第22話 私たちはフェアフォー


 ソフィアは電動ドリルを使って、砂浜に人が入れるくらいの大きな穴を掘っていました。それを見て不思議に思ったメルジーナが尋ねます。


「ソフィア、あんた何してるの?」


「ウミガメさんのお家を作ってあげようと思ってね」とソフィアはさりげなく答えました。


「ふーん、珍しいことしてるのね」とメルジーナは少し興味を示しながらも、特に気に留めませんでした。


 ソフィアは準備が整うと、ツバキにアイコンタクトを送ります。ツバキはそれを受け取って頷き、「ごめんなさい」とだけ呟いて、メルジーナを突然押しました。


「えっ?」


 驚いたメルジーナは、掘られた穴にすっぽりと落ちてしまいました。「何ですのっ!?」と叫びながら暴れますが、動きが取れません。


「楽しい楽しいアトラクションさっ」とソフィアは言いながら、メルジーナの口を布で軽く塞ぎ、少し離れた場所にスイカを置きました。


 その間にツバキはアリアを連れてきました。「優しくしてあげてね」と囁くように言うと、アリアは「うん! 分かった!」と明るく答えました。


 埋められたメルジーナは必死に顔を左右に振り、逃げようとしますが、穴の中で動くことができません。ソフィアは悪戯っぽい笑みを浮かべながら、指示を出します。


「アリア、そのまま真っ直ぐ行けばスイカがある。私がいいと言ったら振り下ろすんだ」


「分かった!」とアリアは元気に返事をし、一歩一歩慎重に進んでいきます。


 メルジーナの顔には、徐々に恐怖の色が浮かび上がります。


「そうだ、そのまま真っ直ぐ……。よし、ストップだアリア。さぁ、今だ!」


「えいっ!」


『ドーン!』とまるで爆発音のような轟音が辺り一帯に響き渡り、砂嵐が巻き起こりました。


 アリアの振り下ろした竹刀は、見事にスイカを真っ二つにしました。しかし、砂嵐が収まった後、アリアが目隠しを外して見たのは、穴の中で気絶しているメルジーナの姿でした。


「あれ? メルジーナちゃん? 何してるの?」と不思議そうに尋ねるアリアに、ソフィアは悪戯っぽく微笑みながら答えます。


「メルジーナは今、日向ぼっこをしているのだよ。さて、粉々になったスイカは、食べられる部分だけでも頂くとしようか」


 そして、三人は笑いながら、スイカの残った美味しい部分をしっかりと楽しみました。


 すると突然、海の方から『バッシャーン!』と大きな波音が響き渡りました。アリアたちが振り向くと、そこには十メートルを超える巨大なタコの魔物が現れていました。


「うわぁ、でっかいタコさん!」とアリアが驚きの声を上げます。


「大きいですね」とツバキが冷静に応じます。


「今夜はたこ焼きパーティーだな」とソフィアが淡々と呟きました。


 その瞬間、押し寄せる大波がアリアたちを襲いかかります。


「すごい波だね」とアリアが楽しげに言います。


「すごいですね」とツバキも続けます。


「君たち、感心している場合ではないぞ。メルジーナが気絶して動けないから、二人であいつを倒すんだ」とソフィアが冷静に指示します。


「分かった!」

「御意」


 タコの魔物はその長い触腕を伸ばして、アリアたちに攻撃を仕掛けてきます。アリアはすかさずその触腕を掴みました。


「アリア、そのまま引っ張って陸に上げるんだ」とソフィアが指示を出します。


「分かった!」とアリアは力強く返事をし、全力で引っ張ります。


「んーっしょ! んーっしょ!」とアリアが力を込めると、タコの魔物も負けじと抵抗しますが、アリアの圧倒的な力には敵わず、ついに陸まで引きずり上げられてしまいました。


