第12話

 気がつけば、半年ほどの日々が過ぎようとしていた。


 リバー領が少しずつ整備され、生活が安定してきていた。


 これまで通りリバー家に使えてくれる領民には土地を貸し与えて、農地を耕してももらって、税金を納めてもらう。


 盗賊をしていた者たちは、領民としては認めるが、これまで犯してきた罪に応じて、土地を貸し与えるのではなく、自分たちで開拓した村で住む許可と、税を納める義務を命じた。


 さらに、武装していたこともあり、領主館がある街を守る自警団の代わりも務めてもらっている。それらの隊長には傭兵をしていた二人を迎えることで給金を払うことにした。


 全てはお金で解決したことだが、一気に領民が増えて、領地の開拓ができた。


 だけど、次の問題として……。


「商人がおりません」

「商人?」

「はい! 行商人がたまに来てはくれるのですが、この領地には定着している商人がいないのです」

「なるほどね」


 小国であったため、領地は広いが荒れ放題で整備もされていない。

 そんな田舎に来たいという商人はいないということだ。


「う〜ん、商人がいてくれた方が物が買いやすくてラクだよね?」

「それはもちろんそうです!」

「なら、領地内に自由市場を開設したらどうかな? 商人たちにかける税金を減免して、店舗も貸し出すというはどうかな?」


 商人たちが大変なのは仕入れだけじゃない。

 行商人はいつか店舗を持ちたいと考えている。


 だけど良い店舗ほど、街に納める税金が高かったり、もしくは店舗の家賃などが高い。つまり、どっちも安くして、商人が集まりやすい環境をつくればいいだ。


 それでも十分に、僕がラクをして暮らせるだけの税金は納めてもらえるはずだ。


「クララ、僕たちの領地に市場を開設しようと思うんだ。しかも、商人たちには特別な優遇措置を与える」

「優遇措置…ですか?」


 クララは眉をひそめてしまう。

 だけど、これまでの政策のいくつかは上手くいっているので、前ほど否定はしてこなくなった。


「そうだよ。税金を大幅に減らして、店舗を格安で提供するんだ。これで商人たちはこぞってリバー領に集まるだろうね」

「それでは、リバー領の収入が減ってしまうのではないですか?」


 クララは心配そうに問いかけたが、僕は笑顔で答えた。


「今はその収入すらないじゃないか? それな最初は少なくても、商人たちが集まれば、その分経済が活性化する。人々が集まり、物が動けば、結果的に税収も増えるはずだよ。それに、商人たちが集まれば、リバー領の評判も上がるしね」


 クララはしばらく考え込んだが、最終的に僕の提案に納得した。


「分かりました。では、すぐに準備を始めましょう」


 数週間後、リバー領に設置された自由市場の噂は瞬く間に広がり、周辺の商人たちが続々と集まり始めた。


 掲げた「税金の大幅減免」「店舗の格安貸与」という条件に、多くの商人が驚きと興味を抱いてくれた。


「ここがリバー領の市場か…本当に税金が少なくて、店舗も無料で借りられるのか?」


 一人の商人が市場の入り口で立ち止まり、周囲を見渡しながら呟いた。周りには同じように、リバー領にやってきた商人たちが集まり始めていた。


「本当らしいぞ。あんな条件、他のどこにもないからな」


 別の商人が興奮気味に答えた。その言葉を受けて、彼らは次々と市場内へと足を踏み入れ、空いている店舗に目をつけ始めた。


「この店舗、広くて使いやすそうだな…しかも格安で借りられるなんて、まるで夢みたいだ」


 商人たちは驚きと歓喜の声を上げながら、次々と店舗を選び、自分たちの商品を並べ始めた。


 市場の中央広場には、商人たちが大勢集まってくれた。


「みなさん、リバー領へようこそ。ここでは自由に商売ができ、税金も大幅に減免します。また、店舗は格安で貸し出すので、心配せずにどんどん商売をしてください」


 僕の言葉に、集まった商人たちは目を輝かせた。


「これは本当にありがたい話だ。税金が少ないだけでも助かるのに、店舗まで用意してくれて格安とは…」

「今までこんな条件で商売ができる場所はなかった。ここでなら大儲けできるかもしれない!」


 商人たちは互いに顔を見合わせ、夢を膨らませた。彼らの中には、この市場をきっかけに事業を拡大しようと考える者や、遠方から商品を仕入れて新たな商売を始めようとする者もいるだろう。


「私は遠くの国から珍しい香辛料を取り寄せて、この市場で売るつもりです。これまでの市場では、税金や店舗代で儲けが少なかったが、ここなら大きな利益が見込める」

「私は手作りの工芸品を売る予定です。リバー領の商人たちと協力して、商品を広めることができれば、きっと商売は大きく成長するでしょう」


 それぞれの商人たちが自分の計画や夢を語り合いながら、市場に期待を寄せていた。


 市場が開設されてから数日後、リバー領にはさらに多くの商人や旅行者が集まり始めた。それに伴って、急遽、宿屋を三店舗も開設したほどだ。


 全部クララが手配して、盗賊村からも助っ人を呼んで働いてもらった。


 旅行者も商売人たちが集まっているということで買い物をするために、やってきていた。商人たちは一気に集まって市場を開くというだけで、人を集められるんだと驚かされる光景だった。


「ジャック様、驚きました。この市場は大成功ですね。商人たちが次々とやってきて、リバー領がますます賑やかになっています」


 クララは市場の様子を見ながら、感心した様子でジャックに話しかけた。


「うん、思った以上にうまくいったみたいだね」


 ここまでの用意に僕は全く働いていない。

 提案をして、クララが動いて、盗賊村の人たちが協力してくれたおかげだ。


 ラクをして儲けを出す。


 僕は今の現状に満足して市場を見渡した。


「リバー領に行けば、商売が大成功するらしいぞ」

「ジャック様が市場を開設して、商人たちに自由に商売をさせているらしい」


 商人たちはこの市場の噂を広め、リバー領への関心を高めてくれた。


 リバー領はその革新的な政策によって、商人たちからも一目置かれる存在となり、領内の評判は急速に高まっていった。

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