第14話
《side革命家ゴンザレス》
俺の名前はゴンザレス。リバー領に住む者たちの間では、《ゴリラ顔の革命家》として知られている。
俺はこの地で、かつての小国家だった頃の国を取り戻すために、独立して国を取り戻そうと密かに動いていた。
俺の祖先はこの地を愛し、守り抜いてきたのだ。それを帝国に奪われた屈辱は、今も俺の心に深く刻まれている。
リバー領に新しい領主がやってきたと聞いた時、俺は何かが変わるのではないかと期待した。
だが、その期待はすぐに失望へと変わった。
領主と名乗るジャックという若造は、何の威厳も感じられない。ただの若造だ。
何よりも腹立たしいのは、あの邪教のシスターが布教を始めたことだ。
「自由恋愛を謳うだと? ふざけるな…!」
街を歩くシスター・エリザベートを確認したが実にけしからん!
豊満に実ったバストをこれでもかと揺らしながら、人々を魅了して教会へと誘い込む! その手段があまりにも卑劣! 俺も危うく教会の中に入って、ミサを聞いて、入信しかけた程だ。
なんと恐ろしい。
それに格安の税金だけで、商人を集め市場を開きなど言語道断だ。
そんなことをすればリバー領の威厳が保てないではないか、活気に満ちた市場を歩きながら、周りの変わりように戸惑いを隠せない。
新しい市場が開設され、商人たちは喜んでいるだと! だが、それは一時的なものに過ぎないはずだ。
この地の根本的な問題は何も解決していない。
それに、あのシスターが掲げる自由恋愛を推奨してしまえば、世の秩序は乱れ、男女の慎ましやかで美しい付き合いができないではないか!?
私のようなゴリラ顔の男は、自由恋愛では女性の一人も寄り付かぬ。
だからこそ、我々は昔ながらの伝統なしきたりで、相手の顔など気にすることなく結婚を推し進める必要があるのだ。
「ゴンザレス、我々の信仰が危機に瀕しているのを感じないか?」
隣で歩くアンブラ教会の司祭、オットーが低い声で言ってきた。
彼こそが我同志にして、革命家を支援してくれる者だ。
中年の男で、ブタのように太りきった体を持ち、その顔つきはどこか不気味さを漂わせていた。
そんなオットーはアンブラ教会の信徒たちを率い、この地で長年にわたり活動してきた。男女の純潔と秩序を重んじる彼の教えは、エリザベートの教えとは正反対のものであり、二つの教えは衝突し始めていた。
「感じてるさ、オットー。だからこそ俺たちは動かねばならない」
俺は拳を握りしめた。
市場を歩く人々の中には、エリザベートの教えに興味を示している者たちが増えてきている。まさか、こんな邪教に心を奪われるとは…!
このままでは、俺たちの領地は、帝国に完全に染められてしまうだろう。
「ゴンザレス、あのジャックという若造は危険だ。彼は何も考えていないように見えて、実際には我々の伝統を破壊するための手先かもしれない」
オットーの言葉には、強い不満が込められていた。
彼の太った手が拳を握り、脂汗が滲んでいる。
だが、気持ちは俺も同じだ。
ジャックのふざけた態度には何か裏があるに違いない。あんなに簡単に自由恋愛の教えを許すとは、まさに帝国の意向を反映している。
「だが、オットー、今はまだ時期が早い。我々にはまだ準備が整っていない」
俺たちはかつての王国を取り戻すために動いているが、今のリバー領には強力な軍隊もなければ、資金も乏しい。
何よりも、民衆の心がバラバラだ。エリザベートの教えが広がれば、さらに団結は難しくなるだろう。
「だからこそ、今のうちに手を打たねばならない。我々が動かねば、この地は完全に帝国に飲み込まれる」
オットーは厳しい表情でそう言った。彼の太った体が震え、顔には怒りの色が浮かんでいる。
俺も彼の言うことが正しいと感じた。今が重要な時期だ。躊躇している間に、リバー領の民は完全にジャックとエリザベートの手に落ちてしまうかもしれない。
「オットー、俺も考えている。まずは、民衆の不満を焚きつけ、反乱の準備を進めるべきだ」
俺は強く言い切った。革命の兆しは少しずつ広がっている。盗賊たちも、貧困に苦しむ農民たちも、いつ爆発してもおかしくない不満を抱えている。
「その通りだ、ゴンザレス。我々はアンブラ教会の信徒たちと協力し、反乱の準備を進めよう」
オットーは決意を固めた表情で頷いた。俺たちにはもう時間がない。今こそ、この地を守るために、行動を起こさねばならない。
「だが、慎重に進めよう。敵は巧妙だ。ジャックが本当にただの若造なのか、それとも…策士なのか見極めねばならぬ」
「方法はあるのか?」
「私にいい考えがある」
俺の言葉にオットーは深く頷いた。
こうして、俺たちは静かにリバー領の奥深くで、革命の火種を育て始めた。
何が起ころうとも、この地を帝国の手に完全に渡すわけにはいかない。
自由恋愛の教えに踊らされる愚かな者たちを目覚めさせ、この地に真の独立を取り戻すために。
リバー領の静けさの中で、その日が来るのを待ちながら、着々と準備を進めていった。
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