23 憤り
場所は王宮、その中でも開けている中庭にラジェとブーティカの二人がいた。
相も変わらず、ブーティカは良く喋り、時折ラジェに対して話を振ってはラジェは適当なは返事を返すといった光景になっていた。
この光景、王宮にいる者達からすれば見慣れたものとなっていたりする。
そのことをラジェが知ったら不機嫌になってしまうだろうからグランもオリーも口にだすことはないけれども。
さて、あーだこうだと話しているうちにブーティカが黙り込んでしまった。
ラジェはなにを言うでもなく、その怪しい一挙手一投足を見逃すまいとジィと見つめる。
ブーティカは決心したらしく、ラジェに耳を貸すように言った。
「ラージェナシュタン様、貴方は王になりたくありませんか?」
ブーティカの質問にラジェは一瞬固まるものの、すぐにいつもの調子を取り戻した。
「何を……。いえ、俺に、そのつもりはありませんよ。第一、兄がなるのですから俺のでる幕なんてありません」
ラジェの言葉の意味はそのままのものであると言うのに、勘違いしてしまったらしいブーティカは更に話を進めていく。
「あら、お兄様に遠慮する必要はありませんのよ。それに、あの方はどうも王にはなれないようですから……」
ブーティカの発言にラジェは眉をしかめ、首をかしげる。
なぜその発言になったのか、発言の意図を図りかねているのだろう。
「私、見てしまったのです。禁書指定されたと噂の本をグランシュタン殿が持ち出しているのを……」
ブーティカが言っているのはカフが発見されたときに持っていた本の事だろう。
「いくら王太子とはいえ、国王の許可もなく禁書を持ち出すのはいかがなものかと……。ラージェナシュタン様もグランシュタン様も閲覧の許可は出ていないのでしょう?」
ブーティカの言葉にラジェは戸惑いつつもうなずく。
「それなら……。流石に王太子とはいえ罰されてしまうのではないかと思うのです」
禁書を無断で持ち出し、罰されてしまうようなものが国王になれるわけないだろうと言うことらしい。
「仮に私が見たのが勘違いだと言うのならば良いのですが……。このまま黙認されてしまえばどうなることか、一度調べてみるのをおすすめしますわ」
「そう、ですか……」
ラジェの戸惑いぐらいを見たブーティカはさもありなんと特になにも言うことはなく、自分の言葉を続ける。
「黙認されているのでしたら、私は貴方が王になるべきだと思いますの」
ブーティカの言っていること事態は全うであろうが、現段階は疑いのラインなのでラジェは曖昧に返事をするしかなかった。
「そもそも、どこで見たのですか?」
「西の書類倉庫なるものがある箇所で部下が見たと……。もしかすると、あの禁書以外にも持ち出してしまっているかもしれませんわ」
あぁ、これは黒か。
ラジェはそれを理解すると隠れていた兵達の合図をだした。
次の瞬間、飛び出した兵士達がブーティカを押さえつける。
「な!何をするの!ラージェナシュタン様!助けて!」
ラジェは大きくため息を吐いた。
「まず一つ、俺は王位継承権を破棄しましたから、王にはなれませんよ。あなたが俺と結婚して王妃の座につくことを望んでいるのは薄々察していまし、元々要らないものなったので少し前に父に進言したんです」
ブーティカどころか回りにいた兵士達の表情が驚愕の色に染まる。
「二つ、王宮の西側には書類倉庫なんてありませんよ。あるのは物置や応接室くらいです」
「は?」
「貴女が言ってるだろう部屋は数日前まで物置だったんですよね。それで、ちょっとネズミをあぶり出すために使ったんですよ」
仕組みは単純明快、ブーティカ一行の視線が罰の場所に集中しているときにササッと密書(偽物)を物置に持ち込み、この部屋の前に書類倉庫と書かれた看板をぶら下げた。
勿論、作業している面々にはハウに頼んで姿が見えなくなる魔法をかけてもらっているので目撃者はゼロである。
完全に信用できる身内だけで行った作戦だから情報が漏れる心配もしなくて大丈夫だ。
あとはお喋りな使用人に書類倉庫があると言う話しと、そこには禁書がおかれていると言うはなし押しておけば勝手にブーティカの耳にはいる。
今までいくつも失敗してきたブーティカは焦って禁書に狙いを定めると判断したグランの作戦である。
そしてブーティカの使いがやってきて、見事に禁書(偽物)を持ち出していったのだ。
この者は今ごろ牢屋に放り込まれている頃だろう。
「つまりは、まあ……兄さんの策にはまったって言うわけ。あそこ、元々物置で防犯もなにもないのに禁書や密書なんておくわけないじゃん」
「なっ……」
「そもそもの話し、書類倉庫も金の管理をする場所も、王宮の西側にはないし」
ラジェの発言に被さるように、いつの間にやら現れたグランがラジェの名を呼んだ。
グランの斜め後ろにはダフネがいる。
「喋りすぎだ」
「あぁ、ごめん。て言うわけだから、別の話しよっか。なんで怪しまれてたか教えてあげるよ」
ブーティカは今だ状況が飲み込めていないのか、何を言うでもなく放心状態に見える。
