第7話

妖國は美大の授業中、花緒のことが頭から離れず、集中力が途切れていた。教室の中でノートに向かいながらも、彼女の淡い笑顔や温かな言葉が頭に浮かぶ。隣に座る玲奈と京が、その様子に気づいて、楽しそうにからかってきた。


「妖國、恋煩いですか?」玲奈がニヤリとしながら言った。


「まさか、そんなわけないでしょ」と妖國は苦笑いしながら返すが、目の奥には明らかな悩みの色が浮かんでいた。


妖國は、その後も花緒のことが気になり、授業に集中できなかった。彼女との再会を待ち望む気持ちが募る一方、現実の授業に取り組む自分に苛立ちを覚えていた。花緒と出会ってから約1ヶ月が経ち、次に会える日がいつになるのか予想もつかない。妖國はぼんやりしながら、妖國はそのことを考え、少し自分を責める気持ちにもなっていた。


そのとき、妖國の周囲に甘い香りが広がってきた。まるで花緒の吐息のような、優しく温かな香りが妖國を包み込む。彼女の思考がふわりと心に溶け込み、遠くからでも彼女の存在を感じることができるような感覚が広がってきた。妖國は驚いたように周囲を見渡しながら、その香りの源を探った。すると、花緒の存在を感じる思考の広がりが、まるで彼女がすぐそこにいるかのように心に広がってくる。


妖國(心の中で) 「花緒さん…?」


花緒(テレパシーで) 「妖國さん、こんにちはです」


妖國(驚きながら) 「花緒さん、どうして…?」


花緒(テレパシーで) 「私はただ、あなたのことを少し心配していたのです。」


妖國は、その言葉に心が温かくなり、顔が少し紅くなるのを感じた。花緒の存在を感じることで、心の中の空虚感が少しだけ満たされたような気がした。周りの友人たちには気づかれないように、妖國は目を閉じ、深く息を吸い込みながら、花緒のその甘い香りに身を委ねる。周囲の喧騒が遠くなり、花緒との特別な繋がりを感じることができた。その感覚が心を落ち着け、今後の再会に対する期待を膨らませる一方で、現実に引き戻される瞬間もまた、彼女の思いを強く刻み込んでいく。





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