無責任領主就任
第9話
《sideジャック・リバー》
領地に到着して数日が経った。
俺はクララに呼び出されて、この地が抱える問題について聞かされることになった。
彼女に屋敷の管理を任せているので、日々自由に過ごしている。
上手く行っているなら、問題ないはずだけど、領地全体の状況について相談したいと言われれば仕方ない。
「ジャック様、やっと捕まりました」
「クララ、それで? この領地の現状を教えてくれるんだよね?」
「そうです! 領主なのですから、しっかりと現状を理解してください!」
「わかったわかった。それで? どんな調子なの?」
「どんな調子って! ハァ〜本当に何も知らないのですね!」
僕は笑顔で問いかけると溜め息を吐かれた。
クララは少し考え込むようにしてから、静かに話し始めた。
「まずは、ジャック様。この領地は、かつて独立した小国でした。それはご存知ですか?」
「うん。それはグレタさんから聞いているよ」
「はい。それでは、帝国に征服されてからは、多くの問題が残ってることもご存知でしょうか?」
「問題?」
キナ臭い言い回しに、僕は眉を顰める。
「はい。まず一番の問題はかつての王国を復興を望む革命軍が未だに根強く存在しており、彼らの影響で民衆の不満も高まっています」
「革命軍?」
「そうです。王家の血を引いた少女がいるというのが相手の主張です」
「まぁ、その人たちも色々な考えがあって生きているんだろうね」
「帝国に従って、生き延びようとしている人たちにとって、革命軍がいることは迷惑なのです! 反乱の意思を持っていると思われかねないのですから?!」
帝国軍にいた際に、そんな話も出たけど、帝国って侵略には興味があるんだけど、征服した国に関しては貴族に丸投げって感じだからな。
前線で戦って、物資運搬管理をした答えとして、帝国の内情を多少は把握している。
「それに、現状のリバー領は、仕事が少ないために盗賊になる者たちも多く、治安も悪化しています」
「えっ? 仕事ないの?」
「はい。正直、土地もそれほど多くあるわけではなく、産業の発展も現状は難しいかと」
「ふむ、なるほど…それは困ったね」
「困ったことではありません! どうするおつもりですか?」
「えっ? クララはどうするの?」
俺はクララの言葉に耳を傾けながらも、頭の中では別のことを考えていた。
せっかくこの領地を手に入れたのに楽に生活できないと言われてしまった。できれば、税金をきちんと集めて、後はのんびりと過ごせるようにしたいと考えていた。
「どうして私に効くんですか?! 領主はジャック様です」
「だけど、これまではクララが管理をしていたんでしょう?」
「それはそうですが、私はマーリン様から頂く資金をやりくりして、なんとか領地を守っていただけで」
あ〜なるほど、管理ってそういうことか。
「税金の支払いはどうなっているんだい?」
俺は続けて尋ねた。クララは少し眉をひそめながら答えた。
「正直なところ、ほとんどの領民は税金を納めていません。貧困が広がり、税金を支払う余裕がない家庭が多いのです。また、革命軍の影響もあり、税金を納めることに反発する者も少なくありません」
「それは困ったな…」
俺は一見、真剣な表情を作ってみせたが、実際にはどうやってラクしてこの問題を解決できるかを考えていた。
正直なところ、俺は面倒なことはしたくない。できるだけ手間をかけずに、ラクして金を集められる方法はないものか…。
「クララ、どうすれば税金をきちんと集められると思う?」
俺はあくまで真面目に相談するふりをしながら尋ねた。クララは、少し考えた後、慎重に答えた。
「まずは、領民たちとの信頼関係を築くことが重要だと思います。彼らが税金を支払うことで、自分たちの生活が良くなるということを実感させる必要があります。また、仕事を増やし、経済を活性化させることで、税収を安定させることができるかもしれません」
「ふむふむ、なるほど…」
俺はクララの言葉を聞き流しながら、やっぱり、何か簡単な方法がないものか…。
