10 リベア皇国

書類仕事をして、オリーの護衛をして、三日ほど過ごしていると緑色のローブが吐いた情報がこちらに回ってきた。


 緑色のローブが言っていた厄災というのは魔獣のことでも無く、トゥウィシュテの森に出現していた魔方陣でもなく、噂になっている“パンドラ”のことだった。


 緑色のローブの所属している邪神教が噂を広めているのかと思って、ネジュに確認をとるようにいったのだが、どうも違うらしい。


 噂を広めている者の特徴は黒いマントであり、諜報部隊の一人が町の住人を装っていると例の噂を流しているだろう人物と接触できた。


 聞いた話は巷に流れている噂と同じものであり、特に変わったところはなかった。


 話を聞き終えたあと、話しかけてきた人物を怪しんだ諜報部隊の者がこっそりと後をつけていけば黒いマントを着た邪神教のもとと合流して、しかも黒いマントを着たのだ。


 そのあとも、本拠地を突き止めようとしたのだが途中で察知されたことにより、尾行は中止となった。


 しかもだ、あの黒いマントの邪神教達は元々少数は元々この国にいたのかもしれないが、その大部分は国外から入ってきたのだ。


 だから、住人達から聞いた“そういえば見たことのない顔だった”もまかり通るのだ。


「それがわかったのはいいけど、また謎が増えたな」


 噂を流しているのは緑色のローブ達と敵対しており、ときには人情沙汰を起こしてすような黒いマントをきた邪神教達だった。


「噂を流し、警告をする。わかってることは共通しているのか?敵対していることには変わり無いけれど、敵対してる者どうしが似たようなことを言っているのは気になよね」


 その両方が、“パンドラ”に関することで動きを見せているのだ。


 気にならないわけもないだろう。


「それに、緑の方は“二色の宝石をまとった器”って、お伽噺や流れている情報から得たにしては随分と具体的なことを言っているし」


 何で具体的なことを知っているのかについてはいまだ分からず、これから調べていく方針だという。


 こうなれば、私がとるべき行動は一択である。


 “リベア皇国”と“パンドラ”、この二つについて調べることである。


 滅びの過程でリベア皇国の資料の一切合切は焼失してしまったが、それは厄災“パンドラ”についても同じである。


 だが、それがわかっていて学者達が何もしないわけもない。


 そもそもの話、学者なんて好奇心の塊なのだから禁止されていることも平気で調べる者はいる。


 そんな連中が何もしない方がかえっておかしいというものだ。


 リベア皇国について、そして“パンドラ”について学者達が調べてえた情報は、一部は公表され、また一部は立ち入れる者が限られた王宮の資料室に保管される。


 “リベア皇国”時代の古城周辺の国はアニエス王国と同じように“リベア皇国”のことを調べては一部を公開して、また一部を秘匿する。


 そして、情報をだすかわりに実地調査は誰も邪魔しないという取り決めがなされているのだ。


 話を戻して私が向かう資料室にある学者達の考えが全てがあっているとは言えないが、調べるべきであることには間違いないだろう。


 こちとら防衛戦線の崩壊が起こる前に現状をどうにかしたいのだ。


 役に立つかも、正確な情報でなくとも知りたいし、使える情報なら使いたと思うものだ。


 今は噂を流している黒マントと、警告のようなものをしていた緑色のローブから得た情報しかないから動く以外に無い。


 最悪、“リベア皇国”時代の古城に行くのもひとつの手段として覚えておくのもありだろう。


 一連の行動が徒労になら無いことを、一連の行動が実ることを、その両方を祈りつつ資料室の許可がおりるのを待つ。


 緑色のローブから得た情報が入っていきてすぐに資料室の利用許可を取りに行き、資料室の利用許可が出たのは翌日のことだった。


 また、例の新人にオリーの護衛をかわってもらい、私は“リベア皇国”と“パンドラ”について調べるために資料室にやってきていた。


 資料室はいつくかあるが、私が向かっている資料室は国外秘の情報があるようなところなので許可が必要だったのだ。


 扉の前に見張りがいるし、資料室の中にある資料を許可もなく持ち出すとハウさんに通知が行くシステムがあるくらい厳重な警備がある。


 とわいえ、正当な理由があれば王宮の関係者ならば利用許可は降りるし、資料を閲覧することができる。


 そんな具合の重要度である資料室、そこで私は一人で山積みの資料を漁っていた。


 資料と言っても、小難しい論文なんかが主なものだけれども……。


「う〜ん……」


 現状打破の鍵として調べるといって資料室の利用許可をもらいはしたが、書類仕事が苦手な私が一人でやるのは無謀だったかもしれない。


 “リベア皇国”や“パンドラ”についての資料を集めて読み出すこと数分、誰か知り合いで活字が得意な者をつれてくればよかったと激しく後悔していた。


 ……これ、資料を読みきるのに一体どれだけ時間がかかるんだろうか。


 とりあえず、読み進めないことには何も始まらないか。


「“リベア皇国”に関する記録が残っているのは長命な種族の国に残っており、その記録は最古の物で967年前の物である……。ほぼ千年前のことじゃんか」


 お伽噺や巷で噂になっている“リベア皇国”や“パンドラ”についての歴史は数百年前だとか、って言ってるから、あって五百年くらいかと思っていたが、これほど昔だとは…。


 国土の話に関してはお伽噺にも出ている情報の通りって感じで超大国なのか。


「この話の根拠は、“リベア皇国”時代に使われていた古城で見つかった地図が原因である。この地図には“リベア皇国”の国土について書かれており、その範囲が周辺諸国やアニエス王国などと被るため、“リベア皇国”は超大国であると言う話に繋がるのだ」


