失敗させたい?

「だから、ニュー。そのあたりも必要ないんだ」

 ガートンがどこか申し訳なさそうにおなかをたわませます。

「ニューは住人のリクエストに応えることができるだろう?」

 あたりまえですよ。

「スコットは一人で生活をすることを望んでいるんだ。ニューの仕事は困ったスコットが助けを求めた時に応えることと、死なさないこと。それ以外はニューにとって自由時間というわけだ」

「お掃除やお食事の準備は?」

 ニューのお仕事ですよ?

「小娘に生活圏をウロウロされたくない。一人暮らしくらい問題ないな」

 こむすめ?

 えっと、小娘ってニューのことですか?

 サッとガートンを見るとサッと視線を逸らされました。

「では、荷物の搬入を」

 お手伝いしましょう。

「必要ない。触らないでほしいね」

 そう言って旦那様は魔法で荷物をまとめ運びはじめました。

 ジッとガートンを睨んでいるとやっぱり申し訳なさそうにおなかをたゆませます。

 いえ、そーゆーソトヅラはどーでもいいんですよ。

「ガートン?」

「あー、その、まぁ、なんだ。たぶん失敗するんだろうが一人暮らしくらい自分にもできるって主張しててな」

 一人暮らし『くらい』?

 たぶん、『失敗』する?

「田舎でのんびり予定のないスローライフ。それができないわけがないだろうっつってな」

 おそうじ。

「ああ、わかっている。ニューは不満だよな。たぶん、一週間持たないから。そしたらニューが助けてやってほしい。あいつ、仕事中毒で家事なんかしたことのないヤツでさ」

「ガートン。ニューも仕事中毒です」

 そのニューからお仕事をとりあげる。今そう言っているんですよ?

「ニュー。スコットには『できない』を知ることが必要なんだ。スコットは今までやってできない事はなかったらしくてな。家事くらい容易いと誤解しているんだよ。な。しばらくは見守ってやってくれ」

 ひとつひとつの家事は確かにむずかしいことではありませんけど。

 ローレンス邸は田舎の森の中にある家屋。周辺の管理も家事の一部です。

「ガートン、庭と家庭菜園は?」

「あー。はなれの周囲のものくらいだな。自分でやらせてやってくれ」

 ですけど。それって。

「ガートン、それじゃあ旦那様はのんびり生活はできませんよ」

 旦那様ガリガリで栄養足りてなさそうですし、途中で倒れてしまいますよ?

 あと家庭菜園がダメになります。

「ニュー。頼むよ。ニューに求めているのはスコットの生存確保。一回か二回倒れれば人の手助け……つまりニューの必要性に気がつくだろうし、できない事はあるって理解できると思うんだ。な?」

 な?

『な?』じゃありませんよ。

 倒れさせてどうするんですか。

「今日のお食事とお茶はちゃんと準備しておいたんですよ?」

「ああ。ありがとう。ニュー。今日は食べずに帰ることになって残念だよ」

「ニューは旦那様の給仕をするのを楽しみにしてたんですよ?」

 スープと胡桃のパンに山鳥のロースト。町で買ってきたチーズに果実酒。野菜の酢漬けに日持ちのする甘いクッキーとスパイシーなクッキー。冒険のないありがちな献立で支度をしておきましたのに。

 ……!!

「食べずに処分されてしまう!?」

「あ、いや。帰る前にそこんとこだけは説明しておくよ。早く食べなきゃならない買い物はしていなかったはずだ。……なぁ、ニュー。俺の分もあったりする?」

 期待の眼差しにニューは冷たい眼差しで返しますよ。

「あたり前ですよ。ガートンが好きな胡桃パンと山鳥にかけるソースもありますよ」

「くそう。説明ついでにパンとソースだけ腹に入れてやる」

 そう言ってガートンが母屋へ旦那様を追っていきます。

 料理が捨てられてしまう可能性があるならガートンのお肉になったほうがいいのでしょうね。

 ニューは不安を感じつつはなれの自室に戻ります。

 旦那様に警戒されてしまうことははじめてではありませんがとてもかなしいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る