第23話 カナトとシラハの特訓


「剣と魔法の合体技!『魔剣斬撃波』!」


 カナトは新たに習得した必殺技で、物理攻撃が通じないゴーストナイトを打ち破った。


 私たちは今、荒廃した古城に来ている。誰も近寄らないこの場所に足を運んだのは、カナトの魔法剣士としての特訓を行うためだ。ゴーストナイトは危険度二の魔物で、剣を操る上に物理攻撃が通じないという厄介な特徴を持っている。


 物理無効の相手をどうやって倒すかが今回の課題だったが、カナトは新たに編み出した必殺技でその難題を見事にクリアしたのだ。


 『魔剣斬撃波』は剣に自身の魔力を込め、その魔力を刃として放つというシンプルながらも強力な技だ。


 カナトとガッツさんは、拳を軽くぶつけ合って互いの健闘を讃え合っているようだった。


 一方、彼らが戦っている間、私とシラハは魔力のコントロール練習をしていた。シラハは回復やバリアの魔法は得意だが、攻撃魔法には苦手意識があるらしく、一点集中で魔力を放つ訓練に励んでいた。


「少し休憩しようか」と私が声をかけると、シラハは魔力を解放し、リラックスした姿勢に戻った。


「ご指導ありがとうございました!」


「大丈夫だよ。今日もお疲れさま」


 シラハは汗を拭き、一息ついた。


「ノベルさんがよく、冒険者育成学園に通うように勧めていましたが、私たちもう十四歳なので、もう通えないんじゃないかって思ってるんですが、どうなんでしょう?」


「それは違うよ。冒険者育成学園は年齢に関係なく通えるんだ。十五歳で入学する人もいれば、二十歳を超えてから通う人もいる。あくまで十二歳から通えるってだけだからね」


「なるほど、そういうことだったんですね。じゃあ、私たちも通おうと思えば通えるんですね。ノベルさんも通っていたんですか?」


「うん、一年間だけね。辞めた後は、書類整理の仕事をしていたんだ。今はこうして冒険者として活動しているけどね」


「どうして一年間だけだったんですか? 三年間通うのが普通ですよね?」


「うん、卒業まで通えば三年だけど、育成学園は冒険者を育てるだけの場所じゃないんだよ」


「そうなんですか?」


「そう。学園は厳しいから、途中で辞める人もたくさんいるんだ。そんな人たちが次の仕事に就けるように、戦闘以外のいろんなスキルを教えてくれるんだよ」


「なるほど……。ノベルさんはどうして一年で辞めてしまったんですか?」


「私は昔から人と話すのが苦手でね。親に無理やり学園に入れられたんだ。最初はもっと早く辞めるつもりだったんだけど、そんな私を受け入れてくれた人がいたんだよ」


 私は頭に付けていたストアイレチアのブローチを手に取り、話を続けた。


「これを贈ってくれたのも、その彼だったんだ」


「素敵ですね! その彼は今どこにいるんですか?」


「彼は今――天国で、きっと楽しく冒険しているんだろうね」


 私の言葉に、シラハは両手を交互に交差させながら「あわわ」と慌てて、申し訳なさそうな顔をした。


「聞いちゃってすみません! 思い出したくないことですよね!?」


「大丈夫だよ。もう随分昔のことだからさ」


「そうなんですね……」と彼女は一言つぶやき、特訓を続けるガッツさんとカナトの方をじっと見つめた。その姿からは、何か考え事をしているようにも見えた。そして、少し強張った声で私に再び声をかける。


「そ、その……その方の話、もし良かったら聞かせてもらえませんか?」


 シラハは自分の心境を重ねて、いずれそんな未来が来たとしても後悔しないように、そう尋ねたのだろう。


「いいよ。別に面白い話でもないけどね。これは、私が学生だった頃の話さ」


 私はシラハに、過去の思い出を語り始めた。


「彼と初めて会ったのは、冒険者学園に入学してすぐのことだった。誰とも話せず、ずっと一人で席に座っていた私を、彼が気にかけてくれたんだ。それで冒険に誘ってくれて、魔物退治にも連れて行ってくれた。そして、誰かと関わることの楽しさを教えてもらったんだ」


「素敵な方ですね!」


「うん、そうだね。その人はいつも口癖のように『古代文明ってロマンがあるだろ?』って言ってたんだ」


「男の子が好きそうなテーマですね」


「そうだね。宝箱の中には特別な力を持った魔道具があるとか、ないとか。彼が探していたのは、この世界と別の世界を繋ぐ魔道具だったみたい。まあ、結局見つけられなかったけどね」


