Chapter-2・ゲームのデジャヴ
有紗が開いた☆ちゃんねるの最下部には、先ほど書き込まれたばかりの新しい書き込みがあった。
『開始直後、NPCと会話してたら落ちたんだが。ありえなさすぎるだろjk』
その書き込みを見て二人は顔を見合わせる。
「全く同じことが起きた人がいたみたいね」
「そうだな。俺たちも書き込んでみるか、同じような内容が複数名に起こってるとなれば致命的なバグだろうし」
そう話している間にもスレッドの会話は続いていく。
『私も同じことになりました!』
『マジで!!同士』
燐がキーボードに手を伸ばす。カタカタと素早く入力し、投稿した。
『俺も全く同じことが起きた。しかもパソコンごと落ちたから再起かけたらゲームごと消えてた』
『そうそう!そうだよな』
『私の方もそうなりました!何なんでしょうね……』
「燐、この人の名前。見てみて」
「名前……?あ」
有紗に言われるがまま燐が発言者のハンドルネームを見てみる。珍しくコテハンの人たちだったようで、ネットスラングを使っている方はドラゴファイア、礼儀正しい方はみーにゃと書いてあった。
「さっきのNPCと、同じ?」
「そうなのよ。なんでかしら、聞いてみる?」
燐がさらにキーボードを打つ。
『ところでお前ら、NPCと名前が被ったりしてないか?』
『は?被ってねぇし。何言ってんだお前』
『NPCさんはRINって名前でしたよね?だとしたら、わたしたちとは被ってないと思います』
燐と後ろで見ている有紗が目を見開く。
『そんなわけあるか、俺が見たNPCにはDRAGOFIREとMINYAって書いてあったぞ』
『嘘乙。俺のとこもRINと名無しだったからな』
「ゲーム内容が、食い違っている……!?」
「そうね。ますます訳わからなくなってきたわ」
二人が再度顔を見合わせる。首を傾げ、画面に向き直る。直後、有紗が閃いたようにぽんと手を打ちスマホの方から☆ちゃんねるに書き込みを始める。
『そのRINって奴はどんな外見してた?赤髪に黒いシャツの奴じゃなかった?』
『そうだが』
『最初にキャラクターを選ぶ時さ、あんた緑か水色の奴選んだでしょ。多分あれ、赤と黄色、緑と水色でペアになってて選んでない方のキャラクターがNPCとして出てくるようになってるのよ』
『なるほどな、一理ある』
長文を打ち込んだ有紗がドヤ顔をして燐の方を見る。燐はそちらを少し見ると、パソコンに向き直って書き込みを続けた。
『じゃあ、名前の件はどうやって説明するんだ?』
『それは、偶然とか、直前に入力された名前を使ってるとか、なんか色々』
『それは不自然すぎないか?』
燐からの書き込みに有紗が固まる。それをよそに、燐はさらに書き込む。
『まぁ、もしかしたらMMORPGみたいに互いのゲームが繋がっていたのかもしれない。可能性は低いが』
『それにしても不気味なゲームだよな。噂もそうだけど、なんか俺が選んだキャラ、リアルの俺にそっくりなんだもん』
『あ、それ、私も思いました。なんか自分に似た人いるなぁって』
『俺もそうだ。嫌だったが友人のせいで渋々自分に似てる奴を選んだ』
『私は隣で見てただけだけど、確かに私に似たキャラもいたかな』
不気味すぎるだろ、と思わず燐の口から言葉が漏れる。有紗が静かに同意するように頷いた。
『つまり、選択キャラクターは全員そっくりさんがいるってことでFA?』
ドラゴファイアの軽い口調の書き込みが投稿される。口調は軽いが、言っていることは不気味もいいところ、かなりホラーなことだ。
『もっとしっかり話してみたい。他SNSの垢とかないのか?』
『トゥイッターならありますよー』
『同じく。トゥイッターなら』
『あるわよ』
つぶやき系SNS、トゥイッター。そこでならグループDM機能などを使ってもう少し細かい話をできそうだ。その旨を伝えると、燐はパソコンを閉じ有紗に返した。
*
「まさかオフ会にまで発展するとはなぁ。マジかよ」
メガネを軽く押し上げ、緑髪の青年
話題のフリーゲームの話から結局オフ会をして直接容姿を確かめたりしつつ話そう、という流れになったことを思い返し、再度ため息をつく。
人は苦手だ。いちいち反応を伺わないと心配になるから。
集合場所は近所の栄えた場所だった。比較的家から近いのは好都合だ。しかし、竜吾にはある懸念があった。
「みんなサクッと集合場所が決まったってことは、もしかして近所住みだったりするのかな。嫌だな……」
そう独り言を呟くと、スマホが震える。見れば、幼馴染の
『みぃ、ちょっとお出かけすることになりました。なんか欲しいのあったら買ってきますよー!』
そのメッセージを見た竜吾は少し考える。もしかして、いや、確かにあの水色髪のキャラクターはみのりに似ていたが、まさかそんな。
『いい。俺も出かける用事あるから自力で買える』
そう返信すると、竜吾は出かける用意をするためにクローゼットを漁り始めた。
その時、ぷつりと電気が切れた。
*
「燐、準備できたー?」
部屋の出口で有紗が仁王立ちをしている。彼女はもう出かける準備も万端なようで、着替えて朝食をとっただけで頭などがまだボサボサな燐を急かしている。
「おう、今行くから……」
そう言いかけた時、突然部屋の電気が切れた。部屋だけではない。廊下も、おそらく階下の電気も切れている。暑さのせいでカーテンを閉め切っていたため、真っ暗だ。燐はカーテンを開けつつ有紗に声をかける。
「停電か?おい、有紗ー?」
部屋の出口に有紗の姿はない。窓のない暗い廊下を、スマホのライトを頼りに進む。一階のカーテンも開け、ある程度家の中が明るくなったところで燐は再度辺りを見回す。有紗の姿はない。
「暗い中で変に隠れると危ないぞー」
声をかけるが、返事はない。
ぱちぱちと電球が明滅し、再び電気がつく。どうやら復旧したようだ。
「有紗ー?」
「ごめーん、びっくりして逃げちゃってた!」
そう二階から声がする。しばらく待っていれば、階段の先から有紗が姿を現した。
「もう家出れる感じ?」
「そうだな、一応準備はできた」
そう言うと燐は玄関の扉を開けた。あの夢の中のような熱気が燐を襲う。汗が頬を伝った。
「行こうか」
有紗が階段を一段飛ばしで降りてくるのを待ち、二人は外へと出た。
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