第13話 見る少女と助け合い精神?
「どうして付いてくるんだい?」
「もちろん、ソフィアの種目に一緒に参加して、私とソフィアの実力の差を直接見せてあげようと思ってね」
アリアはソフィアと共に行動していましたが、メルジーナはその後ろからしっかりとついてきていました。
「メルジーナちゃんも一緒にやろう?」
「えぇ、もちろんご一緒させていただきますわ、アリアさん!」
アリアも、二人と一緒に種目を受けられることが嬉しそうです。
「まあいいだろう。私たちの邪魔だけはしないでくれたまえよ」
「どこからその自信が湧いてくるのよ? すぐにその天狗の鼻をへし折ってやるわ!」
アリアたちが最初に参加する種目はシャトルランです。数十人のグループで行うこの競技は、待ち時間が長そうです。
その間にソフィアは、アリアに耳打ちをして何かを伝えているようでした。
「何ヒソヒソしてるのよ。今さらやっぱりなし、なんて言わないでしょうね?」
「あぁ、もちろんさ。負けた方は罰ゲームをするという話をしていたんだ」
「いいわよ。罰ゲームは何にするの?」
ソフィアの提案をすっかり飲み込んだメルジーナは、すでに勝ち誇った表情を浮かべています。
「なら、文化祭の出し物として、ゼルと漫才をやるってのはどうだろう?」
「嫌よ、そんなの。まず、ゼル本人がやりたがらないでしょ」
メルジーナの言葉に、ソフィアはニヤリと不敵な笑みを浮かべて答えます。
「それは問題ない。私が言えば、ゼルは嫌でもやるさ」
「あんたって、ほんと性格が歪んでるわね」
「お褒めの言葉ありがとう」
「褒めてないわよっ!」
なんだかんだ話をしていると、ついに順番が回ってきました。シャトルラン担当の先生がチェックシートを回収していました。そして、メルジーナは自分のシートを手渡します。先生はそれを受け取り、声をかけます。
「では、メルジーナさんまでですね。どうぞこちらへ」
一度に参加できる人数がちょうどメルジーナで締め切られたようです。メルジーナは先生に自分の意図を伝えます。
「あ、私たちは三人で参加したいので、後に回してもらって構いませんよ?」
「あら、そうですか」
先生がそう言った瞬間、ソフィアがメルジーナの背中を押しました。
「ちょっと!? 何するのよ!」
ソフィアは押したまま、薄気味悪い笑みを浮かべながら言いました。
「ほら、先生が困っているじゃないか。ワガママ言わずに行ってくるんだ」
「メルジーナちゃん、頑張ってね! 応援してるから!」
「そんなぁ、アリアさんまでー!」
一度に参加できるのは二十名までのようです。運が悪かったメルジーナは、仕方なく一人で参加することになりました。
「アリアさん、私の活躍を見ていてくださいね!」
「うん!」
シャトルランが始まり、走者が次々と脱落していく中、残りはわずか三人になりました。その中にはもちろんメルジーナも含まれていました。
ただいま、八十二回目です。メルジーナは少し息が上がっているものの、まだまだやる気満々です。
彼女はアリアに自分のかっこいいところを見せたい一心で必死に頑張っています。
「アリアさん、見てください! 私、最高得点を取ってみせますわ!」
自信満々に宣言して、アリアの方向を見ますが、アリアはソフィアとの会話に夢中で、まったく見ていない様子です。
「って、見てないー!」
大声を出したせいで、メルジーナの表情に余裕がなくなりました。
そして、八十五回目の走り出しの瞬間、ソフィアがヤジを飛ばします。
「集中したまえー! 呼吸が乱れているぞー!」
「誰のせいだと!? ――ブハッ」
メルジーナが目にしたのは、法被を着たアリアとソフィア。アリアの手には、メルジーナの顔が描かれたうちわがあり、『メルちゃんラブ』という文字が大きく書かれています。一方、ソフィアのうちわには、『ゼルとの漫才楽しみ!』という文字が書かれていました。
その姿に思わず吹き出してしまったメルジーナは、スピードが落ちてしまい、八十四回で記録が止まってしまいました。
「もう! 最悪ーーー!!!」と落ち込むメルジーナに、ソフィアは二人分の法被とうちわを差し出します。
「なによこれ」
「他の生徒に迷惑がかからないように、少し離れた場所で処分しておいてくれたまえ」
「自分で処分しなさいよ」
「そうか、残念だ。――そこの君、メルジーナグッズがあるんだが……」
ソフィアが何かを言いかけた瞬間、メルジーナは自分のグッズを掻っ攫い、「この鬼ー! 悪魔ー! サディストー!」と叫びながら、走ってその場を去っていきました。
「ふむ、まだまだ走れるじゃないか。元気があってよろしい」
「メルジーナちゃん、すごーい!」
そして、アリアたちもシャトルランに挑戦します。
―――数十分後―――
自分のグッズを処分し終えたメルジーナが戻ってきました。彼女は内心、ソフィアが八十四回も走れるはずがない、今頃地面に転がっているに違いないと思っています。ソフィアの無様な姿を一目見ようと、メルジーナはソフィアを探します。
「な、何よあれ! 反則じゃない!?」
メルジーナの目に映ったのは、ソフィアをおぶりながら走っているアリアの姿でした。そう、ソフィアは最初から自分の力で走る気がなかったのです。
メルジーナの声に気づいたソフィアは、得意げにダブルピースをしました。
「先生! あれは反則じゃないんですか!? 自分で走っていませんよ?」と、メルジーナは抗議します。
「いいえ、反則ではありませんよ? 仲間を助け合うのも、この実力考査の一環です。得意な人が苦手な人を助ける、これも立派な助け合い精神です」
「納得いかないわ……」
今回の試験に穴があると気づいていたソフィアは、メルジーナに邪魔されないように彼女を一人にしたのです。
こうして、アリアはソフィアをおぶりながら百回をクリアしました。もちろん、ソフィアもクリア扱いです。
「ふぅ、疲れたー!」
「お疲れ、アリア。よく頑張ってくれた。おかげで私がリードだ」
「これ、トレーニングになっていいね!」とアリアは喜んでいます。
「ちょっとソフィア! 正々堂々戦いなさいよ!」
「ルールの範囲内で正々堂々とやっているじゃないか。貴族の娘とはあれかね? 自分が負けると駄々をこねるのかね?」
「アリアさんも、ソフィアの言うことを聞いてはダメですよ」
「でも、いいトレーニングになるよ? メルジーナちゃんも一緒にやろう?」
「うーん、アリアさんがそう言うなら……」
なんだかんだでお昼の時間になり、一旦勝負はお預けです。三人は一緒にお昼ご飯を食べることにしました。
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