 彼の夢は、どこかの遺跡に眠ると言われている伝説の魔道具を探し出すことだった。依頼をこなしながら、古代文明の遺跡を調査していた。私にはロマンの意味はよく分からなかったけど、彼の夢を応援していたんだ。


「そんなすごい魔道具があるんですね。ロマンは感じますが、私は欲しいとは思いません。別の世界から悪い魔物がやってきたら困りますし」


「確かに、それは怖いね。彼は他にも、妹を驚かせたいとか言ってたっけ」


 私はシラハに、彼が魔物との戦闘で命を落としたことを伝えた。


 強くて賢かった彼が魔物にやられたと報告を受けたときは、信じられなかった。いや、信じたくなかったのかもしれない。思い出すのはやっぱり辛いけど、どうしても避けられない部分だ。


「辛いお別れの仕方ですね。冒険者である以上、避けられないことなのかもしれませんが」


「そうだね。彼の死をきっかけに、私は学園を辞めたんだ。あのときは、何もかも嫌になってしまってね。でも今は、あの決断を後悔しているよ。だから、シラハたちには同じ後悔をしてほしくないんだ。プロの先生からしっかり教えてもらったほうが、絶対にいいからね」


「ノベルさんの教え方も上手です! でも、お金が……」


「お金の心配はしなくていい。私が出してあげるよ。だから、来年チャレンジしてみるといい」


「さすがに出してもらうのはダメです! 来年までに、依頼をこなしてお金を稼ぎます!」


(本当にしっかりした子だな)


 そんな話をしていると、カナトたちが戻ってきた。


「ノベルさん、俺、お二人のおかげで強くなれました! 早くこの力を試したいぜ!」


 カナトの発言に、ガッツさんは笑いながら言う。


「おいおい、魔力の斬撃みたいなのを一回飛ばしただけでへたれてるようじゃ、まだまだガッツが足りないぜ!」


「ガッツさん、厳しい……」


「そうだよ、あんまり調子に乗らないの。ほら、手を出して。魔力回復してあげるね」


「お、おぉ……サンキュー」


 シラハはそう言ってカナトの手を取り、魔力を回復させた。魔力を他人に渡すには、かなりの魔力コントロールが必要だが、シラハはそれを簡単にやってのける。彼女には、やはり才能があるのかもしれない。


「あ! シラハちゃん!」


 そのとき、懐かしい人物が声をかけてきた。


「アリアちゃん! 久しぶりー! 元気だった?」


「うん! 元気だったよ! シラハちゃんは?」


 姿を見せたのはアリアだった。数年前に出会って以来、ずっと会っていなかった後輩だ。


「久しぶりだね、アリア」


「ノベルさんだー! お久しぶりです! あとカナト君と、ごっつい人!」


「ガッハハ! 俺の名前はゴッツじゃなくてガッツだぜ!」


 相変わらず元気いっぱいな子だな、と私は思った。アリアは王都の冒険者育成学園に通っていて、そこで一生懸命頑張っているようだった。王都の育成学園に通えるなんて本当にすごいことだ。そんなアリアに、カナトが一つお願いをする。


「アリアさん! 俺、あれから強くなったんです! 手合わせしてくれませんか?」


 カナトの言葉にアリアは「うん、いいよー!」と明るく答えた。


 そして、二人は手合わせをすることになった。


 ルールはシンプルで、相手を降参させたら勝ち。カナトは早速、先ほど習得したばかりの技を放つ。


「俺の必殺技をくらえー! 『魔剣斬撃波』!」


「えいっ!」


 カナトの魔力の斬撃を、アリアは杖を軽く振ってあっさりと破壊してみせた。


「えぇっ!?」


 驚きを隠せないカナトに、アリアはすかさず攻撃を仕掛ける。


「じゃあ、行くねー!」


 アリアはカナトとの距離を一気に縮めながら駆け寄った。カナトも息を切らしながらアリアに向かって走り、剣を思いっきり振るうが――。


「あれ?」


 アリアはその剣を片手で簡単に止めてしまった。


「カナト君って、剣使ってたっけ? えいっ」


「ガハッ」


 アリアは杖でカナトのお腹を突き、強烈な一撃で彼を倒してしまった。


「ま、参りました……」


「わーい! 勝ったー!」


 アリアの戦闘に一切の隙はなかった。これほどまでに強いとは、やはり王都の育成学園の教育が優れている証拠だろう。


「二人ともお疲れ様。今日はこれで終わりにして、みんなでご飯に行こう。アリアも一緒にどうだい?」


「食べるー!」


 そしてその夜、私たちは五人で楽しい食事の時間を過ごした。


 アリアは夏季休暇を利用して家に帰省しているそうで、また会うことを約束し、私たちはそれぞれの道へと解散した。

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