雨
庭先で読書中に空から水が落ちてきた。
「旦那様! 夕立です! 本を持って早く屋根の下へ!」
小娘がやたら慌てた様子で手を振っている。
「夕立」
ぽつりとのばしたてのひらに水滴が落ちる。
「水?」
次の瞬間、視界が水のカーテンでにじんだ。
本が水に浸み込んでいく。
なんだ。コレは?
見上げれば、痛いほどの勢いをつけて水滴が顔を打つ。
根源はわからない。とにかく上だ。
「雨に濡れて風邪をひくなんて、男の子はみんな通るお約束ですか。ホントに旦那様はまだお子様なんですね」
後日ぐだぐだと小娘に説教された。
確かに体調を崩すような無様を晒したわけだ。しかたないことだろう。
雨という言葉は知っていたような気はする。しかし、関わりがなかった。
王都の地下迷宮にはシラサメの谷と呼ばれる階層がある。薄白い靄で視界の悪い階層だ。巻物が湿気で傷みやすいから巻物使いが嫌がっていた。
私もマッピングの術だけは巻物を必要としたからあの階層は避けたかったなと思い出した。
王都から出掛けることのある王子と聖女は『雨あがりの虹』とか言っていた……ん? 虹は雨上がりのモノだった?
「ごめんなさい。旦那様。濡れた本は救えませんでした。取り寄せられるかガートンに聞いておきますね」
「ああ」
認め難いが私は思ったより知識が偏っているのかもしれない。
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