好みすぎてヤバいよ!男の娘勇者ちゃん ~歴代最強魔王軍、ただし全員過労~
伊月
好みすぎるよ!男の娘勇者クン
「魔王様、勇者が現れました」
「勇……何?なんて?何それ。誰それ」
私は魔王アリア。世界の3割を統治する偉ーーーい王様だ。
そんで私に報告してきたのは私の部下にして、魔王軍幹部のルシア。大男よりも背が高くスラッとした腰を持つ私とは対象的な、所謂おチビちゃんだ。
そんでそのルシアは、どうやら私が働かせ過ぎたようで、変なことを言い始めちゃった。
「何?過労?やめてよ、ウチはホワイトな魔王軍で通してるんだから」
「私の連続勤務記録は今155年10ヶ月2週間と2日を経過しようとしていますが……?」
「うっす。あざっす。マジ感謝っす。領地あげるっす」
「要りません。そうやって誤魔化されすぎて私一人で国ひとつくらいの生活圏が出来そうです。休みください」
「で、なんだっけ!!勇者だっけ!!何それ~!私、気になるぅ~!報・告・し・て……?」
「話逸らすのに必死すぎません?」
くねくねしておねだりしてみたけど普通にバレた。
うるさい!休みを欲しがる幹部は評価を下げるぞ!!
と、いう視線を向けるとルシアは顔を顰めた後、諦めたようにため息をついた。なんだ、その態度は。
魔王軍は私がルールだぞ。お前を守る法なんかない。つまりこれはパワハラではない!
まあそれは冗談なんだけどね。申し訳ないけど、ルシアが働いてくれないと魔王軍は立ち行かなくなるから休んでもらっちゃ困る。
勿論対策は考えてあるけどね。
それはそうとルシアが資料を抱えて説明してくれようとしてるみたいなので、聞いてあげよう。
「勇者とは、人間の中で稀に生まれる英雄です。我々魔族に有効な聖なる力を使用するとかなんとか」
「えらいアバウトだな。あんたにしては珍しいね。曖昧なこと言うの」
「情報源は伝承だけですし、前に現れたのは5代ほど前の魔王様と聞いています。なにぶん時代が空きましたので、あまり詳細な資料が残ってません」
「5代前の魔王かー。……確かカスみたいな奴じゃなかったっけ」
「はい。カスみたいな奴です」
私の部下はハッキリ物を言う子になったなぁ。一応組織的には不敬にあたるんだけどね。まあ今は私がルールなんで?関係ないですけど?
ルシアも出会った時はボロ雑巾みたいな格好で誰に踏みにじられてもどうでもいいみたいな顔してたから成長してて私は嬉しいよ。成長させすぎて暴言吐いてるけど。
「まさに倒されるべくして倒されたみたいな魔王でした。本当にカスで、魔獣の生息圏は崩壊。人間を侵略して彼らの生息域は全体の1割以下に。作物は魔王軍が独占し、やがて食糧難に。飢餓を回避するために下級魔族を皆殺しにしました。まさに最低最悪の魔王。ゴミ魔王!クズ魔王!カス魔王!!」
「……その魔王魔王言うのやめてよ。私が言われてるみたいじゃん」
思わずツッコミをいれた。ていうかわざとやってるでしょ、この子。まあいいけど。
まあ恨まれる謂れがあるかないかで言えばあるし。主に雇用の問題で。
……それはそうと、話聞いてる限り、気になることがひとつある。
「ひょっとしなくても5代前の魔王を倒したのがその勇者?ってやつか」
「はい。流星の如く現れた勇者はカスの魔王を取り囲む腰巾着共をバッタバッタと薙ぎ倒し!ゴミカス魔王軍を滅ぼしたのです!素晴らしい!!人間は統治を取り戻し、次の代の魔王が魔王軍を再編、そして何より魔獣の生息圏を復活させ彼らの絶滅を回避!おかげで私のお腹はいっぱいです!!」
「あー……やけにボロクソ言ってたのそこに私怨があったのね」
ルシア、魔獣の肉好きだもんなぁ。そら魔獣を独占して絶滅危惧に晒した奴のことなんて擁護しないわな。
なんて思いながら資料に目を通す私。
へー。勇者って人間なんだ。ってことは魔王軍の悪行と侵略に、人間が抵抗する為に勇者は派遣されたって訳だ。
……ん?あれ?じゃあ、おかしくない?
