愚者の希望
煩かった二人を思い出すことが多くて苛立たしい。
何もしないでいる時間は無駄に彼らを思い出すのだ。
読書をしていても無為に木陰に寝そべっていても、ああだった。こうだったという記憶が流れてくる。
コレがものの本で読んだ『失ってわかる大切さ』なのだろうか?
ただすることがなさ過ぎて負の思考回路になっているだけかもしれない。
あの二人は私にとって確かに在ってあたりまえの温もりだったのだろう。
そんな自覚をしたくはなかった。
自覚したからといってその旨を手紙に書き連ねあの二人へと伝えられるほど素直にはなれない。
だからなお苛立たしい。
「ああ、本当に、……バカだろう」
愚者を愚者とバカにする私自身が誰よりも愚かだ。
理解できてしまうと周りの気遣いに気がつけて立場がない。
ああ、だから今私はここに居るのだろう。
料理は、不向きだ。
掃除は、浄化魔法でいいだろう。
菜園は、倒してはいけないという魔物が出る。
迷宮にでも潜ればできることを実感できるのだろうか?
「旦那様、居間の巣から主寝室に引っ越しませんか? 寝床」
小娘が箒を手に言い出す。
「移動距離が多い却下」
客間も応接室も別にあるのだからいいじゃないか。主寝室二階らしいし。
それでも、この会話で気が付かずにはいられない。私は誰かの声を求めているのだ。
無自覚でいられたのは見ずにいられたからだろう。
温もりが欲しいわけじゃない。
私には進むべき道はまだ見えない。
小娘をもう少し理解すべきなのだろうか?
「規則正しい睡眠とお食事、適度な運動は上質な生活に必需ですよ」
小娘の言葉に苛立つ。私が折れる気になれる希望はあるのか?
◽︎▫︎◻︎
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