クソダサいよ!私の部下
「お前たち、魔族だな!」
「あー。うん。そうなんだけどぉ……」
完全に敵意むき出しの勇者クン。危機管理能力がちゃんとしてて偉い!って褒めてる場合じゃない。
まずは敵じゃないってことを証明しないとね。
と、思ってたらルシアも同じことを考えてたのか前に出た。さすが有能部下だ。
勇者クンは動きのあったルシアの方に剣先を動かす。
「確かに私達は魔族です。しかし、一般魔族で魔王軍に所属している訳ではなく、戦闘意思もありません。どうかここは穏便に話を進められないでしょうか」
「……魔王軍じゃ、ない?」
勇者クンがルシアの言葉を聞いて私達の顔を交互に見る。
よし!感触いいぞ!頑張れ、ルシア!その調子で私の魅力とかも伝えろ!と、内心盛り上がったのも束の間。
勇者クンは、すぐに形相を変えた。
「嘘だ!そっちの背の高い魔族はギルドの指名手配の似顔絵で見たことあるぞ!魔王だな!!」
「……」
オウ・ノー。私、顔バレしてて草。
ルシアの顔がまた絶句してる。私の顔を見て「こいつほんと使えねえな」みたいな表情すんのやめて?
部下に無能扱いされんのは普通にキツイって。
私が引き攣るのと対照的に、勇者クンは鋭く私達を睨んだ。
「遂に現れたな、魔王!僕は勇者シグレ!お前を倒してやる……!」
「え~!ボクっ子なの~!?可愛い~!しかもシグレくんだって~!名前も素敵~!」
「チッ」
「すみません、ふざけ過ぎました。舌打ちしないでください、ルシアさん」
私の部下、怖すぎ。
ルシアはため息をついた後、私と勇者シグレくんの間に立った。
「確かにこの人は魔王です。ですが、先ほども申し上げたように我々に敵意はありません」
「お前たちになくても僕にはある……!みんなの為に魔王を討ち取るんだ!!」
シグレくんは一向に構えを解かない。
んー、聞く耳持たずって感じだね。
本当は話し合いでなんとかしたかったけど……。仕方ないか。
私はルシアとアイコンタクトする。
彼女はそれで理解したようで、頷いて勇者クンと向き合った。
「……話を聞いて貰えませんか」
「断る!」
「そうですか」
ルシアはそっと目を閉じた。
そして、瞼を開けた時には気持ちを切り替える。
「なら仕方ありません。やり方を変えましょう。冒険者の暴走を止める方法は何も一つではありません。冒険者達を勢いづける勇者に、話し合いが通じないというのなら……捕らえるのみ」
「……っ!」
ルシアが戦闘モードに入ったのを勇者クンも敏感に感じたらしい。ルシアが発する凄まじい緊張感に勇者クンは少し震えていた。
彼が喉を鳴らし、ルシアが視線を鋭くする。
まあ、こうなるよね。ルシアとしてはシグレくんの説得に拘る必要はない。冒険者を引っ張る立場の勇者が魔王軍に捕まっとなれば、全体の士気は下がるからね。
えっ?私?私はぁ……説得しかない派~!そらそうに決まってんジャーン!だってぇ、捕まえるとかぁ、野蛮だしぃ。好感度も下がるしぃ……?
「魔王様キモイこと考えないでください」
「……なんでわかった」
「顔がキモかったので」
私は真顔になった。
もうずっとキリッとしとこう、キリッと。シグレくんにもカッコよく見られたいからね!
