20 バルドーナ家

シェナ視点


最近、辛いことばかりで嫌になってくる。


 それどころか偶然か必然か花瓶がオリーの頭に向かって落ちてくるとか、魔法の稽古をしていた者達の魔法がオリーに飛んでくるとか……。


 言い出したらきりがないレベルで事故が発生していてわりと辟易している。


 一応、ネジュにいって調べるようにいってあるけれど、どれもこれもきな臭いらしい。


 その証拠にグランさんの方から制裁のストップがかかったので、多分だけどグラン自信がなにかをするつもりなんだろうな……。


 あの人を敵に回すとか恐ろしい……。


 話をかえよう。


 王宮ではラージェナシュタン様とブーティカ様のことで持ちきりで、町では凍りづけになったせいでバルドーナ伯爵家の話で持ちきりだ。


 聞きたくないのに、耳に入ってきてしまう。


 書類を届けにいったりだとか、誰かの部屋にお邪魔するためだとか、どうかを歩いていると並んで歩いているお似合いの二人の姿も目にはいってくるのもなかなかにつらいものだ。


 これで、もう少し二人が一緒にいるところが視界に入る頻度が低ければ、まだよかっただろうに……。


 私が避けたとしても自然と情報が集まってくるのでしかたがない。


 だって、若いメイドはこう言う話が好きだからだ。


 あの二人のことを私がどうこういうこともできないから、一生このまんまなんだろうな……。


 私は今の職から離れる気はないし、ラジェ以外にいい人が見つかるとは到底思えない上に、ここまでこじらせてしまったら……ね?


 いやぁ、子供の頃はまさかこんなことになるとは到底思わなかったなぁ……。


 貴族は政略結婚が当たり前で、恋愛結婚が許されるなんて利益があるだとか、そこら辺を気にしなくてもいいとか、そんなのが理由。


「昔の私が見たら夢物語だと思うだろうな」


 ブレナ殿と防衛戦線の話をしても、紅茶を飲んでても、意気消沈している私に気分転換に言ってこいとオリーに部屋を追い出され、城をふらふらと歩く。


 あぁ、本当に気分が悪い、目眩がする。


 視界が明滅し、おもわず千鳥足を踏んでは壁にもたれ掛かる。


 あれ?これ、本当にヤバイかも?


「はぁ……」


 さすがにダメだと判断し、いい感じに日の当たる場所に置かれているベンチでゆっくりとしてるとブーティカ様が現れた。


 私は驚きつつも立ち上がる。


「そこの貴女」


「は!どうかなさいましたか?」


 嫉妬と言う醜い感情をぶつけてしまいそうになってしまうから、できればかかわり合いになりなくないのだけれど、こればかりは立場上しかたないでしょ……。


「この国の名物に琥珀糖なるものがあるのよね?」


「えぇ、オーロラをモチーフとしたものが良く売っておりますね」


「それを買ってきてくれないかしら?貴女以外誰も捕まらなくて困っていたんですの」


「私が、ですか?」


「そう、だめかしら?」


 正直、体調的に辛いものがあるが断るわけにもいかないだろう。


「承知しました。指定などはございますか?琥珀糖は砂糖の塊ですので、甘いですよ」


「ないわ。貴女のオススメでお願い。帰ってこれたら、コーヒーをお願いしようかしら」


 帰ってこれたら……?


