第24話 夢見る少女、故郷に帰省する
「アリア! ただいま帰りましたー!」
陽が完全に沈む前、アリアは家に辿り着きました。早速、母親のメディを探します。
「あれー? 家の中にはいないし、畑にもいなかった……買い物か水汲みに行ってるのかな?」
アリアは荷物を床に置くと、外へと向かいました。すると、川の方から大きな樽を抱えたメディが、家へと戻ってくる姿が目に入りました。
「あっ! ママー! 帰ってきたよー! 久しぶりー!」
アリアは駆け寄り、メディに飛びつきました。二年ぶりの再会に、彼女の顔は喜びに満ち溢れています。
「あらあら、アリア、おかえりなさい。夏季休暇を利用して帰ってきたのね。元気そうで良かったわ。学校はどう? 楽しい?」
メディの優しい問いかけに、アリアは満面の笑みで答えました。
「うん! とっても楽しいよ!」
「それは良かったわ。たくさんお話聞かせてね。でもまずは、家に入りましょう。樽も重いでしょう?」
「うん! お水、私が持つよ!」
「あら、ありがとうアリア。頼もしくなったわね」
二人は家の中に入り、ゆっくりと腰を下ろしました。そこでアリアは、学園で学んだことや、新しくできた三人の友達のことを話しました。メディは娘の成長を心から喜び、穏やかな時間が流れました。
「お金の使い方、教えてなかったよね。ちゃんと使えてる?」とメディが心配そうに尋ねました。
「うん! ギルド会館のお姉さんが教えてくれたから、ちゃんと使えたよ!」
メディは安心した様子で微笑みました。
「それならよかったわ。滞在はどれくらいできるの?」
「うーん、三日間くらいかな? その間、ママのお手伝いをたくさんするよ!」
「まあ、それは嬉しいわ! ちょうどお野菜の収穫をしようと思ってたの。明日手伝ってくれる?」
「もちろん! 任せて!」
「頼りにしてるわ、アリア」
そして、翌日のお昼、約束通りアリアはお野菜の収穫を始めました。
「わぁ! お野菜がいっぱいできてる! ナスにピーマン、オクラ、きゅうり! 夏の恵みがたくさんだー!」
「やり方、覚えてる? お野菜には優しく、感謝しながら収穫するのよ」
「もちろん覚えてるよ! ママに教わったことだもん!」
メディはアリアの頭を優しく撫でて、「偉い偉い、さすが私の娘ね」と言いました。
「えへへ」
二人は楽しくおしゃべりをしながら、お野菜を収穫し終えました。そして、日が沈む頃、夏の日差しがまだほんのりと残る台所で、アリアとメディは新鮮な夏野菜を手に取り、天ぷらの準備を始めました。
「まずはお野菜さんを丁寧に洗いましょうねぇ」と、メディは野菜を手に取り、優しく洗い始めました。
「知ってるよ、ママ!」とアリアは自信満々に言いましたが、メディは微笑みながら言います。
「お料理も戦闘も、基本が一番大事なのよ」
「分かった!」とアリアは少し照れたように頷きました。
「アリアは本当に物分かりが良くて、いい子ね。さて、洗い終わったら、しっかり水気を拭き取るのを忘れずにねぇ」
メディはお手本を見せるように、丁寧に野菜の水気を拭き取ります。それを見たアリアも一生懸命に真似をしながら、野菜を洗い、しっかりと水気を拭き取りました。
「はい、よくできました。次はお野菜を切るよぉ。まずはナスを縦に半分に切ってから、斜めに薄くスライスしてみましょう」
「はーい!」
――三十分後――
アリアは揚げたての天ぷらを皿に美しく盛り付け、仕上げに軽く塩を振りかけます。サクサクとした衣の中で、夏の新鮮な野菜たちの旨味が一層引き立っています。シンプルながらも、季節の豊かさを感じさせる一品が完成しました。
「わーい! 完成だー!」
「アリア、本当にお上手にできたわね。偉い偉い」
母親に褒められ、アリアは嬉しそうに顔を赤らめながらも、誇らしげに笑いました。
「それじゃあ、いただきましょうか。いただきます」
「いただきまーす!」
アリアは母親との久しぶりの食卓に、心を躍らせながら、天ぷらに箸を伸ばしました。
「アリア、とっても美味しいわぁ! サクサクで最高ねぇ」
「ママの教え方が上手だったからだよ。ほんとに美味しい!」
そして、食事が終わり、アリアがふと何かを思い出したかのように言いました。
「ママ! 学園長にお手紙、ちゃんと渡せたよ!」
「あら、本当に? そういえば、そんなことを頼んでたわね。カイアス先生、学園長になったんだなんて、すごいわ!」
メディはお手紙をお願いしていたことを少し忘れていた様子ですが、驚きと喜びが混ざった表情を見せました。
「学園長は何か言ってた?」
「後でゆっくり見るねって言ってたよ? あとね、学園長が近くに来た時、このペンダントが緑色に光ったの!」
「へぇ、それは不思議ね。どんな風に光ったの?」
アリアは、その時の状況をメディに詳しく説明しながら、その特別な瞬間を思い出していました。
「なるほどぉ、アリアがつけているペンダントとブレスレットね、それはね、昔アリアが生まれたばかりの時に、パパが持ってきてつけてくれた物なの。だから、光るなんてママは知らなかったわ。ごめんね」
メディの言葉を聞いたアリアは、驚きと喜びが混ざった笑顔を見せました。「このペンダントとブレスレット、パパからの贈り物なんだぁ! 嬉しいなぁ!」
「そうなの。パパはアリアが生まれた時にはそばにいてくれたのよ。そして、三年後、アリアの誕生日の日に旅立ったの」
「そんなに前だったんだぁ。全然覚えてないやぁ。パパ、冒険者として忙しいんだね。いつか会えるといいなぁ」
アリアの無邪気な言葉に、メディは一瞬だけ悲しげな表情を浮かべましたが、すぐに微笑みを取り戻しました。
「アリアが小さかったから、覚えていないのも仕方ないわね。でも、今はしっかり休んで、明日の朝に備えましょうね。早く寝るのよ」
「うん! 分かった! ママ、一緒に寝よ?」
「もちろん、いいわよ」
夕食の後片付けを終えたアリアは、お風呂を済ませ、メディと一緒に布団に入りました。
「ママ、おやすみなさい」
「おやすみ、アリア」
翌朝、陽が昇り、旅立ちの時が訪れました。
アリアは少し早めに王都へ戻ることにしました。シュルト市長のおかげで早く到着できる予定なので、気持ちにも余裕があります。
「ママー! 行ってきまーす!」
「気をつけて行ってらっしゃーい! ちゃんと人には手加減するのよー!」
「分かってるよー! 今度は冬の長期休みに帰ってくるねー!」
「はーい! 待ってるわねー!」
こうして、アリアは元気いっぱいに母親に別れを告げ、再び王都へと向けて旅立ちました。
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