第10話 ロコス・ロードデンドロン
疑問に思わなかったわけじゃない。
考えても仕方がないことだから、棚上げにしてきた。
なんで悪役令嬢に転生したのか。
普通は主人公じゃないの?
だって、ゲームでは主人公を操作するんだよ?
でも実際は悪役令嬢になってしまった。
この世界の住人にはちゃんと心がある。
魂が宿っている。
もちろん、悪役令嬢『ロコス・ロードデンドロン』にも魂があったはずだ。
じゃあ、
「わたしが本当の『ロコス・ロードデンドロン』。あなたも知ってるでしょ? イベリス」
「……は?」
思わず、声が漏れた。
何か感情を込めたつもりはなかったけど、とても低い声だった。
「『本当の』って、どういうこと? ロコスはわたしでしょ?」
「あなた、イベリスなんでしょ!? そうとしか考えられない。そうじゃないとおかしいじゃない!」
「わたしは、イベリスじゃない……。死んだらいつの間にか、この体に転生してて……」
イベリス(ロコス?)は
「え、うそ。なにそれ。悪い冗談はよしてよ」
「嘘じゃない。本当なの。わたしはイベリスじゃない。全く違う人だったのに、ある日突然ロコスになっていて……」
「ナニソレ……」
イベリス(ロコス?)は目を開いたまま、動かなくなってしまった」。
「どういうことだ、イベリス!?」
レン王子が詰め寄ると、彼女の頬に涙が伝った。
「ごめんなさい。レン王子。私はずっとあなたを騙していました」
「どういうことだ!? お前の願いの魔力は偽物なのか!?」
「違います。本物だから、こんなことになっているのです」
「はあ!?」
イベリス(ロコス?)の言っていることは要領をえていなくて、レン王子も混乱している。
「ちょっとごめんなさい」
おばさまはゆっくりと屈んで、彼女の瞳を優しくみつめた。
「ゆっくりでいいの。詳しい話、聞かせてくれる?」
「……はい」
少し落ち着いた様子で、イベリスは話し始めた。
だけど、ところどころ要領を得なかった。
まとめるとこうだ。
今のイベリスは、別の世界線ではロコス・ロードデンドロンだった。
レン王子と婚約を結び、順風満帆な公爵令嬢ライフを送っていた。
だけど、突然現れたイベリスという少女のせいで、メチャクチャになってしまった。
レン王子はイベリスに執心するようになり、ロコスからどんどん離れていった。
ロコスは、それが許せなかった。
イベリスを排除するために、あらゆるイジメを行った。
でも、それが悪かったのだろう。
イジメを大勢の前で打ち明けられたせいで婚約破棄されて、国外通報までされてしまった。
それでも、ロコスは諦めたくなかった。
国外追放になる寸前、ロコスはイベリスの前で叫んだ。
自分のレン王子への想いを吐き出し続けた。
すると、イベリスを次のように言ったらしい。
【わたしの『願いの魔力』を使ってください】
そして願った。
公爵令嬢の身分を捨てても、イベリスのようにレン王子に愛されたい。
その結果、ロコスだった彼女は10歳のイベリスになっていた。
「……訳が分からない」
レン王子は頭を抱えながら、その場にへたり込んだ。
綺麗な服に砂がついているけど、気にする余裕もないみたいだ。
「なるほどね。納得したわ」
「どうして納得できるんですか!?」
レン王子が叫んだ。
「私には、ある程度前の世界線の記憶が残っているから」
「はあ!?」
大きな声を上げたのは、イベリスだった。
悪役令嬢っぽい声で「おお、さすが本家」と思ってしまった。
「そんなことあるわけない! 誰も前の世界のことを覚えていなかったんですよ!?」
「私が『土の聖女』だからよ」
「説明になってないですよ!」
「知らなかった? 『願いの魔力』の力は『大精霊』には効きにくいの」
おばさまは「だから正確には他の聖女や聖人もうっすら記憶があるんだけどね」と付け加えた。
「じゃあ、さっきの『願いの魔力』の不発も聖女様の仕業なんですか!?」
おばさまは首を横に振った。
「『願いの魔力』は言い伝えられているほどに万能じゃないの。本当に叶えたい願いと一緒に『自分の不幸』を願わないといけない。だから、王族のあなたに使うのは難しいでしょう」
「そ、そんなふざけた話があるっ!?」
「悪用されないように、神様が設計したのでしょうね」
「…………」
おばさまがしんみりとした声音で言うと、全員が無言になってしまった。
まるでお通夜みたいな雰囲気だ。
そんな中、ペリットが耳打ちしてきた。
「ロコス様。とりあえず、この2人を殺してもよろしいでしょうか? ロコス様の敵ですから」
「この空気でよく言えるね!?」
この時ほど、ペリットのことを恐ろしく思ったことはない。
でも、彼のおかげで息苦しさから抜け出せた。
わたしは改めて、
(なんか険悪な雰囲気だ)
イベリスとレン王子。
2人の間の空気は最悪だ。
このままでは自然と離縁してしまいそう。
この2人の結末が、こんなものでいいのだろうか。
いや、いいわけがない。
レン王子もイベリスも純粋に愛し合っている。
わたしは10周以上も『けも溺!』をプレイしてきたんだ。
ハッピーエンド以外は認めない。
それと、ちゃんと話しておかないといけない相手がいるし。
「このままここにいても仕方ないから、移動しない? とりあえずロードデンドロン家にでも」
わたしが声を掛けると、みんなはゆっくりと立ち上がり始めた。
「ロコス様。何をする気なんですか?」
「ねえ、ペリット。どんな結末が待っていても、ずっとわたしの傍にいてくれる?」
ペリットに動揺した様子はなかった。
それどころか、その言葉を待っていたように美しいお辞儀をみせた。
「もちろんですよ。あなたと一緒にいられるなら、どんな地獄でも天国よりも美しい景色になるでしょう」
そこまで言えとは言ってないけど?
顔、熱くなってきちゃったじゃん。
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