4.――「私たちはあまり会わないほうが良いのではないでしょうか?」
「記憶を失う前の私って、かなり性格が悪かったんじゃないですか?」
「ぶっ」
授業を
私はコロッケ定食を、侑誠さんはラーメンセットを頼み、二人で合掌して食べ始めてから。
私が訊きたくて仕方がなかった質問をぶつけると、侑誠さんはラーメンを吹き出してしまった。
「ど、どうしてそんなことを……?」
「だって……」
食事を進めながら、私は朝のSHR前にクラスメイトと話したことを伝える。
すると、侑誠さんはばつの悪そうな表情を浮かべた。
「流華のクラスメイトが言うことは、間違いない。けど」
もごもごと居心地が悪そうに、侑誠さんは続ける。
「流華の性格が悪いわけない。僕がこうしているのは、流華が僕の婚約者であるからで……」
「それなんですけど」
午前中に考えていたことを、私は言う。
「侑誠さんが、私が婚約者だからという理由で無理をしているのであれば、私たちはあまり会わないほうが良いのではないでしょうか?」
「そ、それは嫌だ!」
がたん、と音を立てて侑誠さんは立ち上がり抗議してきた。
なにごとかと周囲の視線を一瞬だけ集めたが、私たち二人が揉めているとわかると、各々それまでの会話に戻っていく。言い争いも日常茶飯事だったのだろうか。
「だから、その……」
侑誠さんは小さく咳払いをしながら座り直すと、私を見据えて話を続ける。
「これまで僕らは、婚約者として定期的に交流を続けてきたんだ。それを辞めるのは、よくないと思う」
「なるほど……?」
私は首を傾げつつ、半分頷く。
記憶を取り戻す為には、これまでの日常を極力維持したほうが良いという話だろうか。でも、それなら侑誠さんの今日の行動は、矛盾しているのでは?
「そ、そういえば流華、授業のほうはどうだった? ついていけそうか?」
「え? は、はい。事前に予習もしておいたので、大丈夫そうです」
急な話題転換に困惑しつつ、私は訊かれたことに答えた。
婚約者云々は、あまり触れないほうが良い話題なのだろうか。
クラスメイトが言うような、侑誠さんの急な態度の変わりようも、なにか理由はあれど私には話したくないのかもしれない。
なんとなく距離を感じるが、しかし、記憶のない私にはこれ以上踏み入ることは許されないような気がした。
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