仲良くしたいよ!私たちは
「勇・者・ク・ン!勇・者・ク・ン!どんな子かな~!早く逢いたいなぁ~!」
「魔王様、遠足じゃないんですよ。これも業務の一貫です。……一貫ですよね?残業代出ますよね?」
「出る出る。領地あげる」
「だから、要らねえって!!領地で食える肉なんてねえよ!!」
勇者クンを観測できた地域に超速で飛んできた私達は、彼を探し求めて山と岩石しかない荒野を練り歩いていた。
着いてすぐ癇癪を起こしたルシアが、私の身長より高い岩石の山を蹴り壊して足を抱えてうずくまってる。……痛いならやらなきゃいいのに。
「もー、すぐそうカッカしないでよ。普段は真面目ちゃんの大人しい子でしょ。ルシアは」
「~っ!だ、誰かが怒らせるからしゃないですかぁ~!」
涙ぐみながら私を見上げるルシア。
私はそんなルシアの頭をポンポンと撫でながら辺りを見渡した。
うーん、あんまり気配感じないな。この辺に生き物いないんじゃない?
……と、思っていたけど。
「戦いの音が聞こえるな。ちょっと遠いけど」
「そうなんですか?私の耳じゃわかりませんけど」
「ルシアは目が良いだけだからね~。……向こうの方角かな」
私は耳を頼りに音のする方へ歩み始める。ルシアも足の痛みを我慢しながら、とぼとぼと私の後ろに続いた。
街ひとつ分くらい進んだ頃だろうか、ようやく人の気配を感じ取れる距離まで来た。
そして。
「はあああああああっ!!やあっ!」
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
私達の頭上を交差する二対の影。太陽光を遮る一人と一体は剣と角で斬り結ぶと、お互いに着地して私達の前で対峙した。
私は、彼らを交互に見る。
一方は獣、一方は人間。
獣は魔獣、人間の体躯よりも10倍以上ある巨体に肌を覆う体毛。何より、特徴的なお大きな角を二対有している。その角は太く鋭く硬く、魔獣の顔より三回りは大きい胴体ほどの逞しさがある。
人間は、少年。まだまだ成熟していない、成長途中の体躯。鉄で作った冒険者ようの防具を身につけてるけど、装備は薄くて胸当てと関節当てくらいしかない。そして、何より容姿がいい。うん、見た目がいい!可愛い!!
「……魔王様。彼を見てる時の顔がキモイです」
「やかましい!」
いちいちうるさい部下に叱責を入れつつ、私達は目の前の戦闘を観戦する。
「……」
魔獣と相対する少年、勇者クンは。私たちに気付いてる。でも、今は命のやり取りをしている最中。
だから、目の前の敵に集中して私たちに対しては一瞥で済ませた。まあ私たちは傍観してるしね。これで明らかに最初から敵対意思とかあったら別だけど。だったら現時点で何もしてないのはまずおかしいし。
そして、魔獣も同じことを意識している。
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
「……っ!」
魔獣が雄叫びを上げて、地を蹴る。
勇者クンの意識が一瞬だけど私達に向いたのを、魔獣は利用した。
不意を突かれた勇者クンは再び剣を構え直して、駆ける。
「舐めるなぁぁぁーーーーー!!」
『グオオオオオオオオオオオオオオオ……オ、オオ……!?』
おっ。やるなぁ。
勇者クンは突っ込んできた魔獣の足元に滑り込んで剣を立て、腹に1太刀をいれた。
結構戦い慣れしてるね。
「よし……!」
『グ、グオ……オ……』
ダメージを受けた魔獣が痛みに耐えながら、よろよろと振り返って勇者クンと再び対峙する。加えて睨みを効かせる。
だが、勇者クンはそんな威嚇なんとやら。慣れてるのか、怯むこともなく剣先を魔獣に向ける。
そんな戦闘が繰り返される中、私達は完全に観戦モードになって岩石の山に背を預けてた。
「やるなぁ。勇者クン。勝ちが見えてきたね」
