大学見学BBQ

その1

 私立東京秋葉原東大学は東京も秋葉原も東も全く関係のない、いわゆるFラン大学、バカが集まる学校だ。


 駅よりバスで片道二十五分の位置にありながら駅近を唄ってる段階で押して知るべし、学部も文系ばかりなのはまだしもそのどれもが長ったらしい横文字で書かれたものばかりで、何の研究か皆目わからず、たまにニュースに出たかと思えば論文の盗用だったり、研究対象への誹謗中傷だったりで捕まっていた。


 当然、通っている学生も同レベルのバカばかりだった。


 警察官の目線で言えば、起眞市で起こる派手な事故、川に流されたり、海に流さられたり、車ひっくり返したり、一気飲みでぶっ倒れたり、生肉食べて運ばれたりするのは大体がここの学生だし、それ以外の迷惑行為、酔い潰れて道で寝てたり、集団万引きやったり、女湯覗きに入って放火したりとやたらと煩わされる。


 当然卒業後の進路など悲惨なもので、大学案内のパンフレットに堂々と『行方不明』と書いてしまうほどにバカだった。


 そんなバカ大学、ただでさえ不景気に少子化が重なって大変だというのに、新入生を毎年確保できていた。


 その秘訣は二つの低さだと大学は語っている。


 一つ目の低さお金の低さ、受験料が無料で、学費が他の大学に比べて半額以下となっていた。


 何でも各種助成金、補助金を最大限に活用してるからだとしているが、不正受給の捜査も度々行われており、税務署含めて立入捜査は年に数回は行われている。


 また資本主義の鉄則に則って、安いものはその分の価値しかない。


 授業内容は押して知るべし、学食は食中毒、図書館は盗品市になっており、インターンシップもヤクザやカルトが堂々と並ぶ。


 そんな中で真っ当に努力しようと思うと別料金で資格を取るしかなく、よしんば取れたとしてもその瞬間大学側は広告塔に用いろうとアレやコレや、結果的に邪魔をしてくる始末だった。


 そしてもう一つの低さは受験難易度の低さだった。


 よく巷では名前を書けば合格できるなんて言われているが、ここはもっと雑で、何かしらで個人情報を入手したものに足して誰であろうとも片っ端から、願書も出してないのに合格通知を送りつけていた。


 それもピラピラなチラシ印刷でポストに入れていくため詐欺としての相談も後を絶えないが、これらは正式な書類として扱われていた。


 そんなのだから受験生を中心に悪い噂が広がってるかと思えば、意外にも人気は高い。


 こんな大学でも大学は大学、卒業できれば大卒の資格となり、高卒に比べると格段に就職で有利だった。


 またとりあえず合格できるというのはこんなんでもモチベーションにつながるらしい。


 そういうのを抜きにして俺の考えを述べるならば、この大学はひたすら学生に媚びていた。


 ジュワーーーーーー。


 腹正しいほどにいい音いい匂いを立てて、肉が焼けている。


 今日はオープンキャンパス、入学希望者に大学校内を案内する日、とは言っても建物があるだけで何もない大学内、見て回れる場所もなく、その代わりにと催されているのが無料のBBQ大会だった。


 一応、参加条件としては受験資格のある高校生限定、とはしてあるが、実施はその保護者やら高卒生という名の浪人生も受け入れていて、何でもありな乱痴気騒ぎとなっていた。


「はーいおかわり来たわよーん!」


 発泡スチロールの箱に詰められた生肉スライスを持ってきたのはバニーガール姿の中年女性、胸のプレートを信じるならばこの人が教授らしい。


「ゲーム大会! デジタル部門がZ館! カードゲームがあっちの0スタジオになっていまーす」


 看板持って案内してる男は何かのコスプレか、黒いロングコートにおもちゃだろうが剣を背中に刺していた。


 壁に貼られているポスターは漫画で見たことあるキャラクターが踊っており、館内放送からは何かのアニメの曲らしいものが垂れ流されている。


 よく言えば文化祭、だが実際は子供狙いの詐欺、何かを学ぶ場所には思えない。


 こんな子供騙し、子供が騙されるものかと思うが、大学が大学ならばくる子供の子供のようだった。


「すっごーい! 私! サーカスの動物って初めて食べた! あっかーい!」


「フォークボールって投げたことある? 俺? ない」


「だから! だから! だから! 俺はスーパーハッカーだっつってんだろ!」


 頭が悪くなる。


 早く仕事を終わらせてさっさと立ち去りたい。


「お待たせしました!」


 乱痴気の中、長々待たせてやってきたのはいつかも顔を合わせた、ここの校長だった。


「それで、何でしたっけ?」


「通報があった。ここで未成年に酒を出してるとな」


「そんなそんな滅相もない。お酒は出してませんよ。ましてや十八歳は飲酒ダメじゃないですか」


「二十歳からだ」


「置いてません。断じて。この目を見てください。嘘ついてるふうに見えますか?」


「こうちょー! この焼酎どこ置きます?」


「あぁもうどんどん撒いちゃって! 今のは違うますから。バイオエタノールです。消毒用の。手足洗うのに使うやつです。口に入っちゃうかもしれませんが事故です」


「関係ない。現行犯だ」


「あぁあっと!」


 大声上げて体当たりしてくる校長、そのまま密着した体制で何を思ったか俺の腰のベルトを引っ張り隙間を開けると、中へ千円札の束を捩じ込んできた。


「おい!」


「お気持ち! これはもうお気持ちですから!」


 引っ張り出して押し返そうとする俺とそれをさらに押し返す校長、今時こんなバカな賄賂の渡し方するやつもいないが、それを別の大人に動画撮影させてるあたりこいつはバカではない。


 こいつはやはり悪人だ。


「「「「「うぉおおおおおおおおおお!」」」」」


 そこへ歓声が上がる。


「すっげ! マジすっげ!」


「今年はだいぶんと奢るじゃあーりませんか!」


「何これ! マグロ? マグロ?」


 感性の真ん中、大きな折りたたみ机の上、直置きされているのは大きな肉のブロックの山、その頂点には皮を剥がれた牛の頭が鎮座していた。


「……おかしいな」


 千円札押し付けるのを諦めた校長が呟く。


「今年の肉は全部猿の肉なんだが」


 その言葉をきっかけにするように、牛の首が黒い涙を滴らし始めた。


 俺は銃を抜いた。


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