平日の海の堤防で泣いていた黒髪ロングの女子高生に声をかけてみた件

☆☆☆公開日☆☆☆

 

 2023年2月3日


☆☆☆キャッチコピー☆☆☆


 ちょっと変わった体験をしたい人へ


☆☆☆紹介文☆☆☆



 久しぶりのカクヨムです。 初めての短編のお話を書いてみます。 こういう真面目っぽいお話を書くことに慣れていませんが、これからはこういうお話も増やしていこうと思います。



☆☆☆本文☆☆☆



 大学生になった俺は、見事な社会不適合者となっていた。


 履修している講義には全く出ずに、町中をただフラフラと歩いているのが、このところの俺の日常になっている。



ピコン。



 ズボンのポケットにあるスマホから、通知音が響く。俺は面倒臭そうに、スマホを取り出して、友達から送られてきた講義の出席パスワードを専用サイトを通じて打ち込み、今日も虚偽の出席をする。



「あー、俺ってダメな人間だな」



 友達からは心配しているぞ、というメッセージが添えられていて、俺はそれに最近流行りのアニメスタンプで短く答え、スマホを再びポケットにしまった。



ぶぶっ。



 スマホのバイブ音が程なくして、聞こえてきたが、俺はそれを無視して、再び、町のなかを練り歩くのだった。


 と言っても、俺の通っている大学のある町はど田舎と言っていいほど何もなくて、10分も歩けば、そこにはどこまで広い太平洋が広がっていた。



「今日も今日とて、いい天気だ。ただただ、青い」



 俺は堤防沿いの道路をいつも通りに歩いていく。今日は少しだけ風が出ていた。日中になるとこの堤防沿いの道路は穏やかな陽気に包まれて暖かいのだが、今日は風のせいで少し肌寒い。



「うおおおおお!!!!!!!!!!!」



 俺はいつものように、海岸近くにぷかぷかと浮かんでるカモメに向かって奇声を放った。


 そうすると、いつものようにカモメは俺の声にびっくりして、一斉に飛び立っていく。


「ああーー気持ちぇぇ」


 

 カモメは群れになって遠くの方へと飛び去っていく。俺はそんなカモメの姿をしばらくの間、じっと見つめていた。




★★★★★★★★




 どれくらい歩いただろうか。そろそろ堤防沿いの真っ直ぐな道が終わりに差し掛かろうとしている時だった。


「ん? 誰かいるな」



 堤防の上にちょこんと体育座りをしている女子高生がいた。黒髪を風に靡かせて、顎をちょこんと膝の上に乗せていた。


 よく見ると、ちょっと目元が赤く腫れていて、体も小刻みに震わしていた。



 どうやら訳ありの女子高生らしかった。



「どうしたんだ? こんな平日に、こんなところでさ」



 俺は彼女のいるところまで行き、隣に腰を下ろした。


 すると、彼女はそんな俺のことを、ゆっくりとした動作で首を動かして、まじまじと見つめてきた。



「今日は、あなたで3人目です」



「は?」



「1人目は軽トラックに乗った60歳くらいのおじいちゃん。2人目は軽自動車に乗った30代くらいの釣り人。そして、3人目」



 顎をくいっと俺の方へ向ける彼女。



「えっと……どういう意味かな?」



 俺は彼女の言おうとすることが、まだよく分からないでいた。もしかして、声をかけてくれた人、とか?



「私、ちょっと実験してるんです。こうやって目元赤くした女子高生が、平日の昼間から海の堤防で体育座りしてたら、何人の人に声をかけられるかって」



 彼女はそう言うと、体育座りを崩して、よろよろと立ち上がった。



「私って、変わって見えます?」



 彼女はそんなことを言いながら、海の遠くの方を見つめていた。



 俺はそれを下から見上げることになった。もちろん、当然のように女子高生の生パンがはっきりと俺の網膜状に結ばれていた。



「いいですよ、いくらでも見てください。どうせパンツ。たかがパンツですから」



 俺が何も言わずに固まっていた理由を察して、彼女はそんなことを言った。

 



「君って変わってるね。中身も外見も、パンツの趣味も」



「……あなたはパンツを見たくらいで動揺しないんですね。今までの方は大抵、おどおどしていたので」



「まあね。君のいう通り、たかがパンツだからね。でも、ちょっとは興奮したよ。俺も男だからね」


「……どうせパンツ。たかがパンツ。されどパンツってことですね」



 潮風に揺られながら、俺たちはしばらくそうして、くだらない話をしていた。彼女はとても気楽に会話を楽しんでいるように見えた。どうやら、こうして変な実験をしていることは確からしい。彼女の俺への対応の仕方を見ていても、熟練のそれを感じてしまう。



 ふと、彼女は話題を変えた。ちょっとだけ真面目な話になりそうだった。



「お兄さんは、どうして平日の昼間からこんなところにいるんですか?」


「あー、それは俺も聞きたいわ。どうして俺、こんなことしてるんだろう」


「やっぱりお兄さんもそうなんですか」


「へ?」


「自分が何に悩んでいるか、わからないってことです。私も実はそうなんです。いや、明確にこうして学校に行かない、行きたくない、行けなくなった理由は理解しているんですが……」


