18 知らぬ心

ラジェ視点


最近、シェナに避けられてしまっている。


 意気消沈しつつも、自分のやっていることと知っていることを考えればこうなってしまっても仕方がないことだから途方にくれている。


 事情を知っているのは国王である父と、王太子である兄のグランだけだ。


 シェナに避けられていることが判明したとき、兄さんは背中を撫でてくれたが言葉は一つたりともくれはしなかった。


 これは仕方のないことであるのは理解しているので文句もないもいわないけど……。


 むしろ、背中を撫でてくれるだけましだと思うべきだし……


 俺はシェナから好意を向けられているということを知っているし、俺の他に知っているとしたら義姉さんくらいだろう。


 俺もシェナに好意を向けている、いわゆるところの両片想いの状態であるが、両片想いの状態であるという事実をシェナはしらない。


 知っているのは、俺だけなのだ。


 そして、俺がシェナに好意を向けていることを知っているのは兄さんだけで……。


 いや、父さんに今回の計画について説明をされているときの反応を考えると父さんにもバレてしまっていると思ってもいいかもしれない。


 ……そんなに、わかりやすんだろうか?


 いや、今のところバレているのは兄さんと父さんの二人と小さい頃にプロポーズしたことがあるけど今はどう認識しているか不明なシェナだけだし、わかりやすいわけではないんだろうな。


 チラリと見れば、隣にいて勝手に腕を組んできたブーティカ・ヴァン・バースノンクがペラペラと面白味もない話を永遠と続けていた。


 きっと、シェナに今の状態を見られたから避けられるようになってしまったんじゃなだろうか。


 確証なんてものはないけれど、避けられだした時期とブーティカ・ヴァン・バースノンクがアニエス王国にやってきた時期が一致することから、これが原因だろうなと思う。


 まぁ、もっと前から避けられてもおかしくないようなことを、シェナの思いを知りながらもわざと名前を呼ばないだとか、冷たい態度を取っていたから文句も言えないけれどな。


 シェナ……。


 もし、俺がブーティカ・ヴァン・バースノンクと一緒にいるところを見たあと泣いていたとしたら、嬉しいけれど罪悪感がわいてくるな。


 追いかけて、背中を撫でて、思いの丈をぶつけれたらどれ程良いものか……。


 立場と現状がそれを許してくれるわけもないし、今までだって兄さんが時期王として確定するように、俺とシェナがくっついても権力的にも王位継承権的にも問題ない用にするために奔走していたと言うのに……。


 なんで、このタイミングでバースノンク国から交流の申し出なんかが出てきたんだか。


 最悪以外のなんでもないな。


「あちらのお花、とても綺麗ですわ」


「……」


「ラージェナシュタン様?」


「っ!……えぇ、そうですね」


「……」


 あぁ、だめだ。


 シェナ関連のことを考えていたら反応が遅れてしまった。


「ラージェナシュタン様はお花は好きではありませんの?」


「花、ですか?そうですね……」


 花と言われて思い出すのは王位継承権問題だとか権力だとか、全くと言って良いほど考えてなかった頃にシロツメクサで作った花冠をシェナに渡したことがあったな。


「本当に有名どころしか知りませんので、なんとも……。それに、この辺りの花は母の……王妃の趣味なので、俺はあまり詳しくないんです」


「あら、そうなんですの?ふふ、王妃様はとても趣味が良いのですね」


 それに関しては同意ではあるが、もう少しはなれてはくれないだろうか。


 触りたくもない脂肪の塊が腕に押し付けられているし、それに引っ付かれてるせいで機構的には寒いはずなのに暑くてかなわないし、動きにくいったらありゃしない。


「ラージェナシュタン様」


「どうしましたか?」


「トゥウィシュテの森からやってくる魔獣の対策って、どうなっているのかしら?」


 ……これは不安から来る質問なのか、それとも目の敵にしているアニエス王国の内情を知るための質問なのか、はかりかねるな。


 どちらにせよ、教えられることはかぎられているけど。


「国軍と各騎士団や有志の者たちが頑張っています。それから、森の方に捜索に言って原因を探したりもしましたけれど……。現状は何もわかっておらず、魔獣が襲ってきたら倒す、と言った対応になってますね」


