第49話 帝国脱出
「ここだよ!」
シャルが立ち止まったのは、古びた酒場の前だった。
看板には「
……こんないろんな街にあるものなの、
もしかして
「ちょっと待ってて」
シャルは中に入っていった。
しばらくすると、
男性は
顔には無数の
「こいつらが、国境
男性の声は低く、少しかすれている。
タバコを吸いすぎているのだろうか。
「そうそう。で、
「ああ。だが、代金は
シャルは
男性はそれを受け取ると、あたりを
その目は、
「よし、ついてこい」
男性は
道は
足元の
やがて、
男性は周囲を
ゴトリ、という音と共に、
階段からは冷たい風が
「ここから先は自力で行け。この地図を使え」
「わかった。ありがとね!」
男性は古ぼけた羊皮紙の地図をシャルに
地図からは、長年の使用による独特の
「それと足元は
「うん。どうも!」
「また
(なんか過保護だな……)
あの人ホントに
この国の
「さ、行こ!」
シャルの声に、
暗い階段を降りていく。足元がぬめっとしていて、
階段の石は冷たく、
地下に降りると、そこは広い水路だった。
ポタポタと水が落ちる音が、不気味に
光源は、
ランプの明かりは
「うわー……ちょっと
シャルの声が、不安げに
水路の水は黒く
水面から
「やめなさいよ……! こっちはついさっき死体に
リンダが寒そうに言う。死体に
足音が
歩き始めて30分ほど
「……!」
兵士たちの
「ちょっ、マジ!? こんなとこまで
シャルが
水しぶきを上げながら、暗い水路を
「あそこだ!
「ちょっと! あなたが
「そ、そうとは限らないでしょ! とにかく走ろう!」
兵士たちの声が、後方から聞こえてくる。その声が近づいてくるのがわかる。
しかし、立ち止まるわけにはいかない。心臓の
走りながら、
もしかしたら、そこに
そう思った
「あっち!
確かに、前方に水路の
右に行くか、左に行くか。
ランプの明かりが
「右だ! 地図ではこっちのほうが長く続いている!」
ロイドの声に従い、
しかし、そこで予想外の事態が起きた。
足元の水の流れが急に速くなったのだ。水の音が一気に大きくなり、耳をつんざくほどだ。
「うわっ!」
シャルが悲鳴を上げる。水位が少しずつ
冷たい水が
「みんな水から出て!
リンダが水から出ようとしてその場に転んでしまう。
なんとか流れに
水の勢いは増していく。
「――よし! もうこのまま水の流れに乗ろう! 一気に移動できるかも!」
「ちょ、あなた本気!? きゃああああッ!」
リンダの悲鳴が
「ミュウちゃん
「……っ!」
シャルの体温が、冷たい水の中で
水流に
どこに向かっているのか、まったくわからない。
ただ、水の中で必死にシャルにしがみつくことしかできない。
耳の中に水が入り、周囲の音が遠くなっていく。
そして――
そして
「ぶはっ!」
シャルが大きく息を
冷たい空気が肺を満たし、
青い空が広がり、
周囲には緑豊かな森が広がっており、鳥のさえずりが聞こえる。木々の
「み、みんな無事ー!?」
シャルの声に、リンダとロイドもかなり
ひとまず全員、無事に地上に出られたようだ。
水しぶきを上げながら、
激しい流れに
やがて、なんとか
「はぁ……はぁ……」
全員が息を切らせながら、岸辺に
買ったばかりの服が
冷たい風が
だけど、地面の
「ふぅ……いや~、なんとかなったかな。
シャルが心配そうに
全員が無事であることを
「ええ、なんとかね……。まったく、もうちょっと後先考えなさいよね」
リンダが
川の向こう岸には、密集した森と、背の高い
こちら側は
「ねぇ……ここ、どこだと思う?」
シャルの問いかけに、全員が顔を見合わせる。
ロイドが地図を取り出そうとしたが、水で
「おそらく……」
ロイドが空を見上げ、太陽の位置を
「国境を
その言葉に、全員が
風が
「本当? じゃあ、あたしたち
シャルの声に、希望の色が混じる。
「一応……そうなるわね。はぁ、やれやれだわ」
リンダが言葉を
言葉と裏腹に、
鳥のさえずりと川のせせらぎが、
「さて、それじゃアランシアに行こうか」
シャルがそう言って
「…………」
「どしたのミュウちゃん?」
シャルが不思議そうに
追い回されるし、寒いし、危険な国。
……だけど、そこには苦しんでいる人たちがたくさんいた。
収容所の人は無事に
それすらも、ここからではわからない。胸が
「あの国のことが気になってる?」
すると、
「
「あなた
「まー、あたし
リンダは理解できない様子で頭を
確かに気持ちはわかる。
だけど、助けてくれる人もいた。
そんな
「よーし! とりあえずはアーケイディアまで行こう!」
シャルの声に、ひとまず
足取りは重いが、自由を手に入れた喜びが体を軽くするようだ。
風に
時折、後ろを
グレイシャル
あの国での苦しい
「ねぇ、ミュウちゃん」
歩きながらシャルが
「アーケイディアに着いたら、まずは温かいシチューが食べたいな。
覚えてる? あそこの
その言葉に、
「
その
「それとルシアン王にも会わなきゃね。きっと助けてくれるはずだよ」
そう思うと、少し安心感が広がった。心の中に、暖かな光が
それでも、太陽の光で少しずつそれが
グレイシャル
でも、ここからは
そう信じて、
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