バーニング人体映像映像

その1

 非番は休みだが休みではない。


 仕事がなく好きに過ごしても良いが、有事の際に呼び出されることがある。


 そうでなくとも俺みたいなあちこちでいらない経験積んでる下っ端ともなれば、ひっきりなしに呼び出しを喰らう。


 向こうからわざわざ出向いてくれてる分だけマシだっただろう。


「どうぞ。片付いてませんが」


 画質の荒い映像、俺の家のリビング、テレビや本棚やなんか細々したものが置かれてある生活空間、その真ん中、ガラスのテーブルを挟むソファーを俺は指差している。


 ネクタイこそ外しているがスーツ姿、動きに鈍り、交番勤務を終えて帰ってきたばかりとわかる。


「失礼します」


 その俺に遅れて入ってきたのはスーツ姿の若い女だった。


 黒髪ポニーテール、スレンダーなスタイル、だが黒一色のスーツにネクタイ、室内にも関わらず黒のサングラスとなれば、怪しさを着こなしているとしか思えない。


 そんな女がソファーに座るのと同じぐらいのタイミングで戻ってくる俺、手にはコップ二つ、それとペットボトルの烏龍茶2ℓを持っていた。


 差し出されたコップを手をかざして遠慮する女、それにも関わらず空のコップを一つ前に置くと、俺はドカリと座って残る一つへ目一杯茶を注いで一気に飲み干した。


「それで、えっとますどちら様でしたっけ?」


 問いに、女は名刺を取り出し俺の前に置く。


「特務特殊係0班の、Rさん?」


「コードネームです」


 解答に、画面内の俺も今の俺と同じ表情してるだろう。


「まぁいいや。それでかの有名な0班がどのようなご用で? ここらで河童が見られたのは十年も前に話ですよ」


「河童?」


 問い返す女に固まる俺、沈黙の時間、口を開いたのは女の方だった。


「……噂ではどのように語られているかは存じませんが、私たちが専門にするのは『コダマ』と呼称される超自然現象とそれを用いる犯罪者です。聞いたことは?」


「いや。そいつはアレですか? 超能力系? それとも魔術系? 単語から連想するに契約系っぽいですが」


「そういったオカルトの話ではありません。いいですか? この世には未だ科学では証明できない不可思議な現象が沢山あります。その中のごく一部自由に操れる人間が存在するのです。彼らが起こす犯罪に対処するために発足したのが私たち0班です。とはいってもすぐには信じてもらえないでしょう」


 信じられないのは事実だ。


 何せ超能力も魔術も契約も知らないらしい。いくら秘密の専門家だからといって、横で何やってるかぐらい連携取れてるものだが、どうやらそこまで行けるほど事情に通じているわけではなさそうだ。


「あなたは表側の住人、その中でもこちら側を垣間見ている人だと伺っています。少なくとも、起眞市では一番だと」


「それはどうも」


「そんなあなたに見て頂きたい映像があります」


 そう言って女、背中のどこにしまってたのかノートパソコンを引っ張り出して俺の前に広げる。


 電源入れっぱなしだったのか数回の操作で液晶が明るくなり、画面いっぱいにどこかの建物の裏らしい画像が映し出される。雑草から屋外、影の動きから昼間、自動販売機のラインナップから日本、新商品と描かれた商品からつい最近のものだとわかる。それが定点観測している。


 画面に映る画面から読み取れるのはこれぐらいだ。


「監視カメラ、にしては画像綺麗だな」


「最新鋭の防犯設備です。詳しくはお教えできませんが、画像に何か手を加えられていないとは断言できます」


 言っている間に動きが、画面の手前から奥へ向かって団体の移動、人数は四人か五人か、同じ服装、学ラン、制服、ただここらの学校ではない。


 見た感じ仲良しの友達同士ではないだろう。中心の小柄な男子生徒を周囲が囲って無理やり連れて行っている感じだ。手には小さなビニールの袋、そして最後に歩く茶髪が、この中の主犯格なのだろう。


「少しかかるので早送りします」


 女がカタカタターンすると画面が揺れる。


 しばらくするとまた手前より人影、白衣の男性、先生らしい。


 それが奥へ消えるころまたカタカタターン、速度が戻る。


「ここからです」


 そういうと今度は画面奥より一団、学ラン姿、囲われていた連中戻ってくる。


 その中にあの中心だった男子生徒がいないなと思っていたら遅れて現れる。


 足を引きずり弱々しい足取り、壊れたメガネを引っ掛けている。背中に何か気になるのかクルクル回りながら確認しようとして、赤く灯った。


 発火していた。


 男子生徒、上半身、着ていた制服が一気に全部、遅れて吹き出る煙の中から見え隠れするその表情、音声がないはずなのに、画面が荒いにも関わらず、絶叫が聞こえてくる。


「……どう思います?」


「燃えたな」


 女の問いに画面の中の俺は率直な意見を述べる。


「そうです。何もないのに燃え出したんです」


 熱のこもった声で女、体を乗り出してくる。


「ご覧の通り周囲に火の気はありませんでした。当人も学校ということで携帯電話など着火する可能性のあるものは持ち歩いていませんでした。摩擦熱もこの程度の動きでならばそこまで熱くはなれないでしょう。つまり」


「人体自然発火、懐かしい響きだ」


「我々は過去の事件もコダマが行ったものだと考えています。しばらくなかったのはそのコダマ使いが死亡したかそれに類する原因で消えたのだと。ですが新たな世代が現れた。そして新たな犯行に」


「いや待て。話が飛躍しすぎだ。よしんばこれが人体自然発火だとしても、それが害意を持って行われたものとは限らないだろ?」


「動機はあります」


 女はやたらとはっきり言ってくる。


「この燃えた少年は、名前は出しませんが、素行が悪いです。同学校の女子生徒の着替えを盗んだり裸で徘徊したり、万引きや薬物に手を出していたとの警察の記録も残っています。何よりこの生徒は母子家庭で」


「動機なんてどうでもいい」


 うんざりした画面の中の俺が切り捨てる。


「そもそもこれは人体自然発火でもなんでもないだろ?」


 今の俺が思ってたこと画面の中の俺も思っていた。

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