「最初から怪しんではいたんだよな。だって、向こうからめちゃくちゃ威嚇してくる相手が貿易とか言って息なりうちに来たら怪しむでしょ。貴女がやったことについてはダフネの方が詳しいけど」
ラジェはそういうと視線でダフネに喋るよう催促する。
「そこから色々やってましたよネ。今回のもそうですけど、あとは盗撮と国外秘の資料の持ち出し、それから計画だけですけどオリー様のこと、殺すつもりだったでショウ?」
ダフネが持っているのは計画書である。
「燃やしたのに……」
「アニエス王国には破片さえ残っていれば修復可能な優秀な魔導師がいるのでな。それに、調べ物が特なのもいる」
勿論、ハウのことである。
「団長に言われて調べてた隊長が貴女がらみだって気がついたときにグランさんに言ったそうなんですヨ。ちょうど僕の持ってた証拠を会わせると見事に貴女のアリバイが崩れるので笑いましたよネ」
ダフネが復元された計画書以外にも次から次に証拠品になる物を取り出してはブーティカの顔色は悪くなっていく。
ここでようやっと正気に戻ったらしいブーティカは吠える。
「わ、私のことを監視していたと言うの?賓客である私を!?これは国際問題になるわよ!」
誰もブーティカの言い分を気にする者はいない。
それどころか何を言っているんだとでも言いたげな目線を送っている。
「あんたのやってることの方がよっぽどヤバイけど?」
なにもしていないのならば監視が問題視されてもおかしくはないが、現状はやらかしてしまっているブーティカの方が不利なのだ。
「おっと失礼、思わず敬語が抜けちゃいましたヨ。それで、貴女が僕とグラン様を盗撮しようとしていたのも知っているんですよネ。結構うざかったデス」
「それは男女が二人で密会だなんて不定行為だと思ったから……」
「僕ぁドラン騎士団の者ですから報告するために二人っきりになることはそれなりにあるんですヨ。そもそも、王宮ではわりと有名ですけど、僕の性別って結構複雑なんですよネ。一応、女ではないんデス」
「は?」
「魔族なものでして、ネ」
ダフネの正確な性別……というか種族の特性を知る者なんて数える程度しかいない。
そのうちの数名がオリー、シェナ、カフ、ドラゴノフ、国王と王妃であるが故にダフネの身の潔白を証明することなんて簡単だった。
「と言うわけで、簡単に潔白が証明できちゃうんですよネ。性別のこと七不思議扱いされるのは癪ですけど、役に立つからモーマンタイってやつデス」
そういって、ダフネはにっこりと笑うものの目は笑っていなかった。
「勿論、ダフネの種族のことはきっちりと把握しているので不貞なんか出来ないと断言できますわ」
そうしてオリーもにっこりと笑うが、こちらも目が笑っていない。
双方揃って、自分の大事な者に手を出されそうになって怒っているのだ。
「と言うわけで、これに関しては君の勘違いと言うわけになるんだが……。それはそうと、国王が他のことにかかりきりで君まで気にかけている余裕がないからって、よく我らが城で好き勝手してくれたな」
そうして、怒っているのはダフネだけではない。
他のことで忙しくて手が回らないから今回の件を任されることになったグランも同様である。
「目的は後で聞くとして、たくさんお話しすることになりそうだな」
「ひっ……」
グランから放たれる怒気はその背に般若を幻視させるほどのものであり、ブーティカは怯えてしまう。
「わ、私はなにもしておりませんわ。全て使用人達の失態でしてよ!」
「燃やしたはずだとかいってるのをこの場の全員が聞いたし、それ以前に使用人の独断行動だとしても貴女を拘束しない理由にはならないんだよ」
どうにか逃れようとしたブーティカだったが、グランに正論を真正面から浴びせられ唇を噛み締めて黙ってしまう。
「さて、君は他国のお姫様とはいえ密書の持ち出しを部下に指示したり、許可のない禁書の閲覧未遂、これをかばうことは出来ないし見て見ぬふりも出来ないわけだ」
これが自国の者ならば、そこら辺を一切気にすることなく処罰を下せると言うのに……。
相手はバースノンク国の姫様であるのが面倒くささ極まれりといったところだ。
絶対になにかしらのいちゃもんをつけてくるに決まっているが、放置も出来るわけないのでとりあえず牢屋にいてもらおうと言うわけである。
グランが兵士に指示を出し、丁重にお姫様を牢屋には込んでもらうことになった。
「牢屋にはいる前にひとつ聞きたいことがあるの」
屈強な兵士相手に無駄な抵抗をして逃れようとしているブーティカにオリーが声をかける。
ブーティカはオリーを睨み付け、今にも噛みつきそうであるがオリーは一寸も怯むようすを見せない。
「シェナが行方不明となり、カフが重傷を負いました。この二件の犯人、それは貴女ですか?」
「だったら?」
ブーティカが嘲るように言う。
オリーは眉間にシワを寄せ、ため息を吐いたかと思うと袖口に隠してあった銀に輝く刀身をもつ短剣を取り出し、ブーティカの喉元に当てた。
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