第18話
僕が太ったアンブラ教の司祭カルトンを帰した後、クララが上機嫌で部屋に入ってきた。
カルトン司祭が去った後の部屋では、一瞬の静寂に包まれていた。
僕はレナの頭を優しく撫で、彼女を安心させるために微笑んでいた。
その時、扉が勢いよく開かれた
「ジャック様、今日はカルトン司祭が来てくださるのです! 本当に嬉しいですわ! 彼の説教は素晴らしいものです! これでジャッキ様も普段のやる気のない態度から、やる気がモリモリと湧き出てきますよ。これからはアンブラ教の教えを広めるためにも、今日の訪問は大きな一歩になりますわ!」
クララは満面の笑みを浮かべながら僕に近づいてきた。
待ち望んでいた報告をするかのように胸を張っている。
僕はクララの態度に少し驚いた表情を浮かべながらクララを見つめた。
彼女の言葉が、まるで現実とは逆のことを言っているように感じたからだ。
「クララ、その司祭はもう帰ったよ」
その言葉を聞いた瞬間、クララの笑顔が一瞬で消えた。
「え? 帰ったのですか? どうしてですか? 司祭様のお話は少なくても、一時間は最低でもかかると思うのです! まさか、それをお帰しになったのですか?」
クララの声には明らかな動揺が含まれていた。僕は少しだけ肩をすくめながら答えた。
「まぁね。残念だけど、カルトン司祭が領で教会を今後も開くことは僕は承知できない」
「なっ!? 彼が貧困のリバー領をどれだけ救ってきたのか!? ジャック様は知らないのです!」
「そう。だけど、彼の考えは僕には承知できない」
「もういいです! 私がカルトン司祭をお越しいただくためにどれだけ苦労したのか、知りもしないのに!?」
僕は、カルトン司祭がレナに対して酷いことを言ったことを口にしたくなかった。
彼は獣人を差別して、彼女をけがわらしい存在だと非難した。
それが許せなかったから、怒って帰ってもらった。
クララの顔色が次第に変化して、怒りがその表情に浮かび上がった。
「なんてことを…ジャック様! あのカルトン司祭を説得して、わざわざ領主の館にお招きするのがどれほど大変だったか、あなたには分かっていないのですか!」
彼女は激しい口調で僕に詰め寄ってきた。
怒りを抑えきれない様子で、彼女の熱意が伝わってくる。
少し驚いたが、それでも冷静なまま僕は答えた。
「クララ、君が骨を折ってくれたことは感謝しているよ。でも、僕は彼と協力するつもりはない」
「なっ!?」
あんな言葉をレナに向けたのは許せなかった。僕の領地では、誰であれ平等に扱われるべきだと考えているんだ。
「そんな理想論では、この領地は守れません! あれほど大きな組織の司祭様を敵に回すなんて!?」
クララは声を荒げ、その瞳に怒りと悲しみが混じっているのが見えた。
「私はアンブラ教の信徒として、教会の力を借りてこの領地を安定させたいと思っていました。それが…それがあなたの一言で全て無駄になってしまったんです! どれだけ無責任なことをしたのかわかっているのですか?!」
彼女の言葉に僕は話しても無駄なのだと理解した。
これ以上は言い返す言葉が出てこない。
彼女がどれだけ骨を折って司祭を招いたのか、そしてそれを無にしたことに対する彼女の悔しさが伝わってきたからだ。
「クララ…ごめん。僕はただ……」
僕の謝罪にも関わらず、クララの怒りは収まらなかった。
「もう結構です! あなたは好き勝手に意見だけ言って、苦労は全て私に押し付けるのです!? そんな貴方のことばが、どれだけの影響を与えるかをもう少し考えてください! これ以上、私に無駄な苦労をさせないでください!」
クララはそれだけ言い放つと、勢いよく部屋を飛び出していった。
扉が閉まる音が響き、部屋には再び静寂が訪れた。
僕は深く息を吐き、レナを見つめた。彼女はまだ怯えていたが、エリザベートの側にいることで少しだけ安心しているようだった。
「難しいな…誰かを守ることと、他の人との関係を保つことって」
僕の呟きは聞こえてほしい相手には聞こえない。
クララとの関係を修復する方法を考え始めた。
クララがカルトン司祭を招くためにどれだけ努力したのか……。
僕は領主としての行動で、クララの努力が無駄になったことに対する彼女の怒りは理解できた。
だけど、僕は自分の信念と、リバー家の責務を守るという意味では、他者との関係の間で葛藤することも大切なのだ。
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