雨粒と木々のさざめきと反射する夕焼けのなか~君と歩いた放課後の情景~

☆☆☆公開日☆☆☆

 

 2023年12月21日


☆☆☆キャッチコピー☆☆☆


 ―――――――――――――


☆☆☆紹介文☆☆☆



 特になし。



☆☆☆本文☆☆☆


 夏の終わり。


 放課後の穏やかなときの流れ。


 西の海へ沈んでいく今日の太陽。


 私は今日も、その今日という時間概念を抱いた太陽を見て思いを馳せる。


 そこになんの意味があるのだろうかと、無粋なことを考えるのはもうやめた。


 ただそこにある風景を見ている私が……


 いるという、ただ、それだけでいいと。


 私は君と暮らした街で、この海が目の前に迫る、山々に囲まれた坂道の多い、この街で……


 君のことを大切にしていきたいと、そう思えたことが。


 人生における一番の……


 意味のある選択だったのだと思う。




🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊



 丘の上から海を眺めている。


 君と一緒に。


 君の長い黒髪が、風に舞う。


 潮の香りがする。


 丘の上にある公園の錆びたブランコに乗ったあとの、鉄臭い手のひらの匂い。


 君はそんな手を広げて、私に見せる。


 なにげない光景。


 よくある情景。


 ……


 ……


 ……


 遠くから眺める海は平坦で、何もしらない人がそれを見たら、そのまま歩いていこうと思えるのだろうか。


 そしてその向こうまで、先の見えないその果てまで、歩いていけないことがわかったら、その人達は何を思うのだろうか。


 ……


 ……


 ……


 そんなとりとめもないことを、ただひたすらに、君に知られず考えている。


 君は君で


 この一瞬に何を考えているのだろうか。


 一緒にいるというのに。


 これだけ好き同士で毎日を一緒に過ごしているというのに……


 お互いを知りすぎている、ということは決してない。


 むしろ、何も知り得ないまま……


 一緒にただ時を過ごしているという、実感だけがある。


 ……


 ……


 ……


 とんびが鳴いている。


 風を掴んで、羽ばたくことなく、ただ宙に身を浮かせている。


 まるでそこに固定されたレールの上を走っているような……


 そんな窮屈さを感じてしまえるほどに。綺麗に滑空している。


 ……


 ……


 ……


 風が私たちを撫でて、通り過ぎていく。


 ふと。


 狐が嫁入りしたかのような、雨が降り出した。


 すぐさま水滴に反射した夕方の太陽の光が、少しの小さな七色の帯を作り始める。


 更に輝いていく、海の見える街、山に囲まれた街。


 幻想にいるのか


 現実にいるのか


 分からなくなるかのような


 そんな風景。


 そんな夢のような話をいつかの教室で聞いたことを思い出す。


 ……


 ……


 ……


 街が夕方に染まっていく。


 ……


 ……


 ……


 君が口ずさむ。


 この一瞬の景色を切り取ったような、そんな即行の言葉を。



「きれいだね…」



 君はそう言った。


 あまりにも単純な率直な言葉。


 しかし、私にはこれほどまでに、今の景色を、感動を表した言葉はないとすら感じてしまっている。


 君の言葉を聞いてから、私も『綺麗だね』と呟いて、もう一度、街と海と木々のさざめきと車の行き通うさまを、遠目にぼんやりと、ただただ眺める。


 ………


 ………


 ………


 そこには情景があった。


 景色をみつめる私たちの、情景があった。


 ……


 ……


 ……


 ……


 ただ、それだけでいい。


 その情景を君と簡単な言葉を交えながら、眺めているだけでいいと……


 この世界をやみくもに切り取らなくてもいいと……


 そう思えてしまったんだ。



🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊




 太陽が海の向こうに沈んでいく。


 一直線に太陽から伸びる、海上をはしる光の筋。


 それは、私たちがどこから見ていても、同じようにいつも、私たちへ向かっている。


 そしてまた、私たちも。


 それをいつも、ただただ……


 二人で眺めている。


 ……


 ……


 ……




🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊🌊



 海の見える街。


 太陽は海のふちを通り越した。


 ぼんやりと輪郭と空を夕方に染めて……


 雨粒が色を失い、私たちに触れている。



「終わったね」



 君はそう呟いた。



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 夜。


 そこには街の光と鳴り止まない喧騒が広がっていた。


 私と君は、そのなかを静かに通り抜けて……


 駅のホームで向かい合って、お互いに手を振り、最後に別れた。


 夏の終わり。


 一日の終わり。


 ………

 

 ………


 終わりはついには誰にも平等に訪れる。


 ………


 ………


 ………


 そうやって繰り返される日々のなかに。


 私は君と出会い、語り合い。


 日のなかで出会い別れを繰り返していく。


 そんな私たちを結びつけているものはなんだろうか。


 ふと、そんな抽象的なことを考えてみる。


 ………


 ………


 ………


 

 君の顔がぼんやりと瞼の裏に浮かぶ。


 ガタンゴトン


 ガタンゴトン


 ガタンゴトン


 路面電車の揺れる音。


 時折きこえる車のクラクション。


 動いている。


 回っている。


 知らないところで今も人がなにかを考えている。


 ……


 ……


 ……


 そうして、いつの間にか一日が終わっていく。



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



 朝。


 また私は君と向かい合う。


 君の口が眠たそうに開く。



「おはよう」



 君の声が耳を撫でる。



「おはよう」



 太陽が優しく私たちのことを、照らしているように思えた。



 そんな朝の穏やかな情景。


 ………


 ………


 ………


 ………



【完】

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