第9話
美術大学の研究会。展示された作品の間を歩く妖國は、ふと目に留まる少女がいる。その姿が花緒とあまりにも似ていて、思わず彼は声をかける。
妖國「…花緒?」
少女は驚いた表情を浮かべて振り向くが、すぐに控えめな微笑みを浮かべる。
里姫「あの…違います、私、花緒じゃありません。」
妖國は恥ずかしそうに笑い、頭をかく。
妖國「ごめん、君があまりにも…昔の知り合いに似ていたから、つい。」
里姫「そんなに似ているんですね。もしかして、その方も…美術に関わっている方ですか?」
妖國は少し遠くを見つめるような目をしながら、静かにうなずく。
妖國「うん。彼女も美術が好きで…とても繊細で、優しい人。」
里姫の表情が少し曇り、彼女も視線を落とす。
里姫「そうなんですね。…実は、私にも姉がいました。とても優しくて、強い人で、私が美術を始めたきっかけでもあります。」
妖國は彼女の言葉に心を寄せ、少し間を置いて問いかける。
妖國「そうなんだ。君のお姉さんも、もう…?」
里姫「はい、もうこの世にはいません。でも、不思議なんです。時々、姉が私のそばにいるような気がして…それが、この場所に来た理由の一つでもあるんです。」
その言葉に妖國は驚くと同時に、胸の奥が少しだけ痛むのを感じる。そして、彼の中に再び花緒の記憶が蘇る。
妖國「君のお姉さん…きっと、君のことをずっと見守っているんだね。」
里姫「そうだといいですね。姉もあなたの知り合いの方も、それぞれの形で私たちを導いてくれているのかもしれません。」
その言葉に妖國は一瞬、胸が締め付けられるような感覚を覚えます。そして「お姉さんの名前は?」と問いかけると、里姫は少し遠い目をして答えます。
「姉の名前は、花緒です」
妖國はその言葉に動揺を隠せません。心の中で何かが崩れ落ちるような感覚とともに、彼は確信します。「花緒」がどこかで生きているのではなく、里姫の亡き姉としてすでに彼の前から消えてしまったという事実を改めて受け入れる必要があるのだと。
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