「相手はベヒーモス。鈍重なので足回りを攻撃できたならもう終わりは見えています。あと大変美味です。特にもも肉が素晴らしい」
「情報が食用過ぎる……」
どう考えてもチョイスミスな解説役のルシアを添えて、私達は戦いが終わるのを待つことにした。
話し合いが目的で、戦いに来た訳じゃないし。あと手助けも要らんでしょ。男の子だし、そういうの嫌がりそう……ってのはまあ1割くらいだけど、シンプルにもう勝てそうだし。
「そろそろ終わりそうだから、具体的な作戦立てよっか。私があの可愛らしくきゅるっきゅるした勇者クンとお付き合いできる方法の」
私がキリッとした顔で言うと、ルシアが形容しがたい顔の顰め方を披露した。
「違います。停戦協定の申し出をするんです。勝手に私的な目的にすり替えないでください」
「あっ!ねえ、今日私大丈夫かな!?仕事帰りだしぃ、なんか色々崩れちゃってるかも~!」
「そうですね。魔王様がウザすぎて私が職務放棄。その後、暫くしないうちに魔王軍の財政状況は崩れ落ちるかもしれませんね」
「おい、やめろバカ」
その手の冗談はマジで背筋凍るわ。ただでさえ魔王軍の運用はギリギリなんだから。勘弁してよ。
はぁ~相変わらず冗談通じない幹部なんだから。困ったもんだ。
そうこうしているうちに勇者クンとベヒーモスは何度も打ち合い、負傷しているベヒーモスは消耗戦がきつくなってきたのかな息切れを起こしてきた。
それを目にしながらルシアが真面目に考えを口にする。
「彼が討伐したベヒーモスの調理方法でも紹介しましょうか。人間はベヒーモスを食用とは見てませんし、食べれるとわかれば冒険者としては助かる情報のハズです。彼らは食糧問題を抱えてるので。そこから上手く話を広げて、親交を深めてから我々の正体を開示。あとは説得すれば応じやすい関係ができていると思います」
「いいね。それ。胃袋から掴んでいく作戦って訳だ。ベヒーモスなんて人間からしたら上級冒険者しか狩れないし。効率的に狩れなきゃ食用にしないしね」
「はい。まさにお近づきの印に料理を振る舞うのです!」
はえー。ルシアの食いしん坊もたまには役に立つな。
悪くない作戦だと思う。
そうと決まれば勇者クンにはベヒーモスを倒していただなくては。
「やあっ!」
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
勇者クンがベヒーモスの足を斬った!
もうここまでくれば、ベヒーモスは身動きができない。あとはトドメを刺すだけだ。
私とルシアは顔を見合わせる。
「いいぞいいぞ!頑張れ、勇者クン!」
「ベヒーモスのお肉ゲットです……!やったー!」
私とルシアが手をあげて盛り上がる。
しかし、次の瞬間。非情なことが起こる。
「これで終わりだ!!消し炭になれぇーーーーーっ!!」
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
「えっ」
私とルシアが盛り上がったのと同時、勇者クンは自身の剣を発光させ、振り下ろした。
すると、激しい光がベヒーモスを包み、凄まじい威力の斬撃がベヒーモスを塵一つ残さず吹き飛ばした。
その光景を前にルシアが絶句する。開いた口は塞がらず、芸術的な面白い顔になってる。
「お、お近づきの印ーーーーーーーーーーーーっ!!逝くなー!!」
「んふっ。ごめん、ちょっとおもろい」
劇的に叫び、手を伸ばすルシアに思わずちょっと笑っちゃった。まあ笑い事じゃないんだけど。
作戦が有耶無耶になっちゃった訳だ。
「お前たち、誰だ……!」
そうこうしてるうちに勇者クンが私たちに剣を向けてきた。
さーて、どうしたもんかなー。
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