 この文が書かれた資料の下の方に模写したのだろう、“リベア皇国”時代に使われていた古城で見つかったと言う地図が書かれていた。


 う〜む、確かに、この文を書いた人の言うとおり、地形を照らし合わせるとがアニエス王国や周辺諸国にまで及んでいる。


 嘘の地図なんて書く必要はないのだし、これは未来予想図でもないのならば学者が取り上げている時点で信憑性もそれなりにあるんじゃないだろうか?


「現に、アニエス王国やプルトペア帝国、周辺諸国の中心地に“リベア皇国”時代に使われていた古城があることが証拠の一つにあげられる」


 古城といっても、ほとんど壊れてしまっていて一回と地下くらいしか残っていないけれどもね。


 ただ、城跡の大きさや周辺に散らばっている残骸から推定して、超大国に見合った大きさの巨大な城だったらしい。


 らしいと言うのは、私が遠目からしか見たことがないからだ。


 まあ、でかいのは間違いないことだ。


「“リベア皇国”に様々な種族が集まっていたことは事実である……。ってことは、今で言うメルトポリア王国みたいな感じか」


 現在、最もいろんな種族が集まる種族のサラダボウルであるメルトポリア王国と同じく、種族のサラダボウルであったという話もある。


 しかし、当時は差別意識が強く、迫害も多かったから疑われているが、当時のリベア皇国を知る十年近く前に故人となった長命種の何名かが是としたことで肯定的な意見が多い。


 種族のサラダボウルと言えば聞こえは良いが、その実は多種多様な種族をとらえ奴隷商売をしていたのではないか、なんて話もあるけれど可能性は低いだろう。


 他国から見つかった文献からすればいろんな国と貿易をしていたという話もある。


「ただ、その長命種が積極的にリベア皇国の件に関わろうとしないのも事実」


 だが、良い話の反面、ろくでもない話はついてくるというもの。


「“リベア皇国”が滅びた原因は“パンドラ”が原因だと言われている……」


 超大国、リベア皇国を滅ぼした原因である“パンドラ”は欲深く、そして醜くなってしまったリベア皇国の王族が神の怒りをかった産物だという話。


 他にも呪いの品で実験していた結果、“パンドラ”が出か上がり、不用意に作り、使ったことで破滅してしまった。


 天変地異が起きて、リベア皇国が滅びた話、


 大半が推察で、考察でもある。


 この辺りについては決定的な証拠となるようなものはなかったがゆえに、全てが考察であり、推察である。


 事実があるのだとすれば、古城の跡地にて、辛うじて残っていた地下室には強い呪いをかけられている形跡があるということ。


「やっぱり、“パンドラ”については分かってることなんて無いか。話が残るような状態じゃないものな」


 そう、“リベア皇国”は滅びた。


 一夜にして、跡形も残さずに全てが壊れた。


 “リベア皇国”の民は一部を除いて種族を問わず“パンドラ”による厄災で死んでしまい、辛うじて生き残った者達は行き場を失い、大体が飢え死にしてしまった。


 それでも尚生き残り、なんとか生活していた者達も厄災の影響を受けだんだんと衰弱し、結局のとことリベア皇国の生き残りは皆そろって死んでしまう。


 滅びの過程でリベア皇国の資料の一切合切は消失してしまったので詳しいことは何もわからず、全盛期の記録しか他国に残らなかった。


「とはいえ、千年近く前。まともな資料が残ってるかっていうと、ね」


 全盛期の記録も、あまり残っていない。


「“リベア皇国”の歴史は多少なりともあっても、“パンドラ”については全くといってもいいほど無いな」


 一夜での出来事だったために、記録できる者は誰もおらずにこの結果なのだろうが、できることならばメモ一枚でもいいから何か書き残してほしかったものだ。


「やっぱり、古城の地下を見るべきなのかな……」


 資料によれば、古城の地下にある強い呪いが掛けられている扉の向こうに何かがあるんじゃないかとも思うのだが……。


「ていうか、“二色の宝石をまとった器”って発言に関連してそうな話が微塵も見つからないんだけど、やっぱり狂言だったのか?」


 それとも別のところから来たとか?


 いや、だとしたらどこから来たんだよ……。


 “リベア皇国”以外に何を調べれば言いか分からないしな……。


 ろくに情報が得られなかったことに頭を悩ませていると頭上から声が降ってきた。


「クルシェナさん?」

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