「よくやった」とソフィアが褒めながらも、ふと思い出したように尋ねます。「ん? そういえばアリア。杖はどうした?」


「置いてきちゃった! てへっ!」とアリアが少し恥ずかしそうに笑います。


「ちょっと待っていてくれ」と言い残し、ソフィアはビーチパラソルの方へと向かいました。


 ツバキは迫り来る触腕を次々と切り落としていきます。その姿は冷静で、まるで舞を踊るかのように滑らかです。


「アリア、これを使うんだ」とソフィアが叫びながら駆け寄り、メルジーナの剣を手渡します。


「剣? 私、剣あんまり使ったことないよ?」とアリアは少し戸惑いますが、ソフィアは「素手よりかはマシだと思うぞ」とツッコミました。


「分かった! ありがとうソフィアちゃん!」


 アリアはその剣を力強く一振りし、魔物の触腕を薙ぎ払いました。


「いっくよー!」


 魔物はアリアに向かって再び触腕を振り下ろしてきますが、アリアはそれを華麗に避けながら切り裂きます。彼女は次の瞬間、飛び上がり、魔物の頭に向かって一撃を加えようとします。


「あれっ?」


 しかし、攻撃が入る直前、魔物は素早くアリアの腰を触腕で絡め取り、捕らえてしまいました。そして、アリアに向けて大量の墨を吐きかけます。


「わぁぁっ! 真っ黒になっちゃったー!」アリアは視界を奪われ、剣をブンブンと振り回しますが、なかなか敵に当たりません。


「アリアちゃん!」ツバキはアリアを助けようとクナイで応戦しようとしますが、複数の触腕が彼女の行く手を阻みます。


「しまったっ!」背後から忍び寄る触腕に、ツバキは捕まってしまいました。彼女は必死に抵抗しますが、触腕の力は強大です。


 その間、ソフィアは急いで気絶しているメルジーナの元へ駆け寄ります。


「おい、メルジーナ! 起きるんだ!」ソフィアは彼女の肩を力強く揺さぶります。


「ん? あれ?」ようやく目を覚ましたメルジーナが状況を理解する前に、ソフィアは彼女に剣を差し出しました。


「ほら、いつもの剣だ。寝ぼけてないで行ってこい」


 メルジーナは剣を受け取り、呆れた様子で「はいはい」と返事をしますが、目の前にそびえ立つ巨大なタコの魔物に目を見開きます。


「えっ!? 何あの魔物!? でかっ!」


「タコ型の魔物だ。倒してくるんだ」とソフィアは簡単に説明しますが、その口調はいつも通り冷静です。


 適当な説明にメルジーナは呆れつつも、戦闘態勢に入りました。


 その時、ツバキは冷静に自らの手を組み、忍術を発動します。


「『忍法・陽炎の術』」


 ツバキの体がぼやけ、幻影が生まれます。その瞬間、彼女は触腕からするりと抜け出し、再び自由を取り戻しました。


「ツバキ、今のは何だったんだ?」とソフィアが尋ねます。


「今の術は『陽炎の術』と言って、自分と周りの空気の温度を急激に上昇させる技だよ」とツバキが冷静に答えます。


「なるほど。それで魔物が触腕を放したのか。どうやら熱に弱いようだ。メルジーナ、君のお得意の炎属性の出番だよ」とソフィアが指示します。


 しかしメルジーナは、まずアリアの安全を優先しました。「まずは、アリアさんの救出が先よ!」と言いながら、真っ先にアリアの元へと駆け寄ります。


 その瞬間、タコの魔物はアリアを砂場に叩きつけました。


「ゲホッ、ゲホッ、砂が口に入っちゃったー」とアリアが苦しそうに言います。


「よ、よくもアリアさんを! 覚悟しなさいっ!」とメルジーナは怒りを爆発させ、左手の掌に炎を宿します。


「『フレイムバーン』!」


 メルジーナが放った火球は正確にタコの魔物に直撃し、魔物は燃え上がりました。


「ほぉ、やればできるじゃないか」とソフィアが感心したように言い、続けてツバキに耳元で何かを囁きます。


 ツバキは小さく頷いて「どうなるか分かりませんが、やってみます」と答えました。


 その間、アリアとメルジーナは息を合わせてタコの魔物と戦い続けました。メルジーナは炎の力を駆使して、次々と魔物の複数の触腕を切り落としていきます。


「どうよ! 残り二本になったわ! こうなったらこっちのもんよ!」とメルジーナが自信たっぷりに叫びました。