 ブーティカ様の言い方に違和感を感じたが、立ち上がったことでより酷くなった気分の悪さに気を引かれ、すぐに気にしなくなった。


「わかりました」


 ブーティカ様と別れ、城下町に降りる。


 オリーには気分転換をしてこいと言われたし、少しくらいなら城下町におりても大丈夫だろう。


 ダメだったとき用にオリー用の琥珀糖も買っておくかな。


 はぁ、しんどいな……。


_


 オリー様に頼んで、あの調査以降もバルドーナ伯爵邸に通って何かないかと探している。


 でかい屋敷ではあるが、もう何人もの調査隊の者が探したことを考えると隠されている場所は限られてくるだろう。


 となれば、こうなった理由がわかるものがあるのは探そうとは思わないそうな場所にある、と推測してみる。


 トイレ、風呂、本棚と試して、最終的に残ったのは暖炉だった。


 灰すらも凍ってしまっているから、汚れる心配はしなくてもいいのだが覗きこむのは抵抗があるだろう場所だ。


 何かないかと探してみれば装飾に隠れる形で鍵穴があった。


 そこにシェナ様から渡された鍵を差し込んでみれば正解だったようで、暖炉の中の壁が動いたかと思えば隠し扉のになっていた。


 隠し扉の向こう側は凍っていなかった。


 四つん這いにならなければ進めないような狭い通を進んでいくと、薄暗い部屋が現れ、入った瞬間に明かりがついた。


 少し驚いたが、火がついた部分をよくよくみれば魔方陣が堀りこまれている。


 そう言う魔法か……。


 足と手についた埃をはらい、警戒しつつも探索してみれば古い書物と旦那様の日記を見つけた。


 他にもあったが呪いについてだとか、黒い魔力についての本だとか、魔法が生まれた頃の歴史についての本ばかりだったので、目当てのものではないだろう。


 人の日記を読むのは抵抗があったが、こればかりは仕方がないだろう。


 旦那様にはあとで謝ることとして、日記の中身を拝読する頃にした。


 これはいわゆる裏の日記と言うものか、悪いことが書かれているわけではないが人に見られると困るような内容が多々書かれていた。


 簡単にまとめると、最初はバルドーナ家の特徴について書かれてあった。


 時折、オッドアイという左右で色の違う瞳を持ち、魔法は体質の問題で使えない者が生まれること。


 そして、一族の大半は体が頑丈な者が多く、力も強い者が大半であること。


「……シェナ様が当てはまるな」


 ただの偶然だとは思えなくて、先を読み進めてみる。


 シェナ様が生まれてから少しした頃から黒いマントを着た来訪者が現れるようになった。


 その来訪者の目的は二色の宝石をまとった器を手に入れることであり、このままではシェナ様の命が危ないと書かれていた。


「なんで、ここでシェナ様の命が?」


 いつも誤魔化して帰ってもらっているが、これも時間の問題だろう。


 少し間が空いて、クラウン家が協力してくれることになったと書かれてあった。


 心苦しいがシェナ様を遠くの地にやり、バルドーナ一族とは関係のないように見せなければならない。


 シェナ様をポイラー領に置いてきたこと、カフがいるから大丈夫だろうという祈りにも近い文章。


 相変わらず来訪者はやってきてはシェナ様の影武者であるカルメンを渡すように言ってくること。


「黒いマントの来訪者……。邪神教?」


 そうしているうちに年月は過ぎて、ドラン騎士団の話を聞き誇らしく思っている。


 日付は最近のものになり、最近は別の来訪者がやってくるようになった。


「は?SDS?憂鬱の幹部?」


 そう名乗る者が現れ、脅しのような行為に出た。


「脅しって、凍ってしまっている家のこと?」


 そして、バルドーナ伯爵家にいへんが起こる少し前、シェナ様とカフにひどいことをしてしまったことへの謝罪、そしてカルメンを巻き込んだことへの懺悔が書かれていた。


「過去、一族が背負った業の結果?」


 日記に書かれた一文が妙に引っ掛かる。


 なにか、違う気が……。


「SDSって、都市伝説として有名な犯罪組織じゃないか。確か、カトラスから派生したとか……」


 カトラスだって、ほとんど情報の無い犯罪組織で偶然ボスがカトラスと言う剣を持っているのを見た者がいたからカトラスと呼ばれ始めたって話ぐらいしかないぞ。


 世界のあちこちでカトラスを名乗る者達が犯罪行為をしていて、みんなが怖がっている。


 ただの噂に尾びれなどが着いたのか、いつの間にかカトラスと似たような設定のSDSという架空の犯罪組織の噂が流れ出した。


 なんで、それが旦那様の日記に出てくるんだ?


「……もう一つを読めばなにかわかるかな」


 もう一つの本、それは古い書物のようなものだが表紙に保護魔法の魔方陣が書かれていることから見た目よりも、もっと昔のものだろう。


 この本、気になることがあった。


「“パンドラ”の一族について?」


 “パンドラ”、それを聞いて思い浮かぶのは厄災として知られている正体不明の兵器だ。


 なんで、バルドーナ伯爵家にこれがあるのかはわからないけれど、いままで“パンドラ”についての資料なんて見つからなかったのに、ここにあったなんて。


 シェナ様にここへ続く鍵を渡したと言うのならば、もしかしてシェナ様にこれを見てほしかったのだろうか?


 “パンドラ”なんて一つも関係がない、あの人に?


 少し悩んだが、これ以上はシェナ様に負担をかけられない。


 私が、これを読もう。


 読み進めていけば、バルドーナ家の特徴の意味も、シェナ様が狙われることになったの理由も、シェナ様がバルドーナ家を離れないといけなくなったことも、犯罪組織に狙われて理由も理解できてしまった。


「今すぐ、今すぐにシェナ様のもとにいかないと!黒いマントの邪神教の狙いは__」


 次の瞬間、屋敷の半分が吹き飛び、私は体に衝撃が走ったのを最後に意識を失うことになった。

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