ルシアもそう思ったのか(絶対違う)、シグレくんと戦う前に息を吸った。戦う前に宣言や名乗りをする前触れだ。
「私は魔王軍幹部それも魔王軍No.2のルシアです。そして、我らが現行魔王軍は歴代魔王軍最強。加えて、この地上に魔王軍以上の武力を持った勢力は一切存在しません。つまり、私は世界で2番目に強いということです」
「せ、世界で2番目……っ!?」
シグレくんが驚きで目を見開く。
ルシアはフフんっ!凄いでしょう!と鼻を鳴らして小さな胸を張った。
いやぁ~、でもなぁ……。
「2番目は盛りすぎじゃない?4番手くらいでしょ」
「や、やかましいです……!嘘は言ってません。立場的には上から2番なので……!」
「うわ。詐欺の常套句だ。引くわ~」
「いい加減にしろお前たち!」
「はい、すみません!!」
さすがにふざけすぎた。私もルシアも勇者に怒られて謝ってる。情けない魔王軍幹部と魔王だ。
シグレくんはそんな私たちに痺れを切らしたのか、剣を振りかぶった。
「いくぞ!」
「……いいでしょう。かかってきてください」
ルシアがやる気満々なので私は下がる。
それと同時に、シグレくんは地を蹴り、ルシアへと切迫した。
「はあっ!」
「……」
シグレくんが振るう剣をルシアは難なく避ける。
だが、シグレくんの剣撃はもっと続く。
「まだまだ!」
「おや。中々いい剣筋ですね。さすがは勇者と言った所でしょうか」
「舐めるな!」
ルシアが挑発し、シグレくんがさらに攻め込む。
次第にルシアも攻撃を加えるようになって、双方の衝突は苛烈を極めた。
……と、言いたいところだが、暫くしたところでルシアが息切れを起こした。
「ゼェ……ハァ……っ!!ちょ、ちょっタンマ!!タンマです……っ!!」
「えぇ……」
シグレくんもあんまりにもあんまりなルシアの状態に軽く引いてる。証拠に隙だらけのルシアに一太刀も入れない。
ルシアはさっきまでNo.2だの息巻いてたのに今は地面と睨めっこだ。……うん!最高にダサいね!
「ゼェ……ハァ……!す、すみません。120年ほど内勤……っ!だった、ので……!た、体力が……!!」
「えぇ……」
肩で息をするルシアにシグレくんも戦意を保てずにいる。
こりゃルシアはもうダメだな。
仕方ない。ここは私が―――。
「あれぇ~?やっぱりアリアちゃんとルシアちゃんだぁ。こんなところで会うなんてぐうぜ~ん!」
「……っ!?」
私は、動くのをやめた。この場にもう一人魔族が現れたからだ。
それもルシアと同じ、魔王軍幹部。
翼を持つ……サキュバスのような身体的特徴を持つ彼女の名は、ユウキ。
ユウキはシグレくんの背後に突如として現れ、シグレくんは突如現れたユウキに驚愕した。
が、それも束の間。
「お前、誰だ……っ!」
「えぇ~?誰でも良くなーい?そんなことより~、えいっ!」
「えっ―――」
シグレくんが瞬きをした間にユウキはシグレくんの腹に拳をいれた。
その一発で気を失ったシグレくん。彼はユウキに抱きかかえられ……ちょっと待てぇ!!
「ちょっ!私、まだシグレくんに触れたことすらないのに~!!そこ変わんなさい!!おい!!」
「あはっ~。アリアちゃん久々に会ってもやっぱ変な魔王様~!」
「こら!!私の愛しのシグレくんを離しなさい!!コラ!!オラァ!!」
ヘラヘラ笑うユウキから私がシグレくんを奪い返そうと奮闘するが、ユウキの方が私より余裕で強いので全く取り返すことが出来ない。
笑ってんじゃねえよ!!クソビッチが!!チクショウ!! などと私は叫ぶが、気にも止めずわざとらしく笑うユウキ。
勇者シグレは、ド淫乱クソビッチ魔王軍幹部野手によって(魔王の監視付き)魔王城へと連れ去られた。
好みすぎてヤバいよ!男の娘勇者ちゃん ~歴代最強魔王軍、ただし全員過労~ 伊月 @ituki_7
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