第10話

 領民たちが木を切って、領地の整備をしてくれたので、大分街並みは綺麗に整い始めた。


 それでも領地として広大な土地が余ったままになっている。


 至るところに未使用の土地や荒地が広がっている光景ってどこかもったいないよね。


 これだけ広大な土地があるのに、なぜ誰も使っていないのだろうか?


「それは当たり前です。全ては領地は、リバー家の物なので許可なく使用することはできません。もちろん、穴を掘ったり、畑を作るなんて豪語道断です!」


 クララに質問を投げかけるとそんな答えが返ってきた。


 もしこの土地を有効活用できれば、領地全体の状況が少しは改善するかもしれない。


「なるほどね。リバー家の領地だから誰も触れないのか、ならこの土地を貸して作物を育ててもらえばいいんじゃないかな?」


 僕はそう思い立ち、すぐに行動に移すことにした。


 農地を領民たちに作成させる手段として、土地を貸し出し、その土地で育てた作物の一部を税として納めさせる。


 そうすれば、僕は特に苦労することなく税収を確保できるし、領民たちも仕事が増えて生活が安定するはずだ。


 クララを呼び出して、このアイデアを伝えた。


「何を言われているのですか?! リバー家が命令してやらせるのではなく、自主的に領民にさせるというのですか?!」

「うん。そうだよ。そうすれば税金も納めてもらえるし、それに彼らにも自分たちで蓄えを持たせられるだろ?」

「前代未聞です。領民もリバー家の財産です。彼らに蓄えなどなくても、我々が倉庫に備蓄して、管理を行えばいいです」

「それじゃ、いつか不満が溜まるんじゃないかな」

「えっ?」


 彼女は最初、僕の考えに驚き、そして反対の意見ばかりを言っていた。


「ジャック様、まさか本当に土地を領民に貸し出すつもりですか?」


 理解されないのは仕方ないけど、これも僕がラクに生活を送るために必要なことなんだ。


「そうだよ、クララ。これだけ広い土地があるんだから、使わないともったいないだろう? それに、領民たちも喜ぶはずだ」

「それはそうでしょう。自分の土地を持つ平民など聞いたことがありません。しかし、あくまで領地の管理は領主の重要な責務です。勝手に我が領を貸し出すのは問題がありますよ!」


 クララは鋭い目つきで僕を見つめ、怒りを含んだ声で言った。


「クララ、そんなに怒らないで。今のリバー領は、まずは発展させることが大事なんだよ。領主が変わったことで、みんな不安に思っている。だけど、そんな領主が自分たちに友好的だと思えばどうだい?」

「それはまぁ嬉しいです」

「でしょ。これは領主としての好感度を高めるためのものなんだよ」

「好感度を高める?」


 これは軍にいた際に学んだことだけど、カインを見ていてリーダーの資質はみんなから支持されることだ。

 そのためには好かれる必要があり、カインは多くの兵から好かれていた。


 多分、前のリバー家の人々も領民に愛されていたと思う。


 だけど、相次いで当主や次期当主を失って不安になった。

 だから、盗賊になった人も多かったと思う。


「土地を有効に使うことで、みんな幸せになれるし、税金だってちゃんと集まるんだよ」

「ジャック様、それでは不十分です。領主としての責任を果たすためには、領地の管理をしっかり行わなければなりません。ただ土地を貸すだけでは、領民たちの間で混乱が生じるだけです。どの土地を誰に貸すのか、そしてそこには責任が伴うことをしっかりと契約しなければなりません」


 あ〜それはそうだね。確かに至らないところはクララが埋めてくれるからありがたい。


「しっかりと管理して、領主としての威厳を示さなければなりません!」


 クララの言葉に、僕は少し面倒だなと感じながらも、彼女の真剣さを前にして反論する気も失せてしまった。


「分かったよ、クララ。管理が必要だってことは理解した。でも、僕はあまり詳しくないから、そこは君に任せていいかな?」

「もちろんです! ジャック様の補佐をするのが、私の役目ですから。ですが、今後はもっとしっかりと領地全体を把握していただきたいのです。領民たちに対しても威厳を持って接してください」


 クララの言葉を聞きながら、僕は仕方なく頷いた。


 彼女はすぐに管理の準備を整え、どの土地を誰が使うのかを詳細に記録し始めた。


 貧しいながらも、税金をしっかりと納めてくれた者を優遇して、広い土地を与え。

 また、農業に詳しい昔ながらの者たちを、助っ人として雇用することで、老人たちも知識を使って採用することができた。


 翌日から、クララは領地中を走り回ることになった。


 彼女は領民一人一人に土地を割り当て、その記録を細かく付けていった。どの家族がどの土地を使うかを明確にして、その土地で何を育てるのかも確認していく。


「ここはハーロンさんの土地になります。次の収穫期には、作物の一部を税として納めることを忘れないでください」


 クララは真剣な顔つきで指示を出して、領民たちはその言葉をしっかりと受け止めていた。


 僕がラクになるための発案だったけど、彼女の走り回る姿を見ていると申し訳ないね。


「ジャック様、この度はありがとうございます」

「えっ?」


 僕に紅茶を入れてくれたグレタにお礼を言われる。


「僕、何もしてないよ」

「ふふ、そうですね。ですが、ジャック様が土地を貸してくれる案を出してくれたので、若い者から年老いたものまで仕事にありつけ、今年の冬は暖かな屋根のある家で過ごせると皆が喜んでおりました」

「おかしいね。僕は、自分がラクをしたいだけなんだけど」

「ふふ、そうですね」


 グレタと紅茶を楽しんでいる間も、クララは全てを管理するために走りまわっている。僕はその真面目さに感心しながら、ラクっていいな〜と思えた。


「そうそう、領民たちが土地を手に入れることができた喜びで顔を輝かせていましたよ。自分の家族を養うための土地を持つことができたことに感謝して、彼らは積極的に作業を始めているようです」

「そうなんだね」

「ふふ、そこそこ歳がいった者は、自分が土地持ちになれるなんて思いもしていませんからね!」

「そうなの? う〜ん、これで安心して作物を育ててくれるかな?!」

「それはもちろんです」


 領民たちは、自分たちの土地を手に入れたことに感謝して、その土地での作業に熱心に取り組んでくれた。


「これで少しは領地が落ち着いて、僕も楽に暮らせるようになるかな…」


 領地の管理はクララに任せ、僕は適当に指示を出すだけで済むようになった。とはいえ、クララがしっかりと管理を行ってくれているおかげで、領地は少しずつだが確実に改善されていった。


 領民たちも新しい土地で作物を育て、税を納める準備を進めている。僕は特に大きな労力をかけずに領地を改善することができたことで、密かに勝ち誇った気持ちでいた。

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