第2話 ツンデレ親馬鹿父ちゃん


「魔力回路の構築はこっちのほうが早いな…てことは、アルデンタール理論と組み合わせれば魔法発動はさらに早められるのか…?」


魔法を使う際、無詠唱+魔法陣展開が最も威力を発揮することがわかった。故に無詠唱と魔法陣展開をどうすれば最大効率で出来るかをこうしてシシリス侯爵家の訓練場で調べている。


さて、転生してから実に一ヶ月が経過した。この一ヶ月は家内の使用人や家族の名前を覚える他にもこの世界のある程度の常識や、魔法の練習。そして、とある作業に勤しんでいた。


◆◆◆


名前 アルフレッド=シシリス

職業 シシリス侯爵家次男

レベル 12/100

身体能力 320

魔力   15020

スキル 《上級炎魔法》《上級風魔法》《上級水魔法》《上級土魔法》《上級雷魔法》《上級氷魔法》《上級治癒魔法》《初級空間魔法》《初級重力魔法》《上級帝国流剣技》《上級強化魔法》

ユニークスキル 【魔眼】【神器の使い手】

称号 【魔眼の申し子】【魔法の申し子】


◆◆◆


そう、レベル上げである。俺はこの一ヶ月魔法の練習の他に剣を習ったり筋トレなどでレベル上げに勤しんでいた。それに、このステータス表示は漫画と変わってなくて助かった。


この世界は割とレベルが一つ違うだけで致命的な強さの差となることが多い。だから、レベル上げがものすごく大事だ。


「身体能力320って、魔力との差が激しすぎるよな…」


ちなみにだが、シシリス侯爵家があるのはバスター帝国と呼ばれる国だ。帝国の一般兵士の身体能力数値が1500から2000ほど、魔力は1000もあれば良いほうだ。


だからこそ、この身体能力320は結構ゴミである。魔力がまだ一ヶ月しか修行してないのにこれだけあるから、身体能力魔法を使う前提の身体能力なんだろう。


「にしても、このキャラやっぱチートだよな…」


本来なら上級魔法など一つの属性を覚えるのに数年を掛ける代物だ。それを一ヶ月で何属性も覚えてしまった。これより上の聖級魔法や煌級魔法は無理だったが、それでもおかしな成長速度だ。


それに、身体能力がクソ低いのに才能だけはあるから剣技も上級まで習得してしまった。上級身体強化魔法を使えば身体能力は補えるし近接戦もバッチリだ。


これも全て、魔眼による補正のおかげだ。魔眼は魔力や魔法に関する全ての才能が天才以上まで底上げされるのに加え、魔眼で見た技や魔法はコピーし自分に反映できる。基礎的な動体視力も異次元なほど上がっている。


「そろそろ、ダンジョンに行きたいな…」


でも、モンスターを倒さなければレベルを効率的に上げることは叶わない。アルフレッドがいくら天才でも、このレベル12の状態でレベル80の相手と戦えば成すすべもなくボッコボコにされるだろう。


だから、モンスターが腐る程いるダンジョンに行きたいのだが、年齢的にそもそも屋敷から出るのが駄目らしい。世知辛い世の中だぜ。


(空間魔法を中級まで使えれば、空間転移で夜中にこっそり行けるんだけどな…)


こ〜んな悪知恵を働かせながらも、無詠唱+魔法陣展開のシステムを考えていく。すると、訓練場の扉が開いた。


「アルフレッド様!大変です!」


「どうした?リーシャ?」


リーシャが急ぎながら俺の元へ駆け寄ってくる。すると、焦りを浮かべながら告げた。


「旦那様が帰ってきました!」


「なに!?」


旦那様、イコール俺の親父だ。父さんは忙しくて次男坊の俺の屋敷に遊びに来るほど暇じゃないはずなんだが…


「今すぐ向かう。客間に通しておいてくれ。」


「分かりました!」


リーシャはそれを聞くと急いで玄関へと戻っていく。シシリス侯爵家はかなり強い貴族なので、次男坊の俺にも一つの屋敷が与えられているのだ。だが長男ではない故に、父さんが来ることはめったに無いはずだから怖い。


 



∇∇∇



 

「失礼します。」


若干震える声で客間の扉を開ける。するとそこには、俺と同様に珍しい黒髪を持ち、まさに貴族と表現するに相応しい威圧感を持った御仁がソファに座っていた。


「座れ、アル。」


「はい、父さん。」


鋭い目つき、余計なことは喋らない口数の少なさが怖さを引き立てる。俺は緊張しながらもゆっくりと向かいのソファに座る。


これが、俺の父さん『シャクス=シシリス』だ。


「それで、俺になんの用でしょうか?」


「……アル、お前が最近、魔法に夢中と聞いたのだが、誠か?」


「は、はい…」


急に呼び出されたと思ったら、予想外のことを聞かれて驚いた。え?それだけ?


「その魔眼、以前より光が増している。」


「そ、そうですか?」


「あぁ、私も魔眼に詳しくはないが、お前自身の力が増している証拠だろう。」


なんだか、厳しい父親ってイメージがあったのにいきなり褒められて少し照れるのと怖い。原作でもアルフレッドの家族関係については触れられてなかったし、正直人となりがわからん。


「魔法の講師、及び戦闘の講師を派遣することもできる。いるか?」


「えと、講師、ですか?」


わかったわこの人、めっっちゃ口下手なだけだわ。威圧感とか目つきで怖い人って勘違いしてたけど結構優しい人だな?


「恐縮ですが、お断りします。」


「理由を聞こう。」


「俺は講師に教わり、決まったレールの上を走るのは遠慮したいです。それよりかは、聖級や煌級の魔導書を所望します。」


なにより、原作知識フル活用の俺より効率的に魔法の練習をできるやつなどいない。だから別に講師とかは要らないんだよな。


「なるほど、ならば検討しておく。」


俺の望みを聞いてふむと考え込んだ父さんは、少し黙ると検討しておくと返答した。その直後、いきなり立ち上がった。


「今日は帰ろう。また来る。」


「了解しました。わざわざこのような場所まで来てくださり、感謝します。」


「良い、ではまた。」


なにやら嬉しそうな表情をした父さんは、足取り早く客間をあとにした。なんであの人ご機嫌になったん?怖いんだけど。




∇∇∇     シャクスSide    ∇∇∇



「良い、てはまた。」


私はシャクス=シシリス。バスター帝国が誇る【三剣】の一家の当主であり、一代で帝国の経済を回復させた敏腕政治家だ。


そんな私にも、悩みのタネはある。それがこの年齢にしてはあまりにも成熟している次男坊、アルフレッドだ。


つい一ヶ月前までは、年相応のイタズラ好きで傲慢な息子だったはずが、この一ヶ月で成人男性の如き成熟さを見せ、魔法の練習や剣技の訓練を行う勤勉さを見せた。そしてこうして相対してわかった。


あの魔眼は凄まじい。文字通り、魔を支配する目だ。いくら私が戦闘員ではないとしても、あの目と視線が交差しただけで身が震えた。本人が穏やかな性格なのが救いとしか言いようがない。


「聖級か煌級の魔導書…か…」


そしてなにより、あの可愛い息子がおねだりをしたのだ。父親として、果たさないわけにはいかない。なんてったって、あの可愛い息子のおねだりなのだから。


(にしても、うちの息子可愛いすぎんか?)


親馬鹿と言われようと、ツンデレと言われようと、私はアルフレッドを愛そう。だが、決して私はツンデレではない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る