「ねえ、ルシア。嫌な予感がするんだけど」
「おや。魔王様にしては珍しく察しがいいですね。普段はバカなのに」
「おーい。私が上司だぞ。お前」
このおチビちゃんはほんと。まあいいわ。
5代ぶりに勇者が出現。それまではいい。でも、勇者が現れたことを私の耳に届けるというところが引っかかる。
ルシアは私に無駄なことを報告したりしない。あくまで仕事なんだから、当たり前ではあるんだけど。
報告するってことは私が運営する魔王軍に、もしくはその活動に何らかの干渉があったということ。
……そこで考える。もし、今、勇者が現れた理由が5代前と同じだったら?
「待って待って待って。私、人間になーんもしてないんだけど?それどころか魔族にも悪いことしてないし」
「私はパワハラ常習されてますが」
「うるさい!パワハラじゃない!今、ボケるな!」
「真面目に言ってますよ!私も魔族です!事実から目を背けるな!労働ハンターイ!待遇の改善を……!!」
よし。我儘な部下は置いといて。
勇者が魔王軍を目の敵にする理由に心当たりがない。人間に恨まれるようなこともしてない。
基本的に不干渉だし、なんなら先々代魔王が確か人間に領地を明け渡して、今彼らは生息域を全体の6割に広げてるはず。これは5代前の魔王が奪った土地より圧倒的に広域だし、再興支援だってしたって聞いてる。
その後、あらゆる尽力を施して種族間の和解をするのだって上級魔族から下級魔族まで耳にタコができるくらい教育されてる。
なのになんで勇者は現れて、魔王軍を狙ってるんだ……?
「被害状況は?勇者は魔王軍をバッタバッタと薙ぎ倒すんでしょ。それは今も変わらない。違う?」
「はい。現在、勇者に討伐された魔族は102体。さらに、勇者の登場に触発された冒険者達によって300体近くが倒されています」
「……多いな。おい」
私が声を低くすると、ルシアは資料から一瞬目を離して私を一瞥し、哀しそうに視線を落とした。
「対応策として勇者の説得を提案します。我々に討たれる理由はないことを説明し、彼を止めることで冒険者の興奮も抑えられるかと」
「そうだね。冒険者の相手なんてしたくないし。こちとらあと200年は繁忙期なんだから、そんなことしてる暇もない」
「忙しいのは私で魔王様は暇ですけどね」
「やかましい!暇ちゃうわ!!」
思わず椅子叩いちゃった。
痛いよ。めぅ。
ほんと酷い部下を持ったんもんだ!まったく!
「じゃあ明日その勇者に会いに行こうか。あっ、でも今日のうちに場所は特定しときたいな。ルシア、視える?」
「いえ。私の魔眼ではちょっと……。魔王様の方で見えませんか」
「いや。私、勇者クンの顔知らないし」
「あぁ、そうでしたね」
ルシアが納得したように頷くと、資料の中から1枚抜き出して私に差し出してきた。
私はそれを受け取って見る。
―――すると、それを目にした瞬間、私に電撃が走った。
「そちらが勇者の似顔絵です」
「えっ。可愛い。何、勇者クンって女の子なの?」
「いえ、男です」
「えーーーーーーーー!!!!!男の娘ってことぉ~!?可愛いー!マジタイプ~!!好き~!!」
「うるさ」
部下の失礼な発言も無視しちゃう興奮しちゃう!
用紙に描かれたその似顔絵は、長い青髪の可愛らしい丸っこいお肌ツヤツヤの男の子が描かれている。
そして、それがマジで私のタイプ!スキ!!
「ルシア!!今すぐ会いに行こう!!今!!スグ!!」
「は!?無理です!今日はもう終業時間です!無理です!残業ムリ!!」
「よし、行くぞーーーーーー!!」
「残業ムリーーーーーーーー!!」
私はルシアを鷲掴んで魔王城を飛び出した。
部下の叫びが木霊する中、私は愛しの勇者クンを目指して飛び立ったのだ……!!
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