第104話 魔界の村にて
「さて。これを食べるがよい」
イリスが差し出したのは、深い
表面はつやつやと
「え、これ食べられるの? 石じゃない?」
「
シャルが不思議そうに果実を手に取る。
「ラクルベアルと言う。人間界で言うところの朝食として、よく食されている」
イリスはそう説明すると、自分も一つ手に取った。
その仕草には気品があり、まるで高級なワインを口にするような
「そら、こうして――」
イリスが犬歯で果実に小さな穴を開ける。
すると中から
「へぇ~。じゃ、いただきまーす!」
シャルが
液体が
味は……
「む、口に合わぬか?」
イリスが心配そうに
むしろ、意外なほど
「そうか。
イリスは安心したように
その表情は昨夜よりも
「よーし、朝ごはんも食べたし出発する?」
「待て。その前に心得ておくことがある」
イリスはシャルの勢いを制すると、窓の外を指差した。
そこには、クリスタルが
朝日を受けて、無数のクリスタルが七色の光を放っていた。
昨夜の不気味さは消え、代わりに神秘的な美しさが
「
イリスの声が、朝の空気に
「なぜなら、クリスタルは
確かに、クリスタルの生えていない場所は、どことなく生気が感じられない。
暗い色をした地面は、まるで大地が
「
「そうだ。そこに生息しているのは
もしくは、
少し寒気がした。なるほど……。
つまりクリスタルがないところには危険な
「次に、荷物は最小限に。我は
そう言って、イリスは小さな
なんか路銀すらほとんど入ってなさそうなんだけど……。
「えー? でも食料とか
「
イリスの言葉に、シャルは「うーん」と
「とはいえ、お前たちは人間だ。最低限の装備は持って構わん」
なにしろ、
シャルも同じ。
「ま、いっか。とりあえずはこれで行こうか」
「よし、では参るぞ。
イリスが先導し、城の出口へと向かう。
その足取りには、昨夜の弱々しさは
まるで本当の
■
「右を見よ。あれが命の
イリスの声に、
大きなクリスタルの群生地が、朝日に照らされて
青や
「命の……
シャルが首を
すると、
「
イリスの説明に、
つまりこのあちこちに生えたクリスタルは、かつて生きていた
「
イリスの言葉には確かな
クリスタルの
「死して
歩みを進めながら、イリスは語り続ける。
「だからこそ、クロムウェルの所業は許されん。
イリスの声が低く
クリスタルの音色も、その感情に呼応するかのように
「それにしてもずいぶん広いね。目印とかないの?」
シャルが周囲を見回す。確かに、クリスタルの群生地は果てしなく続いているように見える。
「心配には
イリスが立ち止まる。
キィン、キィン、と
よく聞くと、その音には方向性があるような気がする。
「古くからの道筋ほど、クリスタルの反応が強い。つまり、この音が我々の
なるほど。だから道を
……いや、
「うわ! 出た!」
「チッ、虫けらどもが」
「クソッタレェ! なんで
「めんどくせぇよぉ……生きるのがよぉ」
「相変わらずうるさいなー、こいつら」
シャルが
「待て。
イリスは一歩前に出ると、静かに歌い始めた。
その声に呼応し、周囲のクリスタルが
「こ、この……ギイィィィッ!」
「キシャアアアア……!」
「ふん。
イリスは冷ややかな目で
シャルは
「すごーい。イリスの歌、やっぱ効くんだね」
「当然であろう。我は
イリスは
その姿は確かに
「さて、行くぞ」
遠くでは赤い山々が、その
クリスタルの音が、
キィン、キィンという
不思議だ。最初は不気味に感じた
イリスの
「あ、あれ見て! なんか建物がある!」
シャルが指差す方向に目を向けると、確かにクリスタルの群生地の向こうに小さな集落が見えた。
建物は
遠目には
「ふむ。もしやここが『
イリスが
「イリスの知ってる場所?」
「ああ。かつては盛んな交易地だったのだが……」
言葉の
服装は簡素だが、どことなく上品な
「あ、あれは……まさか……」
その声に、
「あの
「本当に
「
しかしイリスは一歩前に出ると、静かに手を上げた。
その仕草には
「やはり、
イリスの声が
「我の
「は、はい! クロムウェル様の城から、そのような
クロムウェルの名を聞いた
「……様、か」
イリスの声は低く、冷たかった。その声に、
「待ちなさい。そこの者」
新たな声が
その姿に、イリスが目を細める。
「ラオス……お前まだ生きていたか」
「はい。千年もの長き時を経て、こうしてまたお目にかかれること……」
老
……しかし、その時。
「待て! なぜ
若い
「我らの主君はクロムウェル様だ!
その言葉に、場の空気が
しかしイリスは静かに目を閉じると、ゆっくりと歌い始めた。
その声は、
まるで
すると、集落中のクリスタルが
青く、そして
「……! この
「これが……
イリスの歌が終わると、場は深い
「
イリスの声が、
……それから集落の広場に、急ごしらえの
そこにイリスが
「クロムウェル様は、いや、クロムウェルは
ラオスが
「
イリスはじっと耳を
「かつてのように、
「ふむ……」
イリスの声は低く、重い。
シャルもまた、
「たぶんアレかな……
「……!」
そう考えると、ことの重大性が理解できる気がする。
自らの配下以外には水を
「イリス様、どうか我々をお救いください」
「
その願いは切実で、イリスの
「約束しよう。必ずや事態を正す」
イリスの声は、迷いのない強さを持っていた。
その言葉に、
それからしばらくして、出発の時が近づいてきた。
村を出ようとする
「イリス様。どうかこれを」
「……そのような
「いいじゃん! いただきまーす!」
イリスが断ろうとした
「お、おい……」
「いいじゃんいいじゃん!
イリスが
が、シャルは意に
「シャルという人間は、なかなかに図太いな」
イリスが小さくため息をつく。でも、その口元には
「よし、そろそろ参るか。おい、シャル」
「はーい、オッケー! じゃあね、
「イリス様、どうかご無事で!」
「人間もまた来いよ!」
「我々はここでお待ちしております!」
シャルは大きく手を
イリスは最後まで
けれど、その背中には確かな決意が宿っているように見えた。
遠ざかる集落を
クリスタルの群生地の向こうで、
「クロムウェルめ……
イリスが歩きながら
「
シャルが力強く言う。その声にはいつもながら、不思議な説得力があった。
この旅の先で、なんとしても人間界に帰らなければ。シャルと
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