「メルジーナちゃん、すごーい!」とアリアが目を輝かせて褒めます。


 メルジーナは、アリアに褒められたことで少し照れたように嬉しそうに微笑みました。


「行くよ、ツバキ」とソフィアが指示を出します。


「はい!」とツバキが応じます。


 ツバキは再び陽炎の術を発動しました。その瞬間、ソフィアは液体の入った瓶をツバキに向かって投げつけ、ツバキはクナイでその瓶を正確に割りました。


 すると、瓶の中から、人一人を飲み込むほどの大きさの火の鳥が現れます。


「これが私が開発した化学兵器、『火鳥かちょうバーン』だ。ゼルの訓練用に作ったものを改良したんだ。さぁ、ツバキ、あとは頼んだよ」とソフィアが言いました。


 ツバキは無言で頷くと、火鳥バーンが彼女を包み込みます。


「思ったより熱くない。ローレンスさんの科学の力、お借りします」とツバキが冷静に言い、火鳥バーンの翼を得て空を飛びます。


 ツバキはそのまま加速し、巨大なタコの魔物に向かって突撃しました。


「『化学忍法・アサルトフェニックス』!」


 ツバキの一撃は、圧倒的な力で魔物の胴体を貫きました。その瞬間、タコのような魔物は『ザッバーン!』という音を立て、地面に崩れ落ちました。


 ツバキはそのままソフィアの近くに降り立ち、術を解きました。


「すごい威力だったな。よく耐えた」とソフィアが感心して言います。


「ありがとうございます。ローレンスさんの科学の力のおかげです」とツバキが感謝を述べました。


「ローレンスって長くて言いにくいだろ? ソフィアでいいさ」とソフィアが笑って言いました。


 その時、アリアとメルジーナが駆け寄ってきました。


「すごーい! 火の鳥さんがタコさんを貫通しちゃった!」とアリアが興奮気味に言います。


「凄いですわ、ツバキさん! それと、私のこともメルジーナと呼んでくださいまし!」とメルジーナも加えます。


 二人の勢いに、ツバキは少し退きながらも答えます。


「分かりました。メルジーナさん、そしてソフィアさん」


 二人は頷き、にっこりと微笑みました。


「せっかくの大きいタコだ。今日はたこ焼きパーティーといこうじゃないか」とソフィアが提案します。


「賛成!」とアリアが元気よく応じます。


「美味しいのかな?」とツバキが少し不安そうに呟きます。


 しかし、メルジーナは眉をひそめて言います。「えぇ!? 魔物料理を食べるのー!?」


「じゃあ、我々三人で頂こう」とソフィアが軽く流します。


「食べないとは言ってないわ!」とメルジーナは慌てて付け加えました。


 こうして時は過ぎ、辺りが暗くなり始めました。ソフィアがたこ焼き機でたこ焼きを作っていると、メルジーナがふと思い付きました。「ねえ、私たちのパーティーに名前をつけましょうよ!」


「パーティー名! 楽しそう!」とアリアが興味を示します。


「しかも、もうセリフも考えているわ。ただ、個人のセリフは自分で考えて欲しいの」とメルジーナが続けます。


 みんなは顔を見合わせて笑い、練習を始めました。


「じゃあ、いくわよ? せーっの!」


「「「「私たちは『フェアフォー』!身分差なんか関係のない関係!」」」」


「成り上がり貴族でも!」とメルジーナが自信満々に宣言します。


「見習い忍者でも」とツバキが続けます。


「天才美少女科学者でも」とソフィアは冷静に答えます。


「魔法が使えない田舎の魔法使いでもー!」とアリアが元気よく叫びました。


「「「「私たちは平等の存在!それが私たちフェアフォー!」」」」


「決まったわ!」とメルジーナが満足げに言います。


「わーい!」とアリアが楽しそうに笑いました。


 その後、解散する時間がやってきました。アリアはしばらく帰省するため、みんなとはしばしの別れです。


「じゃあ、また会おうね!」とアリアが笑顔で挨拶します。


「気をつけてね」とツバキが心配そうに言います。


「無事に戻ってくるんだよ」とソフィアが優しく言い、アリアは頷いて別れを告げました。


 こうして、それぞれがまた新たな冒険へと向かう準備を整えるのでした。

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