例えば、ギャンブルやくじ引きのようなものを使って、自然と税金が集まるように仕組んでしまうとか…。それがうまくいけば、俺は後はのんびりと過ごせるはずだ。
「…でも、クララ、信頼関係を築くのも大事だけど、もう少し効率的な方法はないかな? 何かうまい具合にみんなが自発的に税金を納めたくなるような方法とかさ」
クララは少し驚いた表情を見せたが、すぐに真剣な顔に戻った。
「相手に納めたくなる方法ですか? 確かにそれは考えていませんでした。それについては、もう少し考える必要があるかもしれませんね」
領地の問題に直面しながらも、どうにかして楽に税金を集める方法を考え続けていた。
これから先、この領地でどんな試練が待ち受けているのかはまだ分からないが、俺のラクして生きるための知恵を駆使して、うまく乗り切っていくつもりだ。
♢
楽な金儲けを考える僕は、領地の現状を改めて見て回ることにした。
その結果知ったことだが、街は荒れ果てていた。
家々は崩れかけているし、領民たちは日々の生活に苦しんで痩せていた。
街の活気も失われている。これでは税金を集めるどころの話ではない。
そこでふと考えた。こんな状態の領地をどうにかするために、面倒なことをやらなければならないのか?
むしろ、素人の自分が策を出したところで、解決するとは思えない。
自分が手を汚さずに、領地を少しでもマシな状態にする方法はないものか…。
人を元気にするために一番必要な物はなんだろうか? それはやっぱり食べ物だ。
食べ物を作れば、人は潤いを手に入れられる。当然、自分で農地を耕したり、森に採取しに行くのは嫌だ。
まずは、痩せ細って死にそうな領民に食糧を与えて、農地の開拓と木々の伐採を命じることにした。
「よし、決めた。街の整備と農地の拡大のために、森の木を切り倒してもらおう。ついでに、崩れかけた家の修理にも使えるだろう」
僕はさっそくクララに指示を出した。
マーリンさんからもらった資金は、正直に何に使えばいいのか悩んでいたので、領民たちに使うことはマーリンさんも喜んでくれるはずだ。
僕はお金を出すだけで、しんどいことをしなくていい。
彼らはお金をもらうことで美味しい物を食べられて元気になれる。
うわ〜これって凄く楽ができるんじゃないか? しんどいことを自分でやるのは面倒だし、領民たちにやらせるのが一番だ。
♢
ところが、この命令が予想外の反応を呼んだ。領民たちが僕の命令を聞いた途端、驚きと喜びの声が上がったのだ。
「ついに、領主様が仕事をくれたぞ!」
「これでやっと家族を養える!」
「こんな日が来るなんて…!」
領民たちは一斉に森へと向かい、喜びながら木々を伐採し始めた。彼らは仕事がなく、日々の生活に困窮していたため、この命令はまさに救いの手だったのだ。
僕はその光景を遠目に見ながら、心の中で呟いた。
「僕がやりたくない仕事を押し付けただけなのに、こんなに喜ぶなんてな…」
しかし、心のどこかで、領民たちの喜ぶ姿を見て少しだけ嬉しく感じている自分がいた。僕は一瞬、そんな自分に驚いたが、すぐに思い直した。
これはただの偶然だ。自分が楽するために命じただけであって、特に深い意味はない。
その後、伐採された木材は街の修復や新しい農地の整備に使われ、領地は少しずつだが、確実に改善されていった。領民たちは再び活気を取り戻し、街には少しずつ笑顔が戻ってきた。
「これで、もっと楽ができるかな…」
そう呟きながら、これからの領地経営に思いを馳せた。
自分を楽にするために、人を使う。
それを学ぶいい教訓になった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あとがき
どうも作者のイコです。
思っていたよりも、自分に時間がなくて、全く更新が進んでおらず申し訳ないです。お盆の間に楽しく読んでもらおうと思ったのに!
ちょっと不定期更新にして、書けたら投稿にします!
どうぞよろしくお願いします!
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