第14話 スパイクとビーリス、変わりゆく友

―初日のお昼休憩中の出来事―


 スパイク先生がいつものように、日向ぼっこをしていると、カイナ先生が近づいてきました。


「スパイク先生、こんにちは。今日も日向ぼっこですか?」


 スパイク先生は目を閉じたまま、ゆっくりと返事をします。


「ふわぁっ。あー、こんにちは、カイナ先生。お昼ご飯はこれからですか?」


「いえ、もうお昼は済ませました。少し休憩したら持ち場に戻ろうと思っているところです」


「そりゃあ、忙しいですね」


「えぇ、まあ。でも、担当外の生徒と触れ合うのも楽しいものですよ。ところで、カルナさんってどんな生徒さんなんですか?」


 カルナは最近、カイナ先生が担当する勉学教室に移ってきたため、彼女のことが気になっているようです。


「んあー、あんまり関わったことはないので、詳しくは分かりませんが、まあ、そんな感じの子ですね」


「あはは、全然分からないじゃないですか」


 カイナは少し困った様子で話を続けます。


「カルナさんって、貴族の娘さんだと聞きました。うちのクラスに馴染んでくれるか心配なんです。僕もできる限り努力するつもりですが、何かアドバイスはありますか?」


「うーん、相談する相手を間違えてますよ。俺は教師と呼べるほどのコミュ力も器も持ち合わせていませんし、そもそも貴族なんてまともな人間はいませんよ。あいつらは人間の皮を被った魔物ですから」


 スパイク先生は他の先生とは異なり、貴族を嫌っており、生徒と深く関わることは避けています。


「そうなんですね。一応、頭の片隅に入れておきます。ところで、スパイク先生はどの種目を担当されているんですか?」


 カイナ先生は会話を続けながら、普段からスパイク先生とのやり取りを大切にしている様子です。


「俺は十七時から始まる障害物走だけですよ。ゴールする生徒が多ければ、俺ら教師の給料が減らされるんですから、まったく、ビーリスの奴、余計なことをしやがって」


 この障害物走は公式なプログラムには載っていない、いわゆるシークレット種目のようです。


「スパイク先生は、まだビーリス公爵を許してないんですか?」


「許す許さないの問題じゃないですよ。昔のあいつは正義感が強くて頼りになる奴だった。でも、今のあいつは金と権力を手に入れてしまった。それが原因で、悪い方向に変わってしまったんですよ」


 スパイク先生の言葉を聞き、カイナは軽く微笑みながら空を見上げて言います。


「僕の勝手な推測ですが、ビーリス公爵は昔のようにスパイク先生に、生徒と本気で向き合ってほしいだけなんだと思うんです」


「いや、あいつは自分のことしか考えていませんよ」


 スパイク先生とビーリス公爵は昔からの知り合いのようで、ビーリス公爵が特別種目として障害物走を提案したそうです。生徒がゴールすれば高得点を与える代わりに、教師の給料が減額されるというルールを持ち込みました。


「僕はこの学校に就任して三年ですが、スパイク先生の過去については何も知りません。誰に聞いても教えてくれません。でも、他の先生たちは口を揃えて言ってましたよ。「――昔のスパイク先生は生徒に厳しい一面もありましたが、一番に生徒のことを思いやる、優しくて強い先生だったって」


「誰がそんなことを……。まあ、それは昔の話ですよ。今はのんびりとダラダラ過ごすのが好きなんです。あいつらは俺が教えなくても、ちゃんとやりますから。時代が変われば、人も価値観も変わる。それで、俺もあいつも変わったのかもしれません」


「確かに、時代が変われば人も価値観も変わるかもしれません。でも、僕たち教師が生徒の気持ちを尊重するということだけは、変わってはいけないと思うんです」


 カイナ先生の言葉を聞いたスパイク先生は、少し暗い表情を見せました。


「生徒の気持ちを尊重……ねぇ。そんなことより、カイナ先生はセレス先生にアプローチしたんですかぁ? 俺はそっちの方が気になりますよ」


「は、話を変えないでくださいっ! セレス先生は僕の憧れの女性ってだけです。それ以上でもそれ以下でもありません」


 頬を赤く染めたカイナ先生に、スパイク先生はさらに追い打ちをかけます。


「セレス先生は強くて美人ですからねー。狙ってる人は多いんじゃないですかねー? デートの一つくらい誘ったらどうです?」


「さ、誘いませんよ! では、時間なので僕は持ち場に戻ります。お時間いただき、ありがとうございました」


「お気になさらずー」


 こうして、カイナ先生は少し急ぎ足で持ち場に戻っていきました。

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