Chapter-3・オフ会の衝撃

「な、なんでいるんだよ…………!!」

天乃原竜吾は、驚愕した。

予想はできていたが、敢えてしなかった。竜吾はその可能性を頭から排除したのだ。驚きでずり落ちた眼鏡を直しつつ、竜吾は巨大なため息をついた。

「みのり。なんでいるんだ」

「みぃがみーにゃだからですよ」

わかりきってることを質問し、竜吾は再度ため息をついた。みのりは相変わらずニコニコしている。

「みぃはドラゴファイアさんがりゅーくんなの、わかってましたよ」

「なぜだ」

「だって、あのゲームのキャラクターさんりゅーくんにそっくりだったし。それにりゅーくんがうちにスマホ置きっぱにしてた時にアカウント見えてましたから」

「……そうか」

思わず脱力した竜吾を尻目に、みのりがさらに続ける。

「あとあと、りゅーくんがネットでは口悪い人になるのも知ってましたから」

「おい」

別に僕みたいな煽り口調の人は掃いて捨てるほどいるだろ、と言いかけて竜吾は言葉を飲み込んだ。視線の先に赤と黄の髪を見つけた気がしたからだ。その人影は確かにこちらに向かってきている。みのりも気がついたみたいで、ぶんぶんと手を振っている。



「あ、あの人たちじゃない?」

有紗が指差す数メートル先には手を振る水色髪の少女とその隣に立つ緑髪の青年がいた。

「確かにそうだな。待たせてるかもしれない、行こう」

そう言って燐は歩くスピードを早める。ちょっとあんたスピード早すぎんのよ、という背後から聞こえる文句を全てスルーし、燐は目的の二人の元へと辿り着いた。

「こんにちは、俺がRINだ。お前たちがドラゴファイアとみーにゃであってるか?」

「はぁい、みぃがみーにゃです!」

みのりがそう元気よく自己紹介している横で、竜吾は固まる。この赤髪のRINとやら、どこかでみたことがある。いや、どこかではない。つい数十日前まで毎日顔を合わせていたような、そんな気がする。というより、そうだという確信がある。なぜなら。

「お前、クラスメイトの、えーっと確か……八葉野燐だろ」

「あ、本当だ。そうだな、天乃原」

燐は驚いた。学校での自分の知る天乃原竜吾はもっと大人しく、目立たない感じの生徒だったはずだ。つまり。

「お前、ネットだとイキるタイプなんだな」

「うっ、うるせーっ!それの何が悪い!」

ぎゃんぎゃんと騒ぐ竜吾をスルーし、燐はみのりに声をかける。

「お前も、こいつの知り合いか何かだったのか?」

「はい。みぃはりゅーくんの幼馴染で、おんなじ学校通ってますよー!クラスは、違いますけど」

「あたしも燐とクラスは違うけど同じ学校よ。つまり……もしかして、全員同じ学校ってことになるのかしら?」

「……そうだな」

一瞬、見つめ合う。そして四人が同時に脱力した。オフ会という名義上緊張していたが、普通に同じ学校の生徒だったではないか。

「なーんだ、変に緊張する必要なかったじゃないか」

そう竜吾が言って笑う。

「ま、外暑いしさっさと中入ろうぜ。昼時だし何か食おう」

その言葉に同意した三人と発案者は、揃って建物の中へと入っていった。



「まず、自己紹介しよう。改めて、俺はRINこと八葉野燐だ」

「あたしは浦瀬有紗よ。よろしく」

「みぃはみーにゃで、仮城みのりっていいます。よろしくお願いしますねー!」

「ドラゴファイアこと天乃原竜吾だ」

建物内のカフェに入った四人は軽く自己紹介を済ませる。確かに一応それぞれがどこかで聞いたことのある名だ。例えばクラスメイトの話に出ていたり、通りすがりに聞いたり。

「それにしてもごめんなさいね、遅れちゃって。停電でびっくりしてたら準備が遅くなっちゃったの」

有紗が軽く手を合わせて謝る。それに対して燐も頷く。

「こいつ怖がりだからな」

「うるさい。悪かったわね」

軽く茶化し合う二人を横目にみのりが呟く。

「そういえば、今朝もあんな感じの停電ありましたよね」

あったなー、と竜吾が同意するが、燐には全く覚えがない。

「何時くらいだ?」

「ええと確か、七時ぐらいだったな」

そう竜吾が返す。七時にしていたことを思い返した燐は、ぽんと手を打った。

「寝てたわ」

そう言いつつ燐は今朝見た夢の内容を反芻する。気味の悪いほどまでにリアルな暑さと伝い落ちる汗か冷や汗か、それとも他のものなのかすら判別がつかない液体。恐ろしさと、そして漠然とした悲しさだけが強く残った夢だった。

「暑さのせいで変な夢見てたわ……」

「そう、じゃあ起こしてあげたあたしに感謝しなさい」

有紗が偉そうに返す。残りの二人からも不健康だ、早起きぐらいしろ、と野次が飛んでくる。

ちょうど運ばれてきた昼食に対応しつつ、燐が再度口を開いた。

「そういえば本題なんだが」

「あぁ、ゲームについてか?」

「そうだ」

燐は食事に手をつけないまま考え込むような仕草をする。

「キャラクターのこと以外にも、一つ気になることがあるんだ。あのゲームが『予知ゲーム』とか呼ばれてる由来になった、『ゲーム内の出来事が現実でも起こる』現象についてだ」

あぁ、と残りの三人がリアクションをする。それぞれにそっくりなキャラクターに気を取られていたが、もともとゲームを始めたきっかけは全員その書き込みだった。

「俺たちはお互いにあのゲームの中で確かに出会った。そして、ゲームが落ちた……つまりブラックアウトした。その後俺たちは☆ちゃんでまた会い、そして停電した。これは予知ゲームの噂の通りと言えるんじゃないだろうか」

確かに、という呟きが誰からともなく溢れる。しかし、竜吾がふと思いついたように反論した。

「いやでも、別に直接顔合わせてたわけじゃなくね。むしろ、あのゲームの通りのことが起こるなら今っていうか」

偶然かもしれないし、と付け加えつつ竜吾は頼んだ料理を口に運ぶ。

「確かにそうか……」

燐もそう言うと料理を口に運んだ。

「確かに、今停電が起きたらゲーム通りですよね」

みのりが店内に吊るされた洒落たランプを見上げながら言う。ランプは室内の空調に合わせてゆらゆらと揺れている。

「まぁ、そんなこと起こるわけないじゃない。噂よ、噂」

有紗がそう笑いながら水を手に取る。しかし、残りの三人の脳裏にはとある一つの言葉が浮かんでいた。

「それ、フラグってやつ」

ランプが、視界が、暗転した。

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