう。魔法は身体強化のみでお願いします。」


「わかった。」


身体強化を使えなかったら俺は一般5歳児だからな。それはありがたい。


んで、ある程度の説明を終えるとスーザンは俺に木刀を投げ渡してきた。俺はそれを握り、少し後方へと後ずさり。スーザンと俺の間に10メートルほどの距離ができ、周りにはギャラリーの騎士たちが大勢集まってきた。


俺の全身に小さな魔法陣が展開され、上級身体強化魔法を発動。この状態の俺は数値にして身体能力3000にもなる。


そしてその時、騎士のうちの一人がギャラリーを抜け、手を掲げる。どうやら、彼が審判のようだ。


「それでは、よーい。はじめ!!!」


審判の騎士が号令と共に手を振り下ろすと、スーザンは右手に木刀を握ったまま、左手で来いとハンドサインをこちらに送ってきた。


(なるほど、打ち込んでこいってわけね。)


これでも、上級帝国剣技は納めてるんだ。あんまり舐められると腹立つね。


「【疾駆け】」


帝国剣技のアーツの一つ、疾駆け。足に魔力を収束し魔法に変換せず爆発させることで加速する。これでスーザンとの距離を一瞬でゼロにする。


「【閃転斬】ッ!!」


懐に忍び寄った体勢は下段、木刀に魔力を収束し爆発させることで、超速の切り上げをスーザンの顔面めがけて放つ。


「スピード、パワー、共に問題無し。ですか、単純すぎます!!」


「かはっ!?…」


思い切り放った切り上げは、スーザンの木刀によって受け止められる。そして、流れるように切り上げは木刀を滑り体勢を崩され、がら空きの腹部に返しの木刀が突き刺さる。


「次は受けを見せてくだされッッ!!!」


そうして始まる追撃、地面が爆発したかのような音と共に加速したスーザンが放つ斬撃に、俺は切られてから気づく。


(めっちゃ速いが目で追えないわけじゃない!なのに避けられない!!純粹に避けられない体制に追い込まれているんだ!!)


スーザンの行動は恐ろしく繊細だ。ステップや体制、斬撃によって俺の立ち位置を調整し確実に避けられない場所、タイミングに誘導してくる。


とてもじゃないが、人間業ではない。自身の動きで相手を騙し、相手を思い通りに動かし攻撃を当てるなど。


「ッハ!!面白いッ!!」


スーザンは特有のステップを踏み、右手を中段に納める。そして、俺はそれにつられて木刀を中段に構えてしまう。このままだと、撃ち合いにより体勢を崩され、再び腹部に木刀を叩き込まれてしまう。


そして始まる二合の撃ち合い、一撃目でぶつかり合い、二撃目で俺の木刀が弾かれる…はずだった。


「なにっ!?」


「それはもう【見た】!!」


二撃目の撃ち合い、それを木刀によって完全に流す。勢いも、魔力も、全てを受け流しスーザンの勢いを完全に殺す。


そうして見えた隙、俺はそれを見逃さない。


「ここだろォォッ!!!!」


「ふんッッ!!!!」


確実に隙を晒したスーザンに向けて放つ振り下ろしの一閃。俺は価値を確信したが、スーザンの雰囲気が一瞬で変わり、何故か次の瞬間には木刀で一閃を受けられていた。


「ぐはぁっ!?…」


刹那。俺は地面に倒れていた。それもこの魔眼ですら負うことのできなかった木刀の2連撃によって肋骨は何本も折れていた。


そして、スーザンは無傷で立っている。


「合格…と、言うには、私が情けなさすぎますね。最後の一合、お見事でした。」


「そっち、こそ…速すぎない…?」


「すいません、ですが、合格です。この空間魔導書、是非お使いください。」


地面に倒れた俺のそばに置かれた魔導書、俺はそれを見た後、痛みと地面に叩きつけられた衝撃で意識を失った。




◆◆◆



 

「だ、団長…その傷…?」


「えぇ、骨を砕かれましたね。」


スーザンは気絶した少年を、誇らしげな表情で見つめた後、部下の言葉に答える。


スーザンの右腕は、赤黒く腫れていた。間違いなく粉砕骨折だろう。原因は最後のアルフレッドが放った一撃、アレを大人気なく【本気】で防御してしまった影響だ。


「彼はいずれ、歴史に名を残す英雄になる。いや、英雄にしてみせる…」


スーザンは怖い顔をしながらも、ニヤニヤしてアルフレッドの手当をする。そして、それを見ていた騎士たちは「団長こっわ…」「てか坊っちゃんマジヤバくね?」と引いていた。





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