第3話

 一年半が過ぎ、僕たちの部隊はさらに成長を遂げていた。


 カインはついに1000人隊長に昇進し、僕も副隊長として戦場の一部を預かる存在となった。


 これまでの数々の戦場で、僕とリサは背中を預け合い、共に戦い続けてきた。

 僕たちの絆は戦場での信頼を深め、いつしかリサとは恋人同士になることができた。


 かつて否定していた仕事について、恋人ができる。

 それもまた悪くないなと思えてきていた。


 カインもますますその存在感を増していた。


 彼の指揮のもと、僕たちの部隊は数々の勝利を収め、帝国軍内でもその名は広く知られるようになっていた。


 しかし、そんな折、僕たちに新たな試練が訪れた。


 ヴァレンス帝国と対峙するのは、強力な軍事力を誇るイシュヴァール王国だった。


 イシュヴァール王国は訓練された精鋭兵士と強力な魔法を駆使し、これまで帝国の侵略を幾度となく退けてきた。


 帝国軍は、彼らとの戦いにおいて多くの犠牲を払っている。


「ジャック、イシュヴァールとの戦いが本格化する。俺たちの部隊に強襲の命令が下った」


 カインが険しい顔で僕に告げた。彼もこの戦いが容易ではないことを理解していた。僕たちはすぐに準備を整え、イシュヴァール王国の前線に向かう。


 そこには広大な戦場が広がり、既に多くの戦闘が繰り広げられていた。

 空には魔法の光が飛び交い、地上では激しい白兵戦が展開されていた。


「行くぞ、ジャック。リサ、頼むぞ」


 カインとリナが部隊に号令をかけ、正面の兵に加わる。


 僕たちはいつも通り別働隊で側面から戦場を見極める。


 リサと共に槍を構え、敵兵を次々と倒していく。


 しかし、イシュヴァールの兵士たちは精鋭ぞろいであり、簡単に勝ち進むことはできなかった。


 彼らの魔法使いは強力な魔法で僕たちの動きを封じ込め、攻撃をかわしながら戦うことを強いられた。仲間が一人、二人と倒れて数を減らしていく。


 やはりこれまでの戦いとはどこか違うように感じられた。


 それは、とても嫌な予感がして、このまま戦っていても良いのか、考えるほどに上手く戦いが進まない。


 戦闘が激しさを増していく中、突然、戦場の遠くから異様な気配を感じた。


 次の瞬間、巨大な人影が現れた。


 彼は一見してただ者ではないことがわかる、異様な威圧感を持つ男だった。


 全身を強固な鎧で包んだ男の登場は、戦況を一変させる。


「奴が…イシュヴァールの将軍か…」


 誰かが叫んだ声に、注目が集まり、帝国兵が次々と挑んでは紙屑のように空を舞う。


 将軍はまさにバケモノのような存在だった。


 彼の周囲には異常なほどの魔力が渦巻き、周囲の兵士たちが次々と倒れていく。


「くそ…!」


 僕たちは別働隊で離れていたが、あの中心には、カインとリナがいる。


 帝国兵が必死に応戦したが、将軍の攻撃は容赦なかった。


 彼の一撃で何人もの兵士が吹き飛ばされ、その場に倒れ込む。

 その光景は遠目でもわかるほどに異常なのだ。


 僕も咄嗟に逃げることを選択した。

 その圧倒的な力に歯が立たないと思ったからだ。


「リナ!!」


 だが、僕とは反対にリサが戦場へ向けて駆けていった。

 大切な妹の名前を呼んで、そして、その中心ではカインの叫びが聞こえた。


「リナ!!!」


 僕が戦場へ視線を向けると、将軍の斧がリナの体を真っ二つにしていた。


 カインは剣を持って、必死に将軍を止めようとしている。


 だが、その猛攻に押し込まれていた。


 リサはそんな場所へ駆けていく。


 もう、何も考えられなくて、僕はリサの後を追った。


「リサ…!」


 僕は叫びながら彼女に追いつこうとする。


 だが、巨大な体に全身を包み込む鎧を纏った将軍は、彼女のすぐ背後まで辿りついていた。


「うおおおおお!!!!」


 将軍の叫び声と共に、目の前でリサは攻撃を受けた。


 僕の中で何かが切れた。


「貴様…!」


 カインもまた、将軍の攻撃を受けていた。

 彼は何とか立ち上がろうとしていたが、体中に深い傷を負っていた。


「カイン! しっかりしろ!」


 僕は叫びながら、将軍に向かって突撃していた。


 もう何がなんだかわからない。

 ただ、鎧の隙間を狙う。


 関節を狙う。


 槍で針の穴を通すように、膝裏、肘裏、アキレス腱、首を攻撃した。


 しかし、次の瞬間、強烈な衝撃が僕を襲い、視界が暗転した。


 目を覚ますと、戦場は混乱に包まれ、僕たちの部隊は壊滅状態に追い込まれていた。


 イシュヴァールの将軍は、まさにバケモノの如き強さを持っていた。


 目覚めた僕が見たのは、仲間たちの変わり果てた姿であり、そして、傷つき膝をついた将軍だった。


「お前が!」


 僕はイシュヴァールの将軍の首を刎ねた。


 千人の仲間を失い。


 将軍一人の首を討ち取ったのだ。


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