第2話
一年が過ぎ、僕たちの部隊は数々の戦場を駆け抜け、今では百人隊として知られるようになっていた。
カインは百人の兵を率いる隊長となり、僕は副隊長として少数の部隊を率いることが増えていた。
戦場での経験を積むにつれて、僕の槍の腕も上達していったが、何よりも重要なのは、どうやって無駄な戦いを避けて生き残るかということだった。
今日は、カインが正面から敵と戦う間に、僕たちは少数の部隊で敵の横を攻める作戦をとることになっていた。
僕の部隊には、双子の女性兵士リナとリサが含まれている。
彼女たちは戦場で息の合った動きを見せる頼れる存在だが、今回の戦術に対して少し不安を抱いている様子だった。
僕たちは敵の横に回り込み、じっとその時を待つ。
カインたちが前線で戦っている音が遠くから聞こえてくるが、僕はしばらく動かなかった。周囲の兵士たちも、何を待っているのか不安そうな表情を浮かべいる。
「ジャック副隊長、これでいいんですか?」
リサが不安げに問いかけてきた。リナも同じように心配そうな顔をしている。
「戦いが始まっているのに、じっとしているのは…」
僕は双子に向かって笑みを浮かべた。
「リサ、リナ、戦いなんて極力しない方がいいんだ。無駄に戦って怪我をするよりも、相手が疲れ切った時に一気に仕掛けた方が楽に勝てる」
本当は戦場になんて着たくない。
誰かが代わりに働いてくれるなら、それが一番いい。
むしろ、カインは戦うことを楽しんでおり、また勝利するための才能もある。
彼に任せておけば大抵の戦場は楽に戦いを終えられる。
二人は驚いた表情を見せたが、僕の言葉に納得したのか、それ以上何かを言うことはなかった。
「でも…カイン隊長たちが…」
リナが心配そうに言った。
「カインは優秀な指揮官だ。彼に任せておけば大丈夫さ。それに、今は敵を観察している。隙ができた時に一気に攻める。それが僕たちの役目だ」
僕はそう言って、双子を安心させた。彼女たちも再び静かに待機し始めた。
しばらくして、敵の陣形に乱れが生じたのを確認した僕は、素早く指示を出した。
「今だ! 行くぞ!」
僕たちは一気に動き出し、敵の横から急襲をかけた。
リナとリサは驚くほどの連携で敵兵を次々と倒していく。
その間に、僕も槍を振るい、敵の意表を突く形で攻撃を続けた。
「やったな!」
僕たちの攻撃が成功し、敵の陣形は大きく崩れた。カインたちも正面からの攻撃で押し込み、戦局は完全に僕たちの有利に進んでいった。
戦闘が終わると、リサが僕のところに駆け寄ってきた。
「ジャック副隊長、さっきの作戦、やっぱり正しかったんですね…」
僕は笑って頷いた。
「無駄な戦いをしないこと。それが一番大事なことだ。僕たちの役目は、どうやって生き延びて次の戦いに備えるかだよ」
リナとリサも満足げに頷き、僕たちは再び隊に戻る準備を始めた。
♢
あの日の戦いからしばらくして、僕たちの部隊は少しずつ日常に戻り始めた。
戦場での緊張感は薄れ、訓練や日常の任務に追われる日々が続く中で、部隊の中に微妙な変化が起こり始めていた。
その一つが、リナとカインの関係だった。
リナとカインは、いつの間にかお互いに惹かれ合うようになっていた。
最初はただの仲間として接しているように見えたが、最近では二人が一緒にいることが多く、自然と付き合い始めたことを僕も察するようになった。
それに加えて、最近のヴァレンス帝国軍では、女性兵士の数が増えてきたことも大きな変化だった。
かつては戦場に女性が立つことは珍しいことだったが、今ではその姿も普通の光景になりつつある。
リナやリサのように戦闘に秀でた女性兵士たちが、前線で活躍する場面も増えてきていた。
そんなある日、訓練の後に僕が休息を取っていると、リサがそっと僕の隣に座ってきた。
リナとカインが一緒にいることが増えるにつれ、リサと僕が一緒に過ごす時間も自然と増えていた。
「最近、リナとカイン、いい感じですね」
リサが穏やかな声で話しかけてきた。僕は彼女の言葉に軽く頷いた。
「そうだね。二人ともお似合いだ」
リサは微笑んだが、どこか寂しそうな表情も見え隠れしていた。
「リナがカインと一緒にいる時間が増えて、私、少しだけ寂しいなって…」
彼女の言葉に、僕は思わず目を細めた。
リサはリナと一緒に過ごす時間が長かっただけに、リナがカインに惹かれるようになったことで、自分の居場所が少し変わってしまったことに戸惑いを感じているのだろう。
「リサ、君は一人じゃないよ。僕がいる」
僕はできるだけ優しい声でそう伝えた。
リサは驚いたように僕を見上げ、やがて照れくさそうに微笑んだ。
「ありがとう、ジャック。なんだか安心するわ」
それ以来、リサと僕はさらに一緒にいることが増えていった。
訓練の合間や休息時間に話をしたり、戦場での作戦を練ったりすることが多くなり、自然とお互いの存在を頼りにするようになっていった。
リナとカインが仲睦まじくしている姿を見ると、リサは時々寂しそうな表情を見せるが、僕がそばにいることで、彼女の心が少しでも安らぐように感じられた。
「ジャック、私もいつか、リナみたいに誰かに恋をするのかな…」
リサがふとつぶやいた言葉に、僕は答えを返すことができなかった。ただ、彼女の気持ちが少しでも楽になるように、僕はそっと彼女の手を握りしめた。
こうして、リナとカインが付き合いだしたことで、リサと僕との間に生まれた新しい絆は、これからの戦場での関係にも影響を与えていくことになるのだった。
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