「何かしたの?」


「ええ、学校でちょっとやらかしてしまって。いろいろと……。私って結構変わってるでしょ?」


「そうだね。こんなに短い間だけど、君と話してみて、面白い感性を持ってるなって俺は思ったよ。」


「あはは、お兄さんは言い方が上手だね」


「あはは……」


「それでね。私、女子グループの大半から見放されちゃって。朝、登校すると机が無くなってるってことが頻繁に起こったの」


「それはひどいな。学校の先生は何もしてくれなかったのか?」


「相談はしたよ。でもね、生徒の問題は生徒で解決するのが当たり前だって言ってさ。とっても面倒くさそうな顔して意味のない説教まで喰らってさ」


「今の時代でもそんなに無責任な発言をする先生がいるんだね」


「まー、あれだ。多分、私、先生にも嫌われてる。学校中から嫌われてるんだと思う」



 彼女はすっと、また立ち上がった。彼女の変わった趣味のパンツが、また俺の目に入った。



「そう感じちゃったから、学校には行けないの。まぁ、たったそれだけのことなんだ。私がこうして堤防で海の景色を眺めてるのって」



「たった、それだけのこと……か」



「でもね、学校にいる時なんかよりも、ずっとずっとずうっとこうしているほうが勉強になるんだよ。この前なんか、70歳くらいのお爺ちゃんが声をかけてくれたんだけどね、この片田舎で小説家の仕事をされてるんだって。それでね、若い頃に経験したこととか、夫婦の仲を円満に続けていく方法とか、いろいろな失敗談、成功談を聞かせてくれるの。それがもう、ほんっとうに面白くてさ。学校の先生なんて、教科書に載ってることしか話してくれないじゃん。大学卒業してさ、すぐにこうして教育の現場に飛び込んでくるわけじゃん、先生って。だからさ、ほとんどの先生は人生ずっと教育機関の中だけでゆるゆると育ってきてるわけだよ。そんな人たちが社会経験豊富なわけないじゃん。もっといい人材連れて来て面白い話聞かせてくれよ! 受験勉強ありきの教育って本当にこのままでいいの!!?? 教育の大革新が必要だと私は思うよ!!!」



 彼女はしばらくの間、こんな感じで舌を回し続けた。まるで、日頃からの鬱憤を全て、俺と、この壮大な海に向かって投げつけているかのようだった。



「今までもこんな感じだったの?」


 

 俺は落ち着きを取り戻した彼女にそう問いかけた。



「んー。今日はちょっと熱くなりすぎたかも。どうしてだろう」



 彼女は自分でもわからないと言ったふうに、首を傾げて、俺の顔を覗き込む。



「よく見ると、お兄さん、ちょっと私のタイプかも」



「あははは、そんな理由。やっぱり変わってるねぇ。そんな子、俺好きだよ結構」



「ええっ、うそほんとう!?」



 彼女はちょっとだけ顔を赤くして、俺の方をチラチラと伺った。



「ふぅー、今日は楽しかったよ。ありがとうね、堤防の女子高生」



「その呼び方……なんかかっこいいですね」



「あはは、怒られるかと思ったけど、なんか反応違ったなぁ」



「私って変わってますから」



 堤防の女子高生は、ふふふと微笑んだ。



 いつの間にか日は傾いて、彼女の背中を照らす夕日を見ながら、俺は一息つく。



「君は人よりも考えることができるみたいだからさ、いつまでも悩まずに動き出した方が、有意義な時間を過ごせるよ思うよ。君が言うようにさ、社会には面白い人がたくさんいる。こうして堤防に座っているだけで、小説家の人にも会えるわけだからさ」



「…………」




「俺は今日みたいに、この堤防沿いの道路をよく歩いてるんだ。もし、何か困ったことがあったら、君もまた堤防に来たらいいんじゃないかな。どうやら、すでに君はもう悩んでいないようだし」



 俺はすっと自分の懐から名刺を取り出す。




「俺、大学生やってるけど、実はもうゴリゴリに稼いでお金には不自由ないんだ。だから、今の俺の目標はたくさん本を読んで、人に会って、考えて考えて考えて、自分の人生をこれからどうしていこうか、ゆっくりと考えていくことなんだ」



「やっぱり、あなたってすごい人だったのね……」



 彼女は俺の名刺を受け取ると、しばらくそれを見つめていた。



 俺はそんな彼女に向かって……



「じゃあ、それじゃまた」



 そう言って、歩いてきた道を引き返して、歩き始めた。


 壮大な夕焼けの景色をバックにしながら……



 そんな俺の背中に、彼女の大きな声が届く。



「ずんだ餅さん!!! あ、あなたの名前は!!??」



 俺はそんな彼女の声に背中で答えた。



「ずんだ餅さん!!!!!!」



 こうして、俺の不思議で奇妙な、平日は終わりを迎えるのだった。


【完】

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