第6話 聖女サリー ①

「………………………………………えっ?わたし、ですか?」


突然、王家の使いと名乗る使者に渡された書状。

末端とはいえ、貴族家子女としてその紋章は見間違えようがなく。


突然の、先触れもなく、王家からの使者を父が迎え入れて。

父がもてなそうとしたところ、使者の用件は、私への遣いで。


しがない男爵家には、家令とはいっても年老いた執事がいるだけで使者をもてなすことも叶わず、祖母が遺してくれた品の中から石付きの簪を一つ渡して引き取っていただいて。

本来ならばもてなしたうえで金品を下賜しなければならないのだろうが、使者もそんな事は承知の上で来ていたのか上機嫌で引き上げていった。


「ねえ、お父様、どういうことかしら?」


私の手元には、紋章付きの封書。

家令の手元には、ずっしりと重そうな革袋。

そして、母の傍らには、装飾をこれでもかと施された、桐の箱が。


「………………………………………と、とにかく、あ、開けて、みて、うぁ?」


父は、すでに、役に立たなそうだ。

無理もない。

王家からの書状など、父が代替わりした時に見たことがあるくらいで。


「えっ…………………………呼び出し?」


何かの間違いでは?

そうとしか思えない文言が、書かれていて。


「わ、わたしっ、が、せっ、聖女ぉ?」


端から端まで、何度も読み返してから父に渡して、呆然としてしまい、何とか崩れ落ちそうになるのだけは堪えた。


「か、かあ、母さん、そっ、その、は、箱を、あ、開け、て!」


「私は貴方の母ではありませんよ、どれ、ぇ、」


箱を開けた母が、そのまま固まって絶句して。

書状には、支度金と登城用にドレスとアクセサリーを下賜すると書かれていたけど。

箱の中身は、違うのかしら。

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