第一章

第一章 第一話

2028/7/18。あと少しで夏休みだなと考えながら

大学1年生となり早3ヶ月の鈴木流太郎はキャンパスへの道を進んでいた。


大学に受かってからはウキウキして楽しかった毎日も3ヶ月経てば段々と辛くなってきた。

とは思ったもののコロとかいうクソウイルスのせいで中学校の全てと高校の大半を自宅で過ごした反動もあるのだろうかと少し前までは思っていた。

歩くだけでシャツに不快感を与え鈍っていく体とそうさせる暑さに嫌気がしながら一歩一歩進む。


「〜〜〜」


いまも遠くから聞こえるその他諸々の声。

欠伸をしながら呟く


「今日も暑いな……」


「本当だよな」


そう答えたのは斜め後ろを歩く同じ高校からの同級生。

名前は……


「気配なく近づくのはいい加減止めろ?溝垣耕助」


「仕方ないだろ……ここ最近は購買のおねぇさんにすら無視されるんだから……」


「いやそれはお前が女好きなだけだろ……それも特大の」


呆れながら言い放つ。こいつとの付き合い始めは高校三年。実質入学式みたいだった3年の始まりからずっと仲が良い奴。……週一で告白してフられるまでワンセットなことを除けば成績も中の上かつ顔も悪くない優良物件。って…なんで俺が不動産屋みたいなことを……


「誰が浮気性の疑い有りだって?あ?」


どうやら声になっていたらしい。

あと浮気性って何だ。俺はそんな事は考えてない。


「悪い悪い…でもいい加減告白祭りはやめたほうがいいんじゃないか?」


「うるせぇなぁ……人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られてなんとやら、だ。素水ィ……」


「いきなりネットネームで話すんじゃねぇよ……」


素水。俺のネットゲームでの名前。

由来はあまり無い。ひっくり返せば水素(H2)

故にもう一人の高校からの同級生からはh2と呼ばれることもある。


「そろそろ彼女欲しいなー」


頭に手を回しながら溝垣がいつもの様に呟く


「告白祭りなのに誰一人として付き合えないお前も大概だろ?」


「仕方ないだろ…あのクソウイルスのせいで全国の同級生は灰色どころか透き通った学園生活を送ってるんだから……」


「透き通った世界観には会ってんじゃねぇの農袋さんや」


「そうだなブルア……ってなにちゃっかり俺のネットネーム呼びを


「仕返しだバカタレ」


溝垣の言葉を遮って言う、

コイツやってるゲームの推しがロリ体型な事も傷なんだよなぁ……


「誰が熟女好きだバカタレ」


「思ってねぇよ!せめて当てろ!」


「ところでだな流太郎君や…」


「話をすり替えるな」


「あの娘良くね?」


「あーまた始まったよこいつの女好き」


言葉通りのことを考えながら溝垣の目線を追う。

溝垣は気にいる娘がいればすぐこれだ。

流石に小学生とか明らかにアウトな女子には手を出してない……はず……。

溝垣の目線の先にはやはり女子がいた。

女子高生だろうか、背は低めだが制服と手に持つ単語帳が英検準2級と書いてあるのを見て

警察に連絡しなくて済みそうだと思いながら。


「そこの彼女!俺と一緒に飯行かない?奢るよ?」


「おい馬鹿!彼氏持ちだったらどうするんだ!

 すみませんうちの馬鹿が……」


ナンパのお手本みたいな奴が空回りしてるしてるのを手で横にずらしながら謝罪する。


「…………大丈夫です」


かなり長い沈黙の後そんな返事が帰ってきた。

いきなり初対面の狂った野郎が告白してきたらこうもなろう……


「ではこれで失礼します…

 行くぞ全身下半身野郎」


「黙れ素水!お前に私が救えるか!?」


「警察呼ばれてぇか?」


「すみませんでした」


即答だった。


可愛い娘だったなー付き合いたいなー

ぬへへへへへへ……


気持ち悪い笑みを浮かべる溝垣を引っ張り、

周囲の目に気付かないふりをして俺と荷物はキャンパスに向かった


「水素水………?」


溝垣の被害者ナンバー271(多分もっと少ないけど気にしない)ちゃんが何か呟いた気もしたが

隣の告白野郎に全集中していた俺はそんなことに気付く余裕は無かった。

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