 半分本当で、半分は嘘である。


 トゥウィシュテの森で見つかった古い形式の魔方陣が見つかり、今はそれを解読している最中であり、それと平行して湖から回収した水の成分の分析も行っている。


 トゥウィシュテの森に捜索に行った時から数ヶ月、ゆっくりとではあるが魔方陣の解析も進んでいっている。


 魔方陣は古い形式であったから余計に時間がかかったが、水の方に関しては既に分析がすんでいるのだ。


 あの湖にはあるものが溶けだしていたのだが、その成分と言うのが人の血に近く、そして魔法薬のようなものも混じっているのだ。


 その魔法薬も、全く持って資料のないものだったから特定事態はできていないのだが効果は判明している。


 それは湖の水を接種した生き物を少しずつではあるが凶暴化させる、というものだった。


 今回の騒動の原因は湖の水に溶けだしたものであることが、つい先日判明したのだ。


 ラット相手の実験だから、魔獣に出ている効果とはいささか違うかもしれないがな。


 そして古い形式の魔方陣についてだが、転移魔法とにかよった部分があること、そして湖に溶けだした魔法薬はどこから来たのかと考えた結果、転移魔法と似た効果のものではないかと考えられている。


 これからの被害を考えれば、今からすぐにでもトゥウィシュテの森に部隊を送って魔方陣を壊すべきだと言う話になっているのだが……。


 壊してしまったら犯人の特定が困難になる、と言う点で行けんが食い違い行き詰まっている。


 俺も壊さない方に賛成だ。


 確かに、犯人を特定しないかぎり被害は再び起こる可能性もある。


 それに、魔方陣を壊したところで魔獣が大人しくなるのかと言えば、いまだ不明だ。


 湖に溶けだしている魔法薬を手に入れて解毒薬を作って、確実に次に対処できるようにしたい。


 というか、二度とこんな事態が起こらないようにしたい根元じたいを潰したいから、なにもわからない状態で魔方陣を壊したくない。


「そうなんですのね……。我がバースノンク国には影響がないので、現状は人伝いに聞いた情報しか知りませんの」


「この件に関して、進んで関わりたいと言う変わり者はいないでしょうからね……」


 いるとするのならば、アニエス王国に恩をうって利益を得たい者や、今回の事件の犯人くらいだろうな。


「……私が、お父様に言って援助をして貰いましょうか?」


 口許を扇子で隠したブーティカ・ヴァン・バースノンクが誘いをかけてくる。


 ただでさえ、アニエス王国に来た理由が怪しい人物がかけてくる誘いなんか怪しさ満点でうける気にもなれない。


「父上に、話をしてみますね」


 にこりと笑って、そう返した。


「そうですわね。“国の未来を左右する話”ですもの、話し合う方が良いですわ」


「……」


 “国の未来を左右する話”か……。


「あ、ねえ、ラージェナシュタン様。聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」


「なんでしょう?俺に答えられることなら、いくらでも」


「あの……くる、何だったかしら?忘れちゃったわ。ともかく、ドラン騎士団の団長がスラム育ちって本当なのですか?」


 口許が引くついてしまうが、無理矢理にでも笑顔をはりつける。


 出た、この手の話。


「それは、どういった意図の質問ですか?」


「深い意図はありませんのよ?ただ、スラム出身の者が王太子妃の護衛だなんて、大丈夫なのかしら……と思いまして」


「……」


 たまにいるんだよな。


 スラムがあるのは俺たち行政側の不手際や力不足が理由だと言うのに、それを見て見ぬふりをして見下す愚か者。


 こう言う手合いは嫌いだ。


 仮に、“政略結婚”をするかもしれない相手だとしても、到底仲良くなれるとは思えない。




――


私がインフルになってストックの数に不安が生じたので昨日より一日二話投稿だったのを一日一話猛攻に切り替えます

すきやきは諦めました

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