第7話 新しい仲間です。

「初めまして、水無月島 心羽音と申します。ふへへ・・・」


「みなつ・・・もう一度お名前をお聞きしても?」


「みなづきしま・こはね、です。へへ・・・」


 研究室前に戻ると、一人の女性が待っていた。


 唐突にジャパニーズ漢字ネームを名乗られたので、私は一度で聞き取れず、聞き返してしまった。


 ぱっちりとした、桃色が若干混ざったような丸っぽい黒の瞳の上に、丸眼鏡を掛けた女性だった。私は研究者として随分若い方だが、彼女はさらに若く幼く見える。そして、私の目を最も惹きつけたのは、日本人らしい、真っ黒な髪だった。肩にまで流れるそれに、私は釘付けにされた。


「あ、よろしくお願いします、コハネさん・・・私はフェルディナント・アドルノと申します。」


「よろしくお願いします、アドルノ先輩・・・へへ・・・」


 なんで、この人は微妙に笑っているんだ・・・?その桃色を若干含んだ瞳は、私ではなく、むしろ私の隣のハンナに視線を注いでいた。


「こちらが、あのハンナさんですね・・・」


「そ、そうです。私の生涯の傑作であり、最愛の娘でもあります。」


「へぇへへ・・・初めて生で見た、人工皮膚・・・柔らかいなぁ・・・」


 コハネは、ハンナの頬に、肩に、腕に順に触れて、頬を紅潮させた。


「私、ハンナさんに憧れてドイツに来たんです・・・お会いできて光栄です・・・ふへ・・・」

 

 ハンナの腕をまじまじと見つめるコハネ。それに対して、ハンナはこれといった反応を示さなかった。


「あの、もしかして、ウチのロボットって、有名だったりします?」


「はい。人工皮膚を全身に使用した、完全自立型のロボットを、科学者や研究者が見逃しておくとお思いですか・・・?日本だけでなく、アメリカやイギリス、フランス、スペイン、ネーデルランド、・・・あらゆる国でまことしやかに噂されていますよ・・・」


 ここまで我が娘の噂が立ってしまえば、海物やシーラインという組織が表に立たされる日も近いか。秘密組織シーラインという響きは、私個人が好んだところであったが、このままでは秘密のベールの下を暴かれてしまう・・・


「まあ、それは後で聞くとして。コハネ研究員には、どのような役目を担っていただけるのでしょうか?」


 ハンナの噂が世界中で立っていることも気になるが、まずは手元に近い事柄から片付けよう。わざわざ日本からやってきて、どのような仕事をしてくれるのだろうか。それが第一に気になった。


 わざわざ極東から、お疲れ様です。


「私の専門は、AIやプログラム全般です。光栄なことに、この前まで、日本のスパコンの開発に携わっておりました・・・へへ。」


「日本のスーパーコンピューター・・・【大和】ですか?」


「そうです。それです・・・」


 なんと、私と似ていて、あらゆる分野に詳しい万能型ではありませんか。容姿端麗でスパコン開発に携わり、AIやプログラムにも詳しいなんて、神は万物を与えるとは本当のことらしい。・・・ただ、語尾に付属する不敵な低い笑いは、ちょっとよく分からないけれど。癖なのかな。


「じゃあ、早速仕事を頼みたいんだけど。」


「は、はい!」


 丁度いいじゃないか。プログラムに詳しいなら、最近の私の新たな願望を叶える手助けをしてもらおうじゃないか。


「我が娘・・・ハンナに、人間のような感性や感情を与えてやりたい。その手伝いをしてもらおう。」



 人間のように喜び、怒り、愛しみ、楽しむ我が娘を見てみたい。その願いは、コハネ研究員がシーラインへ加入したことで、より現実味を帯びてきた。


 私はハンナとコハネを伴って、シーラインの見学ツアーを開催した。手狭な研究室、充電室、食堂、局長室、無駄に多く広大な会議室、ヘリポートと演習場・・・コハネには施設の理解に努めてもらって、我々は早速、ハンナの感情に関するアップデートを施すために研究室へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る