本
すぐ、となりで本を読む君は時々譫言のように感想をもらす。
聞かれたなら「うるさくて大嫌いだ」と応えることができただろうが君は、君達は聞いてくることがなくて私はただ静かに資料をみてい……いや、聞き方が独特だったんだ。「酷いと思うんだが、どう思う!?」と襟元を掴んでいきなり聞いてくるから怒るよりも困惑させられるのだ。
いつもの事と流すより無体であると怒る方がいいのかも知れなかったな。
小娘は食事時間に呼びにくる以外は私に干渉してこない。
それが私の希望なのだからコレは正しい状態だ。
好きな本を好きなだけ読むのもいいものだ。と言っていたのは王子だったか。私は必要だから読んでいただけの資料で好悪感情はなかったと思う。
父の財産を脅かす要因のある書類もズレた雑費の合計を修正する事もなければ、迷宮に資材を集めに行く必要もない。
食事をし、睡眠をとり、生活に必要な技術を体験して。
私は自分で何か望んだ事はあっただろうか?
無論、ひもじい事も寒い事も好まない。
父が用意した部屋と与えられる任務で、私は満足していた。
そうか。
私は王子と聖女が恋しいのか。
あんなにうるさい連中なのに。
そうか。
うるさい連中だと思ってはいたが私はあの二人に気をゆるして快い存在だと感じていたのか。
うん。
今、気がついたな。
だから、あの日を、あの二